大原櫻子さん(大学生時代のアリソン役)インタビュー
「ヒューマンで、音楽も素敵。一瞬で心奪われた作品です」
大原櫻子 東京都出身。映画「カノジョは嘘を愛しすぎてる」ヒロイン役でデビュー、紅白歌合戦に出場。舞台『The Love Bugs』『わたしは真悟』『リトル・ヴォイス』でも活躍している。(C)Marino Matsushima
「私は3年ぐらい前からミュージカルをやっていまして、舞台のお仕事には常に前向きな気持ちがあります。そんな中で15年、トニー賞授賞式をテレビで見ていて、思わず見入ってしまったのがこの作品でした。少女時代役の女の子の歌も素晴らしかったし、内容的にも人間らしい葛藤が描かれていて。ほんの一瞬で惹かれたこの作品に今回、お声がけをいただいて、ものすごくご縁を感じましたね」
――台本を読んでみて、どんな印象を持たれましたか?
「大学時代のアリソンを演じると聞いたうえで読んだこともあって、私はアリソンのターニングポイントの時期を演じるんだな、すごく濃厚で大変だろうな、と責任を感じました。自分がレズビアンだと気づき、両親にもカミングアウトする。大事な時期をやらせていただくんだな、と覚悟をいだきながら読んでいました」
――いろいろな“読み方”の出来る作品かと思いますが、大原さんは現時点で、どういう物語ととらえていますか?
「アリソンの回想を通して親子の愛情や同性愛のことが描かれていて、どれが一番先に来るのかは難しいけれど、人生の中で出会う“葛藤”の物語なのかな、と思います。生きていると、自分の行動が“これで合っているのかな”と思ったり、自分が分からなくなる瞬間があると思うんですね。私もそうです。怖さと喜び、そんな矛盾した感情に襲われながら人生に迷う。けれどアリソンは、迷いながらも自分に自信を持ち、ポジティブに進んで行きます。そんな人物を演じられたら、観ている方に対しても、葛藤の答えそのものは提示できなくても、未来を明るくとらえていただけるのではないかな、と思っています」
――ブロードウェイでは、レズビアンを主人公とした初のミュージカルとして注目されたようですが、その部分での役作りについては?
「そういう感覚が全く分からないわけではありませんが、今のところ自分自身にレズビアンの要素は無いので、どうしたら彼女の感情を理解できるだろう、女の人を好きになるとき、どこをどういうふうに好きになるんだろう、これからいろいろリサーチしていきたいなと思っています。(ゲイやレズビアンの方は)優しい方が多いということをよく聞きますし、アリソンもピュアで知的な女の子なのかな、と想像していますね」
――シーンや台詞で、特に印象に残ったものはありますか?
「(ネタバレになってしまうので具体的には伏せますが)私はアリソンの最後の台詞が印象に残っています。お父さんに対して、自分は尊敬しているし大好きだけど、彼が何を考えているのかは分からない、そんな親子関係の二面性があらわれていると思うので、ぜひ聞いていただきたいですね。
それと、この作品は音楽が本当に素敵なんです。私自身、テレビを観ていて一瞬で心を奪われたほど。悲劇……といっていいかわかりませんが、華やかな内容ではないにもかかわらず、エンタテインメントとして魅力的なのは、この音楽によるのかなと思いますね。他にも見どころはいっぱいあって、母親が父親の秘密をアリソンに言うシーンもそうだし、アリソンが初めてレズビアンに目覚めるシーンもそうだし、父親とアリソンが最後に、二人きりで車の中で話すシーンも、絶対素敵なシーンになると思います」
――その車のシーン、リアルで胸に迫りますね。何ということのない光景と共に、ひりひりするような感覚がずっと記憶されていて……。
「本当に。家族って、ほんとは何でも言い合える間柄の筈なのに、言えなかったり、バランスがとれないこともある、ということがすごくよく描かれていますね。その時はすべてを出し切って全力で生きているつもりでも、後になって、自分は何も知らなかったのかなと気づく切なさ。でもそれが良かったのかもしれないとも思えて。後悔と安堵、その両方があって、泣けるシーンだと思います」
――今回は2018年9月から新国立劇場の芸術監督を勤める気鋭の演出家、小川絵梨子さんの演出です。
「小川さんは今回がミュージカル初演出だそうですが、もともと好きな演出家の方なのでとても嬉しいです。私はこれまで、演劇には“逃げる”演出があるなかで、小川さんにはそれがない、と感じていました。例えば、以前、小川さんが演出された舞台を観ていたら、ケーキにたくさんのろうそくが立ててあって、普通は舞台袖で火をつけたものを出すと思うのですが、その舞台は俳優さんが一本一本、台詞を言いながら全部に火をつけていくんです。こんなにリアルにやるんだ、演じる方は怖いなぁと思いました。
あと、知り合いに聞いたのですが、小川さんは稽古で何気なく歩いたことに対して“今、なんで歩いたの?”と一つ一つ確認されるそうなんですね。今回もきっとすごく繊細な演出をしてくださるんじゃないかと、楽しみです」
――どんな舞台になったらいいなと思っていらっしゃいますか?
「お話を文字にすると悲劇のように読めるかもしれないけれど、アリソンの人柄って、物凄く明るいんです。迷いはあっても否定的な考えを持つ子じゃなくて、生き方は喜劇。観ている人が楽しめるし、とても心があったかくなる、コミカルというか、前向きになれる作品にしたいなと思っています。最終的に、前に踏み出せる勇気を与えられる舞台になったらいいですね」
――大原さんの初舞台は地球ゴージャス『The Love Bugs』。生き生きと踊る姿に驚きましたが、実は大原さんはもともとミュージカル好きで、ダンスもお得意だったのですね。
「ブロードウェイに憧れて、小学一年生ぐらいからダンスをやったり、独学で歌ったりしていました。父に勧められて、ストレートプレイもよく観ていましたね。特にダンスは人に教えたりもしていたので、地球ゴージャスでは“やっと踊れる”という喜びがありました。64公演という長丁場は大変だったけど、仲間とモノを作る楽しさを教えていただいて、また舞台をやりたいと思えたし、つらさとともに楽しさのあった作品です」
――続いて『リトル・ヴォイス』では、声帯模写が天才的に上手な少女役。マリリン・モンローらのモト歌にどこまで似せるか、ご苦労もあったのでは?
「最初はもちろん声を似せたいと思っていましたが、やっぱりある程度まで来ると限界が見えて、それよりも歌い手の心、例えばマリリン・モンローの生き方や、シャーリー・バッシ―が歌をどうとらえていたかを大事にしようと思いました。声色を似せるのではなく、その人がどういうふうに生きて来たかをかなり調べましたね。彼女たちの内面がうまく表現できていたら嬉しいです」
――ミュージカルの魅力をどうとらえていますか?
「どんな悲劇も、喜劇に生まれ変わらせることができるのがミュージカル。人って、悲劇の時に喜劇を求める動物だと私は思っていて、もちろん今はそんな気分じゃないよという方もいると思いますが、悲劇の時に喜劇を与えられると人間は嬉しい。その要素としてミュージカルって、すごく効果的な手段だと思います。その中でも、人間の奥底にある毒々しいもの、美しいもの、両方描かれているヒューマンな作品が好きですね。やってみたい作品ですか? この前、映画の『ラ・ラ・ランド』を観て、いつか舞台にならないかなと思いました。舞台化されたら、やってみたいです」
――どんな表現者を目指していますか?
「これまでは有難いことに同年代のお客さんが多かったのですが、人生経験豊富な、大人の方の鑑賞にも堪えうる表現者になっていきたいです。人として、厚みのある芝居が出来る人になれたら。エンタテインメントも、コミカルな演技も、シリアスも、大人の方が感動できる作品も出来るという、いろんな引き出しを持てる表現者になりたいです」
*公演情報*『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』
2018年2月7~26日=シアタークリエ、3月3~4日=兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、3月10日=日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
*大原櫻子さん衣裳クレジット*ニット Yeti 、スカート Re.Verofonna/ヴェロフォンナ、イヤリング Mon_Amie79/Mon Amie accessory、リング CITRON Bijoux
*次ページで『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』観劇レポートを追記しています!