賢く生きる3分間マネーハック/賢く生きる 3分間マネーハック

年金70歳超受け取りは本当に改悪なのか

国が年金受け取り開始を70歳以降にも選べるような案を出しているそうです。これは改悪だと怒っている人もいますが、本当でしょうか。むしろ得する余地が増えるかもしれません。

山崎 俊輔

執筆者:山崎 俊輔

企業年金・401kガイド

  • Comment Page Icon

年金受け取り開始、70歳以降にすることもできるようになるかも

2月16日の閣議で「高齢社会対策大綱」が決定されました。65歳を高齢者とする区切りを見直していくよう促しつつ、60歳代および70歳代の就業を幅広く支援する取り組みが盛り込まれています。

この中で、「公的年金の受給開始時期」について「70歳以降も選択可能にする制度の検討」が盛り込まれていることがニュースとなっています。

さて、このニュース、私たちにとっては改正なのでしょうか、改悪なのでしょうか。マネーハック目線で考えてみると、意外な結論が浮かび上がってきます。

今より15%年金がカットされても、67歳以降に受け始めればなんとかなる

現在、公的年金制度は65歳への受給開始年齢の引き上げを完了させる段階に来ています。またマクロ経済スライドの政策により徐々に年金給付水準を引き下げる計画もすでに予定されています。これはインフレをしたとき物価の上昇率ほど年金額を上げないことで徐々に年金水準を下げていくしくみで、最終的には15%程度の給付を抑える計画です。

一方、公的年金には今でも「繰り下げ」の仕組みがあり、65歳以降、年金受取を遅らせるほど、年金額を増額することができます。月あたり0.7%ずつ増額され、1年先送りすれば8.4%アップ、最大で5年遅らせ70歳支給開始とすれば誰でも年金額を42%増やすことができます(最低でも66歳以降に受け始めること)。

仮に100もらう年金を5年もらわないということは、もらえていない年金が500あるということですが、70歳から142に増やした年金を11.9年もらえばその分は回収することができ、それ以降は長生きするほどお得ということになります。これが繰り下げの基本的な考え方です。

65歳の日本人は男性の平均余命が19年、女性が24年ですから、確率的には有利な「賭け」です。もちろんそれより早くに亡くなられた場合はそこで年金受け取りは終了になります(配偶者が遺族年金をもらえる場合もある)。

すでに述べた、15%相当の年金給付水準引き下げが実現したとしても、67歳まで受け取りを遅らせれば16.8%相当の年金額アップになるので、取り戻すことができるわけです。

働けるなら可能な限り年金を受け取らないのが確実に「得する運用術」になる

一見すると「70歳過ぎるまで年金を払わないというつもりか」と腹が立つニュースですが、その見方は間違いです。むしろ「今のまま65歳で受け取るもよし」「今のルールで70歳まで年金受け取りを遅らせるもよし」としつつ「70歳以降に受け取りを遅らせてもいい人はさらなる増額を検討してもいいよ」というわけですから、これは「選択の自由」でしかありません。

65歳を過ぎても働ける人、健康にまだ深刻な不安が生じていない人であれば、66歳以降に年金受け取りを遅らせていくことは「得する運用術」といえます。死ぬまでもらい続ける年金の金額は裁定請求の手続きを一度すれば確定してしまいますが、先送りすることで「年8.4%」の運用をするようなものだからです。年8%というのは公的年金や企業年金運用の目標値をはるかに上回る数値で、しかもそれが確実に手に入るのですから、これくらいお得な話はありません。

日本人の長生き度合いはどんどん増しています。女性でいえば90歳まで2人に1人、95歳まで4人に1人が生きている時代です。さらに4~5年程度の寿命の伸びは十分に予想されますから、男性で95歳、女性で100歳まで「お金のやりくり」ができるかを考える必要があり、このとき「年金を少しでも多くもらう権利の獲得」は人生最後の大チャンスなのです。

おそらく「国が年金払えないに決まっている」と65歳でもらい始める人と、68歳や70歳から年金をもらい始める人の老後は、75歳以降に大きく逆転することになるでしょう。

(筆者は、今の給付水準のまま67歳ないし68歳を標準的な受給開始年齢としたほうが政策的には正しいと思いますが、あえて国がそうしないのなら、これを国民が利用しない手はありません)

働かなくなった場合も、年金を受け取らず手元資金だけで数年過ごすことは

ところで、マネーハックの目線ではもうひとつ考えておくべき選択肢があります。それは「働かなくなったが、あえて年金の受け取り開始を66歳以降にずらし、そこまでのあいだ、手元の貯金をひたすら取り崩す」というやり方です。

仮に夫婦が同年齢で、夫婦の年金水準が月22万円だったとします(現行の専業主婦と会社員のモデル年金に相当)。これを仮に3年繰り上げれば年金額は月29.2万円に増額(年間受取額86.4万円アップ)、5年繰り上げれば年金額は月31.2万円に増額(年間受取額110.4万円アップ)されます。

月22万円を手元の貯金から取り崩して3年暮らせば792万円の取り崩しになりますが、9.2年間もらい、77.2歳の頃には回収し終え、それ以降は月29.2万円の年金で暮らせるようになります。
同様に、70歳まで5年間、預貯金を取り崩して暮らせば1320万円が必要ですが、12年もらい、82歳の頃には回収し終え、それ以降は月31.2万円の年金で暮らせるようになるわけです。

健康状況にもよりますが、数年くらい「仕事はしていないがあえて無年金で暮らして、繰り下げ年金をもらう」は選択肢になりうると思います。

少なくとも、妻の年金だけでも増額を目指してみるのはアリでしょう。だって、男性より女性のほうが確実に長生きをする可能性が高いわけですから。

まとめ 改悪と怒るより使い込む方法を考える頭を持とう

現状では、70歳以降受け取るためにはそこまで働けることが前提となります。しかし65歳以降も会社員として働ける道が開いてくれば、繰り上げの選択肢はぐっと容易になっていくでしょう。

たくさんの会社が、定年年齢、継続雇用の年齢を法律上引き上げていくことで、働きたい限り誰でも働ける環境が整うことになるでしょう。これからの時代、労働力不足は深刻なので、むしろ元気な業界から法律より早く引退年齢を引き上げていくことになるはずです。

「国はどうせ」と文句をつけているばかりではなく、自分に得する可能性はないのか考えてみるのがマネーハックの発想です。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます