年金/厚生年金の仕組み

厚生年金の経過的加算とは何か? 計算方法は

ねんきん定期便を見ると、65歳以降に支給される金額として、「経過的加算」というものが載っています。それほど大きな金額ではないのですが、これはどのような年金なのでしょうか。解説してみたいと思います。

綱川 揚佐

執筆者:綱川 揚佐

年金ガイド

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「経過的加算」って、いったい何者?

50歳以上の人に届くねんきん定期便には、将来60歳まで年金をかけたとして計算した受給見込み額が記載されます。

その中に、65歳以降の受給額として「経過的加算」の金額が記載されています。金額は人によってもちろん違いますが、少ない人だと年間数十円から数百円、多い人でも年間数万円といった金額だと思います。「これって、いったい何?」と疑問をもつ方も少なくありません。

経過的加算は、厚生年金から支給される年金の一部です。ただし、老齢厚生年金の本体部分は「報酬比例部分」といわれる、平均給与額と加入月数で計算される部分ですので、経過的加算はあくまでプラスアルファとして支給される部分といえます。場合によっては、「差額加算」と呼ばれることもあります。
 

経過的加算は20歳前、60歳以後に厚生年金に加入した期間の老齢基礎年金相当額

経過的加算の本質は、昭和61年3月までの旧制度の名残ですが、実質的には国民年金から支給される老齢基礎年金とほぼ同じものです。

老齢基礎年金は、20歳から60歳までの国民年金納付月数によって計算されます(この月数には、厚生年金の加入期間もカウントされます)。つまり、20歳前とか、60歳以後の期間は原則として老齢基礎年金の金額には反映しないことになります。国民年金の加入は原則20歳から60歳なのでよいのですが、厚生年金は義務教育終了後最高70歳まで加入できるため、老齢基礎年金に反映できない期間が出てくることがあります。経過的加算はその20歳前、60歳以後の老齢基礎年金相当額を、厚生年金から支給するものといえます。

老齢基礎年金相当部分なので、支給開始は原則として65歳。在職停止もないし、遺族年金の計算にも入らないことになりますね。ただし、老齢厚生年金の一部なので、遺族年金と老齢年金の併給調整には含まれます。ちなみに、終身支給されます。
 

経過的加算はどこから来たの?

もともとの経過的加算の由来は、厚生年金の「定額部分」にあります。昔の厚生年金は、定額部分と報酬比例部分がセットで支給されていましたが、昭和61年4月に基礎年金の制度が導入され、定額部分は65歳以降は老齢基礎年金に衣替えになることとなりました。この時、定額部分の計算方法と、老齢基礎年金の計算方法が若干異なっていたため、65歳になるときに年金額が減らないようにカバーするものとして経過的加算が生まれたのです。

その後、定額部分は支給開始年齢が引き上げられ、特例該当者など一部の人を除いて順次もらえなくなっていきましたが、制度として消滅したわけではなく、65歳以降に経過的加算としてその名残をとどめているというわけです。本質的には老齢基礎年金相当額ですから、65歳前に定額部分がある人もない人も、厚生年金加入歴があればもらうことができます。
 

経過的加算の計算方法は?

経過的加算は「定額部分と、同一期間に対応する老齢基礎年金の差額」がもともとの由来ですから、計算は、

定額部分の金額-同じ期間に対応する老齢基礎年金の金額

となります。

定額部分の計算式は、

1621円×厚生年金加入月数(上限480カ月

となります。

同じ期間に対応する老齢基礎年金の計算式は、

77万7800円×厚生年金加入月数(20歳~60歳に限る)÷480カ月

となります。

なお、上記の計算式は原則的なものです。各種経過措置は考慮していません。

具体的に計算してみましょう(年金額は令和4年度のものです)。

例:19歳から26歳まで、7年間厚生年金に加入、その後60歳まで国民年金納付

計算上の定額部分
1621円×84カ月(19歳~26歳)=13万6164円

同一期間に対応する老齢基礎年金
77万7800円×72カ月(20歳~26歳)÷480カ月=11万6670円

経過的加算
13万6164円-11万6670円=1万9494円

となります。

なお、この事例の場合、老齢基礎年金全体では、20歳から60歳まで40年間(480カ月)納付済み期間となるので、満額の77万7800円となります。老齢基礎年金の計算期間は480カ月ありますが、厚生年金の加入期間のみでは480カ月ないので、1年分の老齢基礎年金にほぼ相当する額が経過的加算としてもらえるというわけですね。
 

「経過的」って、どういう意味?

年金の世界で「経過的」という言葉には、「今は制度の過渡期で支給するけれど、いずれなくなる」という意味が多分に含まれています。有名どころでは「振替加算」をはじめとした各種「経過措置」があげられます。経過的加算も同じような考え方にもとづいていて、定額部分を基礎年金に衣替えするときに、年金額が下がらないように生まれた制度ですので、将来的には消えゆく運命にあるのではないでしょうか。

とはいえ、一度もらい始めてしまえば、既得権の保護の観点からすると途中で打ち切られることは考えにくいと思われます。

法条文上は「当分の間」としか書かれておらず、実際にいつまでこの制度が存続するのかはわかりません。もしかすると今後見直しが行われるのかもしれませんね。

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