4月8~30日=日生劇場
【見どころ】
『リトル・ナイト・ミュージック』写真提供:ホリプロ
『スウィーニー・トッド』『イントゥ・ザ・ウッズ』のスティーヴン・ソンドハイムが、スウェーデンのI・ベルイマン監督映画『夏の夜は三たび微笑む』を舞台化。73年にブロードウェイで初演、トニー賞7部門、グラミー賞2部門に輝いた名作が、久々に登場します。
『リトル・ナイト・ミュージック』写真提供:ホリプロ
20世紀初頭のスウェーデンを舞台にした3組の男女の恋物語で、演出には英国女優・演出家のマリア・フリードマンを招聘し、風間杜夫さん、大竹しのぶさん他が出演。筆者は以前、ウェストエンドでマリアが主演した『パッション』を観ましたが、本来の伸びやかな歌声を抑制し、“醜女の深情”劇を凄まじい情念で演じきる姿は強い印象を残しました。(本作でオリビエ賞主演女優賞を受賞)。ソンドハイムからも厚く信頼されているという彼女が、日本の俳優たちとタッグを組み、どんな世界を描き出すか。ソンドハイムのレパートリーの中でもとりわけ美しいと評される流麗な楽曲の数々とともに、大きな期待が寄せられます。
【観劇ミニ・レポート】
『リトル・ナイト・ミュージック』写真提供:ホリプロ
ワルツのリズムとともに、ラ・ラ・ラ……と、アンサンブルの男女がゆったりと声を重ねる幕開け。弁護士フレデリック(風間杜夫さん)を中心に、彼が再婚した19歳の新妻アン(蓮佛美沙子さん)、20歳の息子ヘンリック(ウエンツ瑛士さん)、かつての恋人である女優デジレ(大竹しのぶさん)とその現在の恋人カールマグナス伯(栗原英雄さん)、その妻シャーロット(安蘭けいさん)が、恋の駆け引きを繰り広げる。複雑な“6角関係”に家のメイドも加わって、人間関係のもつれは頂点に達するが……。
『リトル・ナイト・ミュージック』写真提供:ホリプロ
それぞれに恋を求める姿は真剣そのもの、でありながらもどこか滑稽。大人の恋の物語は、場面転換の度に左から右、右から左へと引かれるカーテンのサーーーっという音のように、軽やかなタッチで描かれます。軸となる3組のカップルのうち、とりわけ確かな存在感を放つのが、カールマグナス伯爵とその妻、シャーロット。前者は女優デジレの恋人で、彼女が久しぶりに再会したフレデリックといい雰囲気になったのを察して嫉妬。果ては“決闘だ!”と大騒ぎする身勝手な男の滑稽さを、複雑なメロディに惑わされず、色気のある歌声で端正に描く栗原さんが実にチャーミング。そんな伯爵の“ダメさ”加減を承知しながらも、彼を愛さずにはいられない知的な伯爵夫人を、結婚生活の痛みをシニカルに歌う「毎日の小さな死」をテーマとして、諦観を漂わせつつ毅然と演じる安蘭さんに引き込まれます。
また牧師を目指して神学を学ぶ身でありながら、頭の中は性のことばかりという矛盾を抱えた青年ヘンリックを演じるウエンツさんは、大真面目な中にそこはかとないおかしみを漂わせており、その混乱ぶりが風変わりな旋律に反映されたソロ・ナンバー「Later」も、ニュアンスたっぷりに歌唱。そして風間さん、大竹さんが、年齢を重ねれば重ねるほど不器用さを増してゆく恋を、ちょっとした台詞や動きで絶妙に表現。彼らが何気なく発する台詞は、フレデリックの「ベンチに座っていたら、人生が終わってしまった」等、味わい深いものばかりです。そして訪れる、人生の悲喜こもごもを映した幕切れ。誰かと分かち合い、語り合いたくなる作品です。