「いちご味」アイスクリーム、ピンク色の正体は…?
2012年、スターバックスは、人気商品「ストロベリー・フラペチーノ」の色づけに、意外な「自然素材」を使用していることを明らかにしました。ちなみに2017年時点で承認されている食品用着色料には、次の3つのタイプがあります。
- 天然着色料
- 自然界に存在するけれども工業的に生産されている合成着色料
- 自然界には相当するものがない人工着色料
コチニール色素は天然着色料に該当するもので、15世紀ごろから着色料として使われてきました。現在もカンパリソーダ、ハム、かまぼこ、ガム、いちごジャムなど、身近な食品や化粧品に広く使用されています。色素を抽出する際に残る不純物によってアレルギーを発症したとの報告もありますが、発がん性、催奇性、変異原性の試験において、安全性は確認されています。しかし、驚きや戸惑いを示す消費者もいたことから、スターバックスは別の着色料に切り替えることにしました。
味覚は色と香りにだまされる!?
スターバックスの例が示すように、現代人の多くは日常的に着色料を用いた食品を摂取しているにもかかわらず、食品用着色料の存在を気にもとめずにいます。しかし古来から、人類はおいしそうな色=食欲をそそる色を求め、料理に着色をほどこし、食文化を築いてきました。ここからは、色と味覚や嗅覚の関係に着目した研究をいくつかご紹介します。
市販の飲料を用いた実験では、視覚を遮断して飲料を飲んでもらい、何を飲んだかをたずねたところ、カルピスやピーチの正解率は50%程度でした。視覚に加えて嗅覚を遮断すると、グレープジュースやカルピスの正解率は10%程度にまで下がりました。また、濃い茶色に着色したオレンジジュースを試飲してもらうと、正答率は56%に。このように、視覚や聴覚を閉ざしたり、色を変えたりすると、味覚の判断が困難になることがわかりました。
フランスの醸造学部の大学生を対象とした実験では、赤ワインと白ワインを嗅いでもらい、何の香りがするのかを尋ねました。赤ワインはカシス、ブラックベリーなど、白ワインはレモン、アーモンドなど、それぞれのワインの伝統的な香りを答えました。
次に、白ワインに無味無臭の赤い着色料を混ぜて同じ質問をしたところ、回答は赤ワインの伝統的な香りばかりでした。ワインのテイスティングの訓練を受けたソムリエの卵たちでさえも、色によって判断を左右されることが明らかになったのです。 これらの現象を「クロスモダリティ(感覚間相互作用)」と呼びます。 視覚からの情報が味覚よりも優位に働くときに起きますが、自覚はできません。
「おいしい」色は世界共通ではない
おいしそうな色=食欲をそそる色は、文化によって大きく異なる場合もあります。そのため、さまざまな企業が消費者テストを行っています。たとえば欧米やインドで卵料理を注文すると、日本の卵に比べて、卵黄の色が白っぽいものが出てきます。なぜ日本の卵黄が黄色いかというと、日本人は卵黄の色が濃い卵を好むためです。
日本の養鶏場では、その多くが、エサに黄色の色素・カロテノイドを含むパプリカやマリーゴールドなどを加えています。このように、世界各地の養鶏業者は、消費者の好みに合わせてエサを変え、卵黄の色を調整しているのです。
流通している卵の殻の色は、大きく分けると赤玉と白玉の2種類ですが、日本人の多くは、白玉よりも赤玉のほうが栄養価が高く、高級だと感じるようです。なお、アメリカでは白玉が好まれますが、フランスでは白玉はほとんど流通していません。
色の取り合わせで「おいしく」見せる
食器の色も、味覚に影響を与えます。コーヒーカップの色によって、香りの強さや味が変わるのかを調べた実験結果をご紹介しましょう。白いカップは、青や透明のものに比べ、コーヒーの香りが強く感じられ、甘味は感じにくいことがわかりました。コーヒーの茶色が、苦味の感覚に関与しており、白いカップに入れるとコーヒーの茶色がもっとも濃く見えるため、このような結果になったと考えられます。
食器の基本色は白ですが、料理によっては、色の対比が大きい方がより一層おいしく感じられます。たとえば、和食器の定番、染付の器に卵焼を盛り付けると、藍色が卵の黄色を引き立て、卵の味が濃く感じられるでしょう。染付の器に、あっさりとしたうどんやそばを盛り付けると、すっきりとした味わいが引き立ちます。白ご飯は、濃い色の土物の器に盛り付けると、ほんのり甘味が増したように感じられます。
付け合わせの色も、料理をおいしくいただくための知恵が詰まっています。ステーキにクレソン、お寿司にガリといった定番のとりあわせは、見た目の美しさだけでなく、うま味を引き立ててくれる効果があります。
盛り付けを工夫すると、料理の腕が上がったように感じられるかもしれません。ぜひお試しください。
【参考】
- 「スタバ究極の無添加フラペチーノは昆虫風味」ニューズウィーク日本版,2012年(最終閲覧日:2017年11月24日)
- 酒井浩二「味覚判断に及ぼす視覚と嗅覚の遮断効果」京都光華女子大学キャリア形成学部キャリア形成学科酒井浩二ホームページ,2007年(最終閲覧日:2017年11月24日)
- 「脳は味覚より視覚の情報を優先する『クロスモダリティ効果』とは何か」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー,2016年(最終閲覧日:2017年11月24日)
- Gil Morrot,Frederic Brochet and Denis Dubourdie「The Color of Odors」Stanford University,2001(最終閲覧日:2017年11月24日)
- 電子報道部・河尻定「黄身が濃い卵、殻が赤い卵 栄養価が高いは誤解」NIKKEI STYLE,2013年(最終閲覧日:2017年11月24日)
- Nicolas Guéguen「The Effect of Glass Colour on the Evaluation of a Beverage’s Thirst-Quenching Quality」Current psychology letters,2003(最終閲覧日:2017年11月24日)
- 『色彩:色材の文化史』(フランソワ ドラマール・著、ベルナール ギノー・著、柏木博・監修、Francois Delamare・原著、Bernard Guineau・原著、ヘレンハルメ 美穂・訳/創元社/2007年)
- 『色の力 消費行動から性的欲求まで、人を動かす色の使い方』(ジャン=ガブリエル・コース・著、吉田良子・訳/CCCメディアハウス/2016年)
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