甲状腺異常と海藻の関係……ヨウ素不足とヨウ素過剰のリスク
甲状腺機能に異常があると海藻を控えるように言われます。島国に住む日本人は諸外国と比べて海藻の消費量が多いのが特徴です。甲状腺に問題がなくても海藻は控えるべきなのでしょうか?
甲状腺機能亢進症や低下症、橋本病など、甲状腺に異常があると、海藻を食べてはいけないといわれます。その理由は、海藻には多くの「ヨウ素」が含まれているから。ヨウ素は「ヨード」「沃素」と表記されることもあるミネラルの一種です。
喉の痛みで受診した際、赤茶色のうがい液を処方されたことのある人もいると思います。あのうがい薬の赤茶色がヨウ素です。
ミネラルは「「ミネラルウォーターでミネラル補給」は正解? 意外に知らないミネラルのこと」記事でも解説したように、体の構成成分になったり代謝を助けたりする役割をしています。このうち、ヨウ素の役割は主に3つです。
- 甲状腺ホルモンの材料となる
- 基礎代謝を高める
- 成長と発達を促す
ヨウ素は海で採れる食べ物に多く、特に、昆布、ひじき、ワカメなどの海藻類に多く含まれています。そのため、海に囲まれた島国で暮らす日本人は、海藻を多く摂取することでヨウ素欠乏にはなりにくい環境に暮らしているといえます。
日本人の場合は、ヨウ素の欠乏ではなく、過剰が心配されるといわれるのはこのためです。逆に、海のない国などに暮らす人たちは慢性的なヨウ素欠乏に陥りやすく、妊婦がヨウ素欠乏の場合、死産、流産等のほか、生まれてきた赤ちゃんに精神発達の遅延や低身長、ろう唖などの障害が起こってしまうこともあります。
ヨウ素の推奨量・耐用上限量……平均的な日本人は問題なし
食事中のヨウ素摂取量の平均は、体に問題を起こす量であることは少ないようです。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)(PDF)」によると、男女とも成人(18歳以上)において、ヨウ素の「推奨量(必要量の考え方でもっとも量が多い)」は130マイクロg(0.13mg)。これ以上摂らないほうがよいという「耐用上限量」は3000マイクロg(3mg)、妊婦は2000マイクロg(2mg)となっています。
さらに同発表では、日本人の1日のヨウ素摂取量は平均1.2mg(1~3mg)と推定されると示されています(p.337)。
以上のことから、日本人は推奨量を超えて摂っているものの、耐用上限量ほどは摂取していない、ということが分かります。平均的な日本人の食事であればヨウ素はちょうどいいくらいの量を摂取できているといえるでしょう。
海藻摂取の注意点・ヨウ素摂取の目安……妊婦や幼児はやや控えめに!
次に、海藻を使用した献立のヨウ素量の目安を見てみましょう。■一食当たりのヨウ素量の目安
ヨウ素を多く含む海藻で作る料理で計算すると、約1食分のヨウ素含有量は以下のようになります。
- 昆布巻(乾燥昆布10g) 2万1000マイクロg(21mg)
- ひじきの煮物(乾燥ひじき25g) 1万1000マイクロg(11mg)
- わかめの酢の物(カットわかめ40g) 3400マイクロg(3.4mg)
しかし、この一食分のデータを見ると、「耐用上限量は3000マイクロgなのに、昆布巻きは1回食べただけで2万1000マイクロg、ひじきの煮物も1万1000マイクロg。耐用上限量を超えてしまうけど大丈夫?」と思う人がいるかもしれません。
答えは、通常の頻度で食べている程度であればさほど心配はいりません。通常の頻度でヨウ素を一時的に過剰摂取したような場合は、過剰な分は尿中に排泄されます。甲状腺機能に異常がない限り、そこまで食生活でヨウ素に気をつける必要はないのです。
ただし、日本人を対象にした調査で、1日あたり10mg以上のヨウ素が尿中排泄されていると推定される集団は甲状腺機能低下の発生率が上昇していたという結果や、昆布出汁などで1日28mgのヨウ素を1年間摂り続けて甲状腺機能低下が認められた例の報告が「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に引用されていますので、やはり極端な摂取はせず、ほどほどにしておくのがよいと思います(※「日本人の食事摂取基準(2020年版)ではこれに関して言及がされていません)。
もう1点、胎児や乳幼児はヨウ素に対する感受性が高いとされており、平均ヨウ素摂取量の多い地域の子どもたちに甲状腺肥大症が多いことも知られています。体に異常が出るわけではありませんが、妊産婦や授乳婦、赤ちゃんや小さい子どもたちは、それ以外の人たちよりも食べる量や頻度を減らすほうがよいと考えられています。
海に囲まれた島国に住む我々日本人は、海からの恵みである海藻に古くから慣れ親しんできました。諸外国と比べれば、日本人のヨウ素摂取量は多いと思われますが、これが日本人の伝統文化の一つでもあります。
甲状腺に異常がなければ、むやみに海藻の摂取を控える必要はありません。海藻も食材のひとつとして、楽しまれるのがよいでしょう。
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