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国内eスポーツの発展に必要なのは透明性ではないか

ゲームを1つの競技と考えて、その技術を競うeスポーツ。世界では大きな盛り上がりを見せていますが、日本ではなかなか浸透していません。そんな中、国内eスポーツの統一団体が立ち上がり、プロゲーマー制度を掲げました。しかし、その動きは、必ずしも歓迎されているとは限らないようです。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

ゲーム業界ニュースガイド

日本eスポーツ統一団体とプロゲーマーライセンス

eスポーツの図

海外では、eスポーツはすでに大変な盛り上がりを見せています

ゲームの対戦を1つの競技として考え、その技術を競う大会などを行う取り組み、エレクトロニック・スポーツ、略してeスポーツが世界的に盛り上がりを見せています。日本では様々な要因から海外の盛り上がりに反して、eスポーツはあまり広がっていませんでした。

その状況を打開すべく、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)、一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)、さらには一般社団法人日本eスポーツ協会(JeSPA)、一般社団法人e‐sports促進機構、一般社団法人日本eスポーツ連盟(JeSF)の5つの団体が協力し、日本における統一のeスポーツ団体として「日本eスポーツ連合(JeSU)」が発足し、プロゲーマーのライセンス発行を開始しました。

基本的に、対戦ゲームを好む多くのゲーマーにとって、日本でもeスポーツが盛んになることは喜ばしいことでしょう。にもかかわらず、国内におけるeスポーツ統一団体の発足と、プロゲーマーライセンスの発行は必ずしも歓迎されているとは言い難い状況があります。少なくとも、賛否両論あり、歓迎というよりは大きな議論を巻き起こしています。

今回は、なぜこのような現状が起こっているかについて、日本におけるeスポーツの発展について必要なことはなんなのかを考えてみたいと思います。

高額賞金にまつわる騒動

スプラトゥーンの図

日本でもスプラトゥーン甲子園がeスポーツの大会として有名ですが、こちらは優勝しても賞金はありません

JeSUの発足とプロライセンス発行の大きな目的の1つは、日本のeスポーツにおいて、高額賞金がかかった大会を開催することです。これまで日本では、景表法や風営法、刑法賭博罪といった法的な面から、高額賞金をかけた大会は開催が難しいと考えられていました。

JeSUはこの問題に対し、プロライセンスを発行することによって、アマチュアとプロを線引きをし、プロが大会で得る賞金は商品の顧客誘引手段とはみなされない為、高額賞金をかけた大会が開けるという趣旨の説明をしています。

簡単に言うと、賞金1,000万円のゲーム大会を開くと、1,000万円を目指してみんながゲームを買うから、それは大きなお金を見せてお客さんを釣り上げる行為にあたり、日本では許されていません。でも、最初からプロとして認定された人にのみ賞金が渡されるということであれば、特定のプロが行うパフォーマンスに対し報償を出す形で、不特定多数の人をお金を餌に釣り上げる話とは意味が違うことになるという話です。

この点にあたり、ガイドがはっきりとこの説明は正しい、あるいは間違っているという話ができればよいのですが、この件における法解釈は非常に難しく、現状では白or黒と断じることができません。基本的には、大会ごとに詳細をもって、消費者庁などと適法であるか検討して運営するという作業が必要になる案件かと思います。

この点が不信感の1つであり、お金儲けの為に不正な方法、あるいはグレーな方法で高額賞金の大会を開こうとしているのではないかという疑問が持たれています。

2018年2月18日にプロゲーマーの梅原大吾氏が主催して開催された「ゲームと金」をテーマにした座談会で、JeSUの副会長である浜村弘一氏は、この点において消費者庁や関係省庁と何度も相談しているという説明をしています。浜村氏の話が正しく、消費者庁などと相談した結果、ゲーム大会で高額賞金がかけられるようになるのであれば、それは大きな盛り上がりを作る要因の1つになり、歓迎すべきことです。

であれば、日本のeスポーツにおける統一団体であるJeSUは、消費者庁とのやりとりや、お墨付きのスキームについて、詳細にわたって余すところなく開示するべきでしょう。それが今後日本のeスポーツの発展に大きく寄与することは疑いようもなく、同時に、なんとなく起きている不安感の払拭にもつながるはずです。

競技に選ばれるタイトルの意味

FPSの図

一般的には、格闘ゲームやFPSなど、運の要素が低く技術的な要求度の高いゲームが、競技に選ばれることが多くなっています

不信感の種は他にもあります。それはJeSUがeスポーツに掲げたタイトルです。プロライセンス制度は、JeSU公認大会の、JeSU公認タイトルの競技において優秀な成績を収めた人が対象になります。その認定タイトルとして最初に挙げられたのが、「ウイニングイレブン2018」「コールオブデューティー ワールドウォーII」「ストリートファイターV アーケードエディション(以下ストV)」「鉄拳7」「パズドラ」「モンスターストライク」の5タイトルです。

ストリートファイターV アーケードエディションは、まさしく高度な技術と技術をぶつけあう格闘ゲームであり、すでに海外でもeスポーツの代表的タイトルの1つとして実績がありますから、多くの人が納得するところでしょう。一方で、パズドラやモンスターストライクはもともと対戦ゲームではありませんでした。また、どちらもガチャを搭載し、いわゆるPay to Win、より多くお金を払った方が勝つという側面の強いゲームです。

もちろん、現在ではどちらも対戦に対応し、大会のために公平なルール作りなども進められてはいますが、両タイトルともに世界的には認知度も高くなく、競技性、認知度の両方から見て、わざわざ最初の5つに入れることに疑問があがります。おそらく、というか言うまでもなく、ここには少なからず大人の事情が絡んでいるでしょう。

しかし、それ自体はいいのです。どう考えても、eスポーツが発展するためには、メーカーなり、第三者のスポンサーなりが、投資以上のメリットを目論んで、お金と人を出して大きな大会を開かなければいけないからです。その算段ができなければJeSUが認定タイトルに選んでも物事は進みませんし、その算段ができたタイトルが上記の5つなんだと考えればなるほど納得の5つではないでしょうか。

問題は、JeSUが特定メーカーの利益の為にeスポーツとして認められるゲームを独占的に決定し、それを利権としていないかどうかです。その結果、ユーザーが盛り上がりたい人気の対戦ゲームが、eスポーツとして認められないことがあればユーザーはそっぽを向きます。

JeSUはそのようなことが決して起こり得ないということを証明して見せる必要があります。その為には、認定タイトルとして認められるスキーム、条件、さらには認定の要請のあったタイトル、認定される経緯や認定されなかった経緯についてことごとく公開するべきでしょう。

プロゲーマーの選別とオリンピック

ストリートファイターシリーズの図

ストリートファイターシリーズなどは、日本のメーカーのゲームということもあり、世界的に有名な日本の選手もたくさんいます。

最後に、プロゲーマーの認定についてもお話しておく必要があります。海外はもとより、日本にもJeSUが発足するよりもずっと前からプロゲーマーと呼ばれる人達がいました。前述した座談会を主催した梅原大吾氏は、最も有名な日本のプロゲーマーと言ってよいでしょう。

彼らの多くは、その技術と活動によって、eスポーツの発展あるいはゲーム業界の発展に大きく寄与した人達であると言えます。そういったすでに活躍しているプロゲーマーの人達に対し、JeSUが後からこの人はプロゲーマーである、この人はプロゲーマーでないと選別することの違和感はどうしてもあります。

この背景には2つのポイントがあります。1つはすでに説明している高額賞金について。JeSUの説明が正しければ、高額賞金をかけた大会を行うためには、どうしてもプロとアマの明確な線引きをする必要があります。もう1つはオリンピックです。

もしこれが「JeSU公認プロゲーマー」とし、JeSU公認の高額賞金大会に出場できる選手、という説明であれば大きな軋轢はなかったかもしれません。しかし、日本のeスポーツ統一団体としてプロゲーマーとアマチュアゲーマーを選別すると言えば、なぜあなたにそんな権利が、という人が出てくるのもやむ得ません。

そこにオリンピックが関係してきます。eスポーツは、世界的な動きとしてオリンピックの正式種目への道を模索しています。実は、今日本でも大きな話題となっている平昌冬期オリンピックに際しても、正式種目ではないものの、平昌冬期オリンピックの公認大会として、2018年2月5日から7日に「2018 Intel Extreme Masters PyeongChang」が平昌にて開催されています。

この大会では、開催国である韓国でも人気があり、eスポーツとして実績のあるRTS「StarCraft II」と、平昌冬季オリンピックの公認タイトルである「Steep Road to the Olympics」の2作品で競技が行われました。そして、国際オリンピック委員会(IOC)から正式にサポートを受け、試合の模様はオリンピック公式動画配信サイトのオリンピック・チャネルで配信されています。

こういった流れの中で、JeSUは遠くない未来にオリンピックへ選手を送出することを考え、日本オリンピック委員会(JOC)への加盟を目指しています。JOCへの加盟には、国内唯一の代表団体であるという条件があるため、JeSUはもともと3つあったeスポーツ団体を統合して発足された経緯があります。

高額賞金を可能にするためにプロゲーマー認定制度が必要で、オリンピックに選手を送るために国内唯一の代表団体である必要があるという流れから、統一団体としてプロゲーマーを認定する団体が急に発足した結果、今まで頑張って活動している人たちの選別を始めたような印象がどうしてもあります。

プロ認定制度も、JOCへの加盟も、eスポーツの発展に必要不可欠だとして、それを進めるにあたりどうしてもプロゲーマーの線引きが必要であるなら、それが受け入れられる土壌づくりが不可欠ではないでしょうか。

もしかしたら、プロゲーマー認定制度と共に、プロゲーマーのサポート、ゲームに集中できる環境づくりや、選手としてリタイアした後についてのキャリアについてなど、そういったことがより具体的に提示され、別の形で注目を集めれば大きく違ったかもしれません。

プロゲーマーの在り方について、これまで活躍してきた人たちを中に取り込み、その意見を尊重し進めていくべき必要があるように思います。前述の座談会において、浜村氏はこれまでゲームを盛り上げてきたコミュニティに対する説明が不足していたことについては謝罪をしています。

心から応援させて欲しい

eスポーツの図

高額賞金は手段であって、目的ではないはずでしょう(イラスト 橋本モチチ)

さて、なんとなくJeSUのプロライセンス制度に対して必ずしも歓迎されていない理由が分かってきたのではないでしょうか。高額賞金やメーカーの思惑、オリンピックといったものが非常に大きなウェイトを占め、その為にやり方が怪しく見えたり、不透明だったり、強引だったりする印象がぬぐえません。

JeSUはこれからやらなければいけないことが、少なくとも2つあるとガイドは思っています。1つは、徹底的な情報開示と説明です。おそらく、eスポーツが盛り上がった暁には、そこに大きな利益が生まれるということを考えている人たちがたくさんいます。JeSUはいかに健全性を保とうと努力しても、そういった思惑から無関係ではいられない、そういう性質の団体だと思います。

それは、誰の目からも明らかで、ユーザーもそういった雰囲気を感じ取っているからこそ、強引な展開には不信感を覚えます。ビジネスとして多くの企業が関わり、お金が回ることはとてもいいことです。でなければeスポーツの発展はあり得ません。しかし同時に、利権が生まれる場所であるという宿命から逃れようもありません。だからこそ、徹底的な情報開示がどうしても必要になります。

もう1つは、目的を明確にして共有することです。高額賞金の実現や、オリンピックの正式種目になることは、ゲームユーザーの大多数が願っていることでしょうか。ガイドはもしかすると、必ずしもそんなことないんじゃないかと思います。

eスポーツで盛り上がって、自分がそこに参加したり、好きな選手を応援したり、白熱した試合を観戦したりすることを望んでいるのであって、高額賞金やオリンピックはその手段に過ぎないのではないでしょうか。プロゲーマーにはそのパフォーマンスに見合った対価が払われるべきだと思いますが、それが必ずしも高額賞金で実現されるべきであるとは限らないはずです。その意味で、高額賞金やオリンピックの話に終始している現状はあまりいい状態には思えません。

ガイドは、もう5年以上も色んなゲームイベントを個人レベルで主催してきました。大会形式でゲームを遊ぶこともあります。その時、賞金がかかってなければ盛り上がらないのでしょうか?そんなことはありません。何もかかっていなくても、対戦となればコントローラーを握った瞬間に血がたぎりますし、そんな真剣勝負を観るのは面白いものです。そして、eスポーツを1番に支える人というのは、間違いなくそういう人達なんです。

2018年2月17日、中学生の将棋棋士として注目を集める藤井聡太六段が永世七冠を持つ羽生善治竜王と、広瀬章人八段に勝利し、第11回朝日杯将棋オープン戦に優勝するというニュースが流れました。ガイドはこの時とても悔しいと思いました。

将棋が分かれば、その凄まじさがきっとわかるに違いないのに。eスポーツが盛り上がって欲しいと思う人が見たい景色は、きっと今の将棋界で起きているような景色でしょう。みんなが好きなゲームで、最高の勝負を、当事者として楽しみたいのです。

その為であれば、1人のゲームユーザーとして、本当に心から応援したいとガイドは思います。JeSUがするべき役割は、ユーザーを含めたすべての関係する人たちが、心から応援できる環境を作ることではないでしょうか。

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