『GEM CLUB2』
3月16~18日=シアター1010(プレビュー)、3月24日~4月5日=シアタークリエ、4月14~15日=サンケイホールブリーゼ、4月18日=日本特殊陶業市民会館『GEM CLUB2』(C)Marino Matsushima
【見どころ】
日本を代表するエンターテイナーの一人、玉野和紀さんが作・演出・振付・出演を務める人気シリーズ『CLUB SEVEN』。ダンスに歌、コメディにミニ・ミュージカルと様々な要素が詰め込まれたこのシリーズのDNAを受け継ぐショーとして、16年に登場したのが『GEM CLUB』です。華と実力を兼ね備えたスターたちが中心の前者に対して、『GEM CLUB』では“若き才能の原石”が過半数。ベテラン勢の“腕”に対して、体当たりで臨む姿が話題となりました。
『GEM CLUB2』(C)Marino Matsushima
今回もフレッシュな“原石”たちが、壮一帆さんら、既に押しも押されもせぬスターたちと共演。玉野さん作のユーモア溢れるスケッチ集も楽しみですが、何より“原石”たちがどこまでスターの煌めきに迫れるか、が第一の見どころとなりましょう。
【観劇レポート】
『GEM CLUB2』(C)Marino Matsushima
冒頭、スタイリッシュな音楽に乗って3人のダンサーが踊り始めたと思いきや、彼らは“やる気が出ない”とばかりにストップ。かつてここGEM CLUBに集っていた若者たちが、この2年で次々巣立ち、今や総支配人タイガー(玉野和紀さん)、チーフのアクア(原田優一さん)、そしてロードナイト(中河内雅貴さん)の3人だけになってしまったのです。新オーナー、ダイヤ(壮一帆さん)の命を受け、3人は町に繰り出し、新たな才能を探すことに。
『GEM CLUB2』(C)Marino Matsushima
通りで絶唱していたミュージシャンに、お笑いダンサーをめざすコンビ、メイド喫茶のメイドたちに、やる気が空回りしている時代劇エキストラ……。ダイヤやタイガーたちが声をかけた若者たち(東山光明さん、木戸邑弥さん、多和田秀弥さん、本田礼生さん、松田岳さん、古田一紀さん、三森すずこさん(新垣里沙さんとのダブルキャスト))はさっそくクラブに集結、とある“ムチャぶり”課題を見事パスして、GEM CLUBの新メンバーと相成ります。
『GEM CLUB2』(C)Marino Matsushima
2幕ではいよいよ、その新人たちを交えたショーがスタート。天使の羽をつけたバイオタイトの歌物語にのせて恋物語が繰り広げられたり、前衛芸術風のダンスが突然、意表をついたナンバーへと変化したり、少女が不思議な世界に迷い込み、踊っているうちに徐々に機械仕掛けの人形のようになってしまうファンタジックなナンバーが登場したり……。
『GEM CLUB2』(C)Marino Matsushima
怒涛のように登場する多種多様な趣向もものともせず、女装も含め次々と対応する“原石たち”は頼もしい限り。スターたちも負けてはおらず、中でもマイノリティの苦しみと決意を歌うナンバーを力強く歌い、互いに素直になれないカップルのナンバーでは何気ない所作も洗練され、大人の女性の色香がこぼれる壮一帆さんが、この日は出色。もちろん玉野さんの代名詞でもあるタップもじっくり楽しめます。
『GEM CLUB2』(C)Marino Matsushima
大千秋楽までの1か月の間に、“原石”たちがどのように磨かれ、独自のカラーで輝き始めるか。彼らの“現在進行形の成長”も楽しみなショーの開幕です。
『A CLASS ACT』
3月22~25日=東京芸術劇場シアターウエスト『A CLASS ACT』
『コーラスライン』の作詞家としてトニー賞を受賞したエド・クレバンは、実は作曲家志望だった。今は亡き彼を偲んで、かつて机を並べたミュージカル・ワークショップの仲間たちが集い、彼との日々を語りだす……。ミュージカル史に燦然と輝く『コーラスライン』の作者の栄光と挫折を描き、2000年にオフ・ブロードウェイ、翌年ブロードウェイで初演された本作が、片島亜希子さんの演出、エド役に石井一彰さん、彼を巡る人々役に池谷祐子さん、中井智彦さん、秋夢乃さん、染谷洸太さん他の実力派キャストで上演されます。
もともと“バックステージもの”として、ダンサーたちの体験談をコラージュして生まれた名作ミュージカルの、さらに裏側を、エド本人が遺した楽曲を使って描いているとあって、リアルな感触は格別。今夏には『コーラスライン』来日公演も予定されているので、本作を御覧になってから観ると、さらに感慨深い体験となることでしょう。
【中井智彦さん、池谷祐子さん、染谷洸太さんインタビュー】
左から中井智彦さん(劇団四季を経て舞台・ライブで幅広く活躍)、池谷祐子さん(『ミス・サイゴン』ジジ役等で活躍)、染谷洸太さん(『bare』『レ・ミゼラブル』等で活躍)。(C)Marino Matsushima
中井智彦さん「僕らも台本を読んでこの時代のことを調べましたが、当時は様々なヒット作が生まれたことで、ミュージカルが“儲けられるもの”として、こういったワークショップで成功のシステムが教えられるようになっていたんですね。僕が演じるレーマンは、“チャーム・ソングを作りなさい”と連呼していて、魅力的な曲があればミュージカルはヒットする、と教えています」
池谷祐子さん「そういったセオリーが生まれ始めた時代なんですね」
『A CLASS ACT』稽古より(C)Marino Matsushima
染谷洸太さん「僕はいくつかの役を演じるのですが、メインで演じるボビーは、こういうクラスメートがいたかもしれない、というフィクションも入った『クラス・アクト』上のキャラクターです。エドに影響を与えた人物として、僕なりに作っているつもりです」
池谷「ソフィーも『クラス・アクト』上のキャラクターです。設定としては幼馴染で、一時期は彼女でもあったけれど道を分かち、それでもいつまでも家族のような繋がりを保っている。彼の精神の中にいつも住み続ける、ある種、抽象的な存在です」
中井「ふとエドの頭の中の光景が登場したりするのが、この作品の面白いところ。ソフィーとの恋愛が破たんして、追い詰められた時に曲が出来る。天才肌だからこそ、繊細なんですよね。そうかと思えば、ある場面では、僕らが知っている『コーラスライン』の創造過程が描かれて、作曲家と作詞家がどういうことに悩んで一つの曲を作り上げるかがよくわかる。僕ら俳優も知らない世界なので、演じていてとても面白いです」
染谷「実際に『コーラスライン』の旋律が登場するんですよ」
池谷「例えばある作品のドキュメンタリーとして、ステージの裏にカメラが入っていってバックステージを紹介するようなものはたまに目にすることがあるけれど、その前の段階、作品の生みの苦しみを見られることってなかなかないですよね。『コーラスライン』のこの曲はこう生まれてきたというのが、『クラス・アクト』ではしっかり描かれているんです。しかも、それが作者の生き方とリンクしていて。とてもよくできた作品ですし、最後に生まれてくる感情は一言では言い表せません」
中井「今まで観たことがないタイプのミュージカルです」
『A CLASS ACT』稽古より(C)Marino Matsushima
染谷「どれもすっと(体に)入ってくる音楽ですね。作曲家として名前が残っていないということが不思議なくらい。ぜひみんなに知ってほしいです。特に、本編中でエドが初めて作曲をしたシーンで作る曲が、僕は一番好きです」
――当時、彼の音楽が評価されなかったのはなぜなのでしょうか。
染谷「昔は、チャーム・ソングが一曲あればミュージカルはヒットするというセオリーが重視されていたけど、エドはそういう創作が苦手だったんですよね。今は物語が流れるように音楽も流れる作品が少なくないけれど、昔はインパクトの強いチャーム・ソングが一つあって、それを中心にミュージカルが書かれることが多かったことを考えると、もしもエドが今、生きていたら、めちゃくちゃ(作曲家として)売れてたんじゃないかと僕は思います」
中井「例えばアンドリュー・ロイド=ウェバーってとてもチャーム・ソングがうまくて、どれをとっても聴いた人の耳に残る。彼はまず曲を作って、それを与えられた作品にはめていく手法をとっていたから、『キャッツ』の“メモリー”も実は違うところで使おうとしていたという話もありますよね。エドはそれができなかった。
一方で彼には、作曲家として以上に、作詞家として非常に優れていて、歌詞の中に世界観をぎゅっと凝縮することが出来ました。劇中の創作シーンでも、実に言葉にこだわっていて、演じる人の人生を描くんだという気概が溢れています。レーマンはエドのそんな作詞家としての能力に着目してチャンスをあげて、エドは作詞家としてトニー賞を獲ることで“やっと作曲家としてデビューできる”と喜ぶのだけど、実は世に求められていたのはそこではなかった。僕も同じ表現者として、こうしたほうが分かりやすいと言われても自分としてはここにこだわりたいのに、ということがあるので、彼の気持ちはわかるような気がしますね。心が痛い。そしてそんな彼が大好きです」
染谷「僕もエドのそういう一面、いいなと思います」
池谷「他の登場人物が皆ミュージカルの業界人であるなかで、私が演じるソフィーは唯一、医師で音楽については素人。でも彼女は感覚的に、エドの音楽のすばらしさを信じ切って“あなたには才能がある”と励まし続けるんです。エドにとっても、彼女はミューズであり、音楽を生み出す源であり続けました。物語終盤で本作に込められた想いを知る時、きっと深い感動を味わっていただけると思います。いろんな仕掛けが随所に凝らされた作品ですのでぜひ二度、三度御覧いただきたいし、『クラス・アクト』を観てから『コーラスライン』をこの先御覧になると、また違った思いをいだきながら観ることができるのではないかと思います」
――片島さんの演出はいかがでしょう?
中井「今回は片島さんが翻訳も担当されているのですが、台本から彼女の演出プランがうかがえて、読みながらとても興奮しました」
池谷「作品の深いところまで全部ご存じで、そのうえで私たちに好きにやらせてくれています」
染谷「台本にパッションが溢れていて、演出家本人が訳されてるので意図が明確。何よりこの作品を愛してるのが伝わってくるし、頑固なところもあって、ここはというところはいい意味で譲らない。でも、僕らも頑固なので(笑)はい、わかりましたというのではなく、それぞれに準備してきたものを見せ合って、こういうものあるじゃないかと相談していく。その作業はとても面白いです」
中井「台本を読んだときには想像できなかった部分もあったけれど、エドを演じる石井(一彰)君がまた役にぴったりで、いいんですよ」
池谷「私は彼と10年前にスクール(東宝ミュージカルアカデミー)で一緒でしたが、10年ぶりに相対した時に、エドの大人になれない子供のようなフレッシュさ、苦悩をしっかりとウソ無く演じていました。ソフィーは彼とかなり繊細なやりとりをするため、彼を信じられないとできない役なのですが、彼がエドで“有難う”という気持ちですね」
中井「彼は演じることが本当に好きで、日々刺激をもらっています。真ん中に立つ人があれだけエネルギー持ってると、僕らもやりやすいですね」
――では今回、どんな舞台に仕上がるといいなと思っていらっしゃいますか?
池谷「エド・クレバンの人生を通して、彼が見たかった世界、見せたかった世界を私たちはちゃんと体現したいし、エドの想いが伝わったらいいなとも思いますし、お客様の人生の傍らにいる人、その人が「ing」形で与えてくれてるものにまで思いをはせていただけたら。そして、エド・クレバンという人物が確かにこの世に生きていたという事実のすばらしさが伝わったらいいなと思います」
染谷「僕は単純に、仲間っていいなと思いますし、個人的にはぜひ曲に注目していただきたいです。染谷洸太として、エド・クレバンは作詞家というだけじゃない、素晴らしい作曲家であるということを知っていただけたらと思っています」
中井「本作は“芸術というもの”を体現して見せてくれてる舞台だと思うんです。エドは自分の芸術を確立しなくちゃというところでもがいて、彼に影響したり支える人々がいて。みんながいるからこうやって、芸術が形になる、その過程を見ていただきたい。作家の、芸術に対する想いが見られる舞台ってなかなかないですよね。いわば“芸術のもがき”を見ていただけたらと思っています」
池谷「(演劇的な)仕掛けがいろいろある作品なので、魔法にかかっていただきたいですね。それが解けた時にきっと“ワオ、こういうことだったんだ”というものがあると思います」
染谷「びっくり箱みたいな作品、です」
*次ページで『リトル・ナイト・ミュージック』『In This House』『ロマーレ ~ロマを生き抜いた女 カルメン~』をご紹介します!