食と健康

水を控えてもむくむ?水と塩分の体内での働き

【管理栄養士が解説】「塩辛いものを食べると水が飲みたくなる」と言われます。自然の摂理で当たり前のように思われていますが、これは体内での水と塩分の動きが原因で起こることです。基本となる体内での水と塩分の動きを理解すれば、「熱中症」や「むくみ」「水太り」の理由と対策法がはっきりし、ダイエットや健康管理にも役立てることができます。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

日本人の水と塩分……摂り過ぎなのか? 不足なのか?

梅干

梅に塩を振りかけて時間を置くと水が出てきます。これは細胞の中の水が振りかけた塩に引っ張られて外へ出てきた水。このとき細胞膜が「半透膜」の役割をしています。

日本人は「食塩摂取量が多すぎる」とされ、「減塩」が推奨されています。一方で、夏になると脱水症予防のためにと「水と塩分を摂りましょう」と言われます。

いつもは塩を摂ってはいけないと言われるのに、暑い時期には脱水になるからと塩分も摂るように言われる、どうしたらよいのか分からない、という人も少なくないと思います。

このギモンに答えるには、体内での「水」と「塩分」の動きを理解するのが手っ取り早いと思います。
 

細胞の中と外、水と塩分は一緒に動く

身体の成分で最も多いのは「水」です。体重の約60%が水だと言われています。ですから、体重60kgの人だと約36kgが水だということになります。ただし、体内に存在する水は「真水」の状態では存在していません。細胞の中の液(細胞内液)はカリウムが、細胞の外の液(細胞外液)はナトリウムが溶け込んでいます。このうち、細胞外液は食事などに含まれる栄養素の影響を大きく受けています。

体液の塩分は腎臓の働きによって約0.85~0.9%に調整されています。健康な人であれば、多少、水を飲みすぎたり、食塩を摂りすぎたとしても尿として排泄されるため、大きな問題は起こらないようになっています。実際、尿中のナトリウム量を測定するとナトリウムの摂取量が分かるため、実臨床でも検査項目の1つとして活用されています。

この濃度を逸脱すると、塩辛いものを食べたくなったり(=塩分の補充が必要になる)、水を飲みたいと感じたりするのです。

余談ではありますが、0.85~0.9%に調整されている「塩分」はナトリウムだけではなく、カリウム、マグネシウムなどのほかのミネラルも含めての濃度です。とはいえ、塩分の大部分をナトリウムが占めており、「食塩」を使えば補充も簡単であるため、経口補水液などに使われる塩分は「食塩」で添加されることが一般的です。

さらに余談ですが、病院で点滴の溶剤などとして使われる「生理食塩水」は0.9%食塩水で、体液の塩分濃度を模したものになっています。

話を戻します。体液は、細胞内液が2/3程度、残りが細胞外液です。細胞内液と細胞外液はそれぞれの塩分濃度を保つようにバランスをとっています。これを浸透圧といいます。カット野菜に食塩を振り掛けると水が出てきますが、あれは野菜の中の水が出てきて食塩の濃度を薄めようとしています。これが浸透圧です。細胞膜は塩分はほとんど通さず、水だけを通す「半透膜」の役割をしています。

カット野菜の例で分かるように、塩分濃度が著しく変わると細胞の形も変形してしまいます。身体の中でも、塩分濃度を一定に保つことで細胞の形を一定に保つ働きをしています。さらに、浸透圧の違いを使って細胞内に栄養素を届けたり、不要なものを細胞外に排泄したりしています。細胞外液はこれ以外に、体内を駆け巡り、各細胞に栄養を届けたり、不要物を集めたりと、さまざまな仕事をしています。

ここまでをまとめると、
 
  1. 体内の水は真水ではない
  2. 水は塩分(主にナトリウム)を伴って身体全体を移動する
  3. 体液の塩分濃度は0.85~0.9%に調整されている

この3つが重要で、体調管理に大きく関与するのです。
 

浸透圧をコントロールしてダイエットや健康管理に活かす

この浸透圧による濃度管理の仕組みで、水太りやむくみ、高血圧、熱中症などの対応の原理が分かります。
  • 水太り、むくみ
水太り、むくみは体液が必要な量をはるかに超えて体内にたまってしまっている状態です。そのため、「水を制限する」のがよいと考える人も多いのかもしれませんが、水分を制限するだけでは、体液の塩分濃度が下がらないので、水の排泄が抑えられてしまいむくみは解消されません。

問題は水というよりは「塩分」の過剰。水の摂取量を制限することもさることながら、食事から摂る塩分(=食塩)を減らすことで「水太り」や「むくみ」が解消されていきます。
  • 血圧
血圧を上げる機序は大きく3つ知られていますが、その1つが水と塩分が体内から排泄されなくなってしまい、血液量が増えて血圧を上げるというもの。腎臓で血液をろ過して尿を作りますが、腎臓に負担がかかっている場合といない場合とで対処方法が異なります。

血圧は高くてもさほど腎臓に負担がかかっていない場合には、ナトリウムを体外へ排出する働きを持つカリウム(野菜に多く含まれています)の摂取が推奨されます。カリウムとナトリウムは常に濃度のバランスをとっているため、カリウムが多いときはナトリウムも多いと判断され、尿中に排泄されるのです。

カリウムはナトリウムと味がよく似ていることから「減塩しお」のような商品も高血圧対策としてよく使われています。

腎臓に負担がかかっている場合、腎臓でのろ過量を増やさないためにカリウムの摂取も制限されます。そのため、高血圧の食事療法を習っていた人が、腎臓に負担がかかっているからと新たに食事療法を習得しようとした際に混乱してしまうことがあるようです。(私たち管理栄養士の説明の仕方が悪いというのもあるので、猛反省しなければいけない部分でもあります)

ココまでをまとめると、血圧を下げたい場合、2種類の食事療法があります。腎臓に負担がかかっている場合負担がかかっていない場合の食事療法はまったく別の方法になります。真逆と言ってもいいくらい違います。注意して下さい。
  • 熱中症、脱水症
熱中症の場合は、汗となって水と塩分が体外に出て行ってしまっている状態なので、水も塩分も不足しています。そのため「水と塩分を摂ってください」ということになります。

ただし、「和食」は醤油や味噌を使って味付けすることから、諸外国の食事と比べて食塩含量が多いことが知られています。そのため、通常の食事をいつもと変わらずに食べることができているようであれば、塩分は不足しているとは考えにくいです。

むしろ、食塩については過剰摂取傾向なので、摂りすぎないように気をつけなければなりません。

塩分を積極的に摂る必要があるのは、下痢をしている場合、食事が思うように摂れない場合(高齢者に多い)や炎天下で作業をして汗をかいたときなどです。この場合に不足している「塩分」はナトリウムだけではなく、カリウムやマグネシウムも不足しています。

絶対的な判別にはなりませんが、経口補水液を飲んで「おいしい」と感じた場合は、脱水症になっている可能性が高いです。ずっと室内にいたにも関わらず、おいしいと感じる場合には、「かくれ脱水」と呼ばれる常に脱水気味になっている状態の可能性が高いため、普段から飲水量を増やすように気をつけましょう。

このように「水と塩分」の体内での代謝は複雑です。友人に教えてもらった方法が必ずしも自分に合っているかどうかは分かりません。体調がおかしいと思ったら、かかりつけ医の診察を受け、的確な対処方法を教えてもらうようにして下さい。

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