圧倒的パフォーマンスとさらに快適なドライブフィール
2006年。アウディから誕生したミッドシップ2シーターのスポーツカーR8は、当時のスーパーカー界に大きな衝撃を与えている。なぜならそれは、二人しか乗れないことを除いて、極めて“実用的”なスポーツカーだったからだ。全速度域における上質で乗り心地に優れたライドフィールと、限界域における非常に高いスポーツ性能とを、R8は見事に両立していた。当時のスーパーカーはというと、ドライビングファンを追求するのに熱心で、街乗りの快適性などは、FRのGTカーでさえ二の次だったのだ。
初代R8にはボディ骨格などにアルミニウム素材が積極的に使われていた。そのことと実用性の高さは、そもそも初代ホンダNSXと同じようなコンセプトだったわけで、ある意味、R8の登場は、日本のホンダ車ファン、スポーツカーファンにとっても、少なからずショッキングな出来事でもあった。
初代には、V8とV10の二種類のエンジン仕様があって、いずれも4WDであり、ミッションは3ペダルMTか2ペダルセミAT(シングルクラッチ、13年からデュアルクラッチ)が選べた。ランボルギーニ ガヤルドと兄弟車であるという点も話題になったものだ。
そんなR8が第二世代へと進化を果たしたのは2016年のこと。兄弟車であるランボルギーニ ウラカンを先に登場させて、というあたりは、ガヤルド&初代R8のパターンと同じ。パワートレーンや骨格の“基本設計”を両モデルは共有しており、ウラカンよりホイールベースを30mmほど延長することで座席背後に便利な空きスペースを生み出す、といったあたりの手法も、以前と同様である。生産は、アウディスポーツの新工場ベーリンガーホフで、ウラカンのシャシーとボディも同じ場所で造られている(アッセンブリはイタリアのランボルギーニ本社工場だ)。
二代目となったR8は、言ってしまえば“キープコンセプト”。初代にあったV8エンジンモデルの用意はなく、5.2LのV10エンジン搭載のみ、とした点が新しい。しかも、標準仕様が従来型+15psの540psであるのに対し、V10プラスには610psの“ウラカン”スペックユニットが積み込まれた。もっとも、お値段の方も、性能アップに準じて格段に跳ね上がっている。V10プラス仕様でウラカンLP610-4とほとんど同じプライスタグを掲げるようになった。
当然、プラス仕様のパフォーマンス、例えば加速や最高速といった性能スペックはウラカン同等レベルである。強力なV10エンジンの性能を余すところなく引き出すのは、“ボルグワーナー”供給のハルデックス第5世代電子制御4WDシステムに7段デュアルクラッチシステムだ。
ボディサイズは全長4425mm×全幅1940mm×全高1240mm、ホイールベース2650mm。価格はV10 5.2FSIクワトロが2456万円、V10プラス 5.2FSIクワトロが2906万円となる
もう一つが、いっそう快適なクルマになること、だ。実はこの項目でさえも、ウラカンに乗ってみれば容易に想像がつくものだった。ウラカン自体が、相当に快適なライドフィールを実現していたからだ。新型R8は、もっと快適であるに違いないという、ほとんど確実な期待を抱いたものだった。
「マシンを完全に支配できる」という気分に満たされる
果たして、そんな二つの予想は想像を超えて現実のものとなっていた。新型のキーを受け取り、走り出した瞬間、異様なまでにスムースな動きに驚愕する。“動き出したい”という乗り手の気持ちがそのまま、まるでストレスなくマシンに乗り移ったかのように、微小な速度域から精緻に動く。そう、軽い、というよりも、綿密だ。マシンを構成している全てのパーツが一糸乱れず、ドライバーの指示に対して忠実に動いてくれているかのよう。とてもじゃないけれども、オーバー500psのマルチシリンダーエンジンを背後に積んでいるとは思えない。
徐々に速度を上げていく。精密な走りのフィールに何ら変化はない。むしろ感嘆は増していく。加減速やハンドリングもまた精密な動きに終始するからだ。
スピードメーターと流れる景色を見ていれば、その圧倒的なパフォーマンスを頭で理解することはできる。けれども、そこには“ハラハラドキドキ”といった、スーパーカー流のスリリングな“おもてなし”はほとんどないと思ってほしい。どこまでも、それはまるでフラッグシップサルーンのA8のように落ち着きはらって走る。放っておくと際限なくカオスに陥る、実は“いい加減”なドイツ人気質ゆえ、高性能を最後の最後までクルマの側でコントロールしておこうというチューニング哲学が幅を利かせることになるのかもしれない。
540psはもちろん、610psであっても、ドライバーは常にマシンを完全に支配できている(という気分に満たされる)。強固なアルミ&カーボンのハイブリッドボディ骨格とドライバーの身体とが融合し、シャシーとサスペンションが手足と同体となって、V10パワートレーンを心臓とするマシンを自在に動かすという感覚は、兄弟のウラカンにもなく、ましてや他のイタリア製スーパーカーではまるで体感できない、ユニークなドライブフィールであった。