雪組トップスター・早霧せいな＆咲妃みゆ 退団(4ページ目)

そして、このコンビにしかできない作品が『星逢一夜』。藩の跡取り、紀之介こと天野晴興と村人・泉の、成長と身分違いの恋愛を描いたオリジナル作品で、瞬きするのも惜しいほど美しく切ない名作となりました。早霧さんは、自身の思いと立場との間で苦しむ晴興を熱演。星を観るのが好きな純真な子供時代から、武士として変わらざるを得ない苦悩、泉への想いを全身全霊で演じ、演技巧者の真価を発揮しました。咲妃さんは、父と夫を殺されても紀之介への想いを捨て切れずに苦しむ泉。とても自然でなめらかで、だけど大きな舞台、遠くの観客にまでしっかりと伝わる演技力は見事。感情が放出する櫓での別れの場面は、二人の表情をズームでずっと見ていたい……そう思える名場面となりました。作品自体が素晴らしい、このコンビが素晴らしい、そして源太を演じた二番手、望海風斗さんが素晴らしい……。「星探しの唄」を歌う三人を想い浮かべるだけで、胸が熱くなります。

全国ツアー作品では、名作が再演されました。
新撰組と沖田総司の儚い人生を描いた日本物の代表作、『星影の人』。沖田総司と、芸妓・玉勇の短く儚い恋を、しっとりと美しく描きました。
また『哀しみのコルドバ』では、互いに相手がいながらも愛し合ってしまったエリオとエバの、胸が締め付けられるような切なさを、情熱的に演じました。

そして、『ルパン三世』以上に漫画・アニメファンを驚かせたのが、和月伸宏氏原作『るろうに剣心』。早霧さんは緋村剣心そのもの！ 少年のようなあどけなさを持ち、普段は人懐っこく明るい剣心ですが、逆刃刀を手にした立ち回りは気迫に満ち、豹のようにしなやか。躍動的で爽やかで、最高に素敵な剣心でした。咲妃さんは気風のいい剣術小町、神谷薫。男役が多い作品の中、薫が登場するだけでふぁ～っと華やかになり、可憐さと明るさが輝きました。

映画のミュージカル化で話題となった『ローマの休日』。早霧さんは、包容力のある紳士的でダンディーな新聞記者ジョーを、咲妃さんは、素直な可愛さと気品を兼ね備えるアン王女を好演。二人の自然なやりとりが、何気ない自然な佇まいが、虚構の空間を温かく優しいものにしました。

原作物や再演物が多い中、この二人のためにあて書きされたのが、ハードボイルド『私立探偵ケイレブ・ハント』。台本には書かれていない間や表情から作るナチュラルな空間で、このコンビの演技力の高さや相性の良さがより輝きました。スタイリッシュでカッコいい男、ケイレブと、可愛いい大人の女、イヴォンヌ。ファンも喜ぶ、胸がキュンとする世界でした。

そして退団公演は、故・フランキー堺さん主演の映画で有名な喜劇『幕末太陽傳』です。古典落語が題材、場所は遊郭、トップスターは、代金が払えないため遊郭で働き始める男・佐平次、トップ娘役は女郎・おそめ。トップコンビのサヨナラとしてかつてない題材、役ですが、粋で人情味あふれ、他の誰にもできない作品に仕上がりました。観客を笑わせ、ほろっとさせ、日本物の型も見得もしっかり見せつつも、肩の力を抜いた二人の演技は緩急自在で、まるで遊んでいるようでお見事。故・中村勘三郎さんの世話物を観た時の様な、思わずにんまりとしてしまう爽快感。いい意味で期待を裏切り、「こんな作品を宝塚で観られるんだ……」「こんなカッコよさもあるんだ……」と、想像を超えた素晴らしい舞台を味あわせてくれています。

ショー作品での、雪組カラ―の「愛の賛歌」、水色の「Over the Rainbow」、純白の「別れの曲」……。ため息が出るほど美しいデュエットダンスをはじめ、次々と誕生した心に刻まれる名場面も忘れられませんね。