映画『月と雷』主演女優・初音映莉子さんに直撃インタビュー
16才で芸能界デビュー。永谷園「松茸の味 お吸い物」「あさげ」ほか多数のCMに出演。同時に女優として活躍の場を広げてきた初音映莉子さん。映画『ノルウェイの森』やアメリカ映画『終戦のエンペラー』など様々な作品に出演してきた彼女の最新作は、角田光代の小説『月と雷』の映画化作品です。母に捨てられるという複雑な過去を抱えながら、地元から離れずに地道に生きてきた泰子(初音映莉子)。その彼女の前にある青年(高良健吾)が現れたことから、泰子の人生は予想もしなかった方向へと回り出す……。
泰子を演じた初音さんにこの映画のこと、家族のこと、女優人生などについて語っていただきました。
高良健吾さんは年下だけど先輩!?
――泰子は、複雑な家庭環境で育っていますよね。母親は出ていき、そのあと同居した女性と息子の智(さとる)も出ていき、父も亡くなり……。
泰子の周りの人は、突然出て行ったり、入って来たりしますが、そんな人生を送る泰子をどんな女性だと思いましたか?
初音映莉子さん(以下、初音):私は自分に重ねていました。私は泰子のような境遇に育っていませんが、でも母親と娘の関係は、誰でも共通するところがあると思うのです。
泰子を演じるにあたり、私は母のことを思い出しました。私が気にしていたけど言わなかったことを、母はきっと気付いていて、影で泣いていたかもしれない。また母も泰子の母のように、ひとりの女性として生きたいと考えていたかもしれない……など、思いを巡らせました。だんだん私と泰子、それぞれの母親への思いが重なり合って、映画の泰子は出来上がっていったと思います。
――突然戻ってきて泰子の人生を変える男性、智を高良健吾さんが演じていますが、共演された印象は?
初音:高良さんと最初に共演したのは7年前くらいで、今回、久しぶりの共演でした。彼は私よりも多くの映画やドラマに出演してきて、俳優・高良健吾の中に、それらの経験がしっかり根付いていると感じました。年齢は私より年下だけど、役者としては彼の方が先輩という感じで、とても尊敬しています。でも撮影合間に見せる素顔の高良さんは、昔のままで全然変わっていませんでした。
――女性に人気のある角田光代さんの小説ですが、原作についてどんな印象を持たれましたか。
初音: 2年前に脚本をいただいて、そのあと自分で原作本を買いにいきました。まず脚本から読み、その次に原作を読んだのですが、原作小説には脚本には書かれていない泰子の深い歴史が綴られていたので、家族も含めた泰子の人生の背景がしっかり見えたことが印象的でした。そこは演じる上で大きな助けになりました。
でも脚本にも原作にはない泰子の息遣いがあります。お父さんの箪笥が出てくる場面があるのですが、お父さんの箪笥というのは私の幼い頃の記憶にもあって、父の箪笥の匂いとか「開けてもいいのかな?」と、とまどったことなど、幼少時代を思い出しました。
一人暮らしへの憧れと親への反発心
――初音さんのキャリアについてお伺いしたいのですが、デビューは16才ですよね。最初から女優に憧れていたのですか?
初音:16才でデビューしたときはCMだったんです。次第に女優のお仕事をさせてもらうようになっていきました。でも当時「女優になりたい!」と熱く思っていたわけではなく、この世界でやっていこうと思ったのは、とにかく早く自立したかったからです。
両親と一緒に暮らすという生活じゃなく、ひとりの生活を望んでいて、一人暮らしにすごく憧れていました。「早く一人暮らししたい!」という気持ちでいっぱい。反発ばかりの時期でした。ただ実際には16才で一人暮らしができるわけなく、20才過ぎてから家を出ました。
でも、今だから思うのですが、私に10代の娘がいて、「家を出たい。一人暮らししたい」と言われたら、すごく寂しい気持ちになるでしょうね。「それ言うの、早すぎる」って思う(笑)。
――10代から女優として活動されていて、20年近くになりますが、その間にターニングポイントはありましたか?
初音:ターニングポイントはないと言えばないし、あると言えば経験したこと全部です。正直、10代の頃は、何もわからないまま仕事していました。でも、いろんな作品に出演させていただくうちに、自分というものをしっかり持って仕事している俳優やスタッフの方々に出会い、流行に振り回されずに信念を貫いている姿勢が私には凄く学びになりました。わからないままやってきたけど、そういう方たちの背中を見て、女優としての私が形成されていっているのだと思います。
私はクラシックな日本映画が大好きで、当時の日本映画の世界観や、映し出されている人物や景色に心を揺さぶられます。時を超えて人を感動させる力を持った映画は凄いです。私も後世に伝えられる映画に出演していきたいと思っています。
昔の日本映画が大好き!
――昔の映画はDVDで鑑賞されるのですか?初音:昔の映画をフィルム上映している映画館で鑑賞するのが大好きです。年配のお客様が多いのですが、そういう方たちと一緒に肩を並べて、昔の映画を見て、笑ったり泣いたり一喜一憂しながら映画を見るのが楽しくて。
それに後ろの席にいると映写機が回る音が聞こえるんですよ。振り向くと、映写技師さんがフィルムチェンジしている姿が見えたりも。その姿がかっこいいんです(笑)。
――子供の頃から映画好きだったのですか?
初音:母が映画好きで良く見ていたので、一緒に。その頃は、テレビの洋画劇場を見ていました。ロマンチックなシーンは見ちゃいけないものを見るような気持ちで、こたつの布団に顔をうずめて指の隙間から「キャー」と思いながら見ていました(笑)
――オールアバウト映画ガイドの読者におすすめの昔の日本映画はありますか?
初音: 50年代、60年代の日本映画です。作品名を上げるのは正直ありすぎて難しいのですが、高峰秀子さん、森繁久弥さんが出演している作品が好きです。高峰秀子さんは憧れの女優で、エッセイも多く出版されているのでよく読んでいます。昔の映画業界のお話が凄く面白いんですよ。1年中映画を撮影していたり、忙し過ぎて出演作が完成しても観る時間がなかったり、「え~!」と驚くことばかりです。
時代は違っても、人間が悩んだり、感じたりすることは変わりがなく、昔の映画ではそれが色濃く見られます。かつての美しい日本、素朴な日本がいっぱい見られる喜びもあります。華やかな映像やCGや音楽で魅せる映画も素敵なのですが、昔の日本映画には、人間にじっくりフォーカスした作品が多いと思います。
――そういう意味では『月と雷』は人をじっくり描いているので、昔の日本映画の雰囲気があるかもしれませんね。
初音:地方で淡々と生きてきた泰子の心と行動が変化していく様をぜひ女性に見てもらいたいです。男性は、泰子の家に突然現れる幼なじみの智の生き方に共感を覚えるかもしれない。どんな世代でも見応えのある映画だと思います。
初音映莉子(はつね・えりこ)
1982年3月24日、東京生まれ。16才で芸能界デビュー。CM、ドラマ、映画などで活躍。村上春樹の小説の映画化『ノルウェイの森』ハリウッド映画『終戦のエンペラー』ほか出演作多数。11月4日より舞台「この熱き私の激情」(翻案・演出:マリー・ブラッサール)に出演。
『月と雷』
(2017年10月7日より、テアトル新宿ほか全国ロードショー)
泰子(初音映莉子)が幼い頃、母は出ていき、家には父(村上淳)の愛人の直子(草刈民代)と幼い息子の智が転がり込んできました。しかし、半年で出ていってしまった二人。20年後、泰子のもとに大人になった智(高良健吾)が突然現れます。「一緒に暮さない?」という彼を泰子は受け入れ、そのときから泰子の人生に変化が訪れるのです。
監督:安藤尋 出演:初音映莉子、高良健吾、草刈民代、藤井武美、黒田大輔、市川由衣/村上淳、木場勝己