約1割弱の当事者が、住まい探しで何らかのトラブルを経験
「LGBT」をご存知ですか?セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつで、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった用語です。Facebookのアイコンで、6色のレインボーカラーが使われているのを見たことがありませんか?LGBTの尊厳を守ろうという意思を表したものですが、このように社会的にLGBTに対する理解が広がっています。
一方で、LGBT当事者の約1割が住まい探し(賃貸・購入)で何らかのトラブルがあったと回答していることが、リクルート住まいカンパニーの調査(※1)で明らかになりました。どういったトラブルが起こり得るのでしょうか?
LGBT当事者が住まい探しで起こり得るトラブルとは?
異性カップルなら夫婦や婚約者と説明して問題なくクリアすることが、LGBTの場合、中でも同性同士のカップルの場合にハードルになることがあります。どういったトラブルが起こり得るのか、実際にトラブルがどの程度起きているかについて、リクルート住まいカンパニーの「LGBT当事者の住まい探し実態調査」(※2)の結果を参考に考えていきましょう。
この調査結果は、LGBT当事者のうち実際に住まい探しの経験がある人を母数にしているため、各選択肢の調査対象数が少ないことから詳細は公開されていません。それでも、住まい探しで起こっている傾向がうかがえるものになっています。
具体的にどういったハードルが存在するか、見ていきましょう。
〇同性のパートナーと同居するために賃貸住宅を探すとき
- 同性同士であることを理由に入居を断られる
- 家族用ではなく、ルームシェア可など入居が断られなさそうな物件を探さざるを得ない
- 自分またはパートナーが単身契約した部屋に、内緒で2人で入居する(トラブルになる不安を抱えて住み続ける状態に)
- 同性パートナーと2人で住宅ローンを組めない
- 同性パートナーと購入した後、万一のときにパートナーへの相続や遺されたパートナーの居住が保証されないことに不安に感じる
- 書類を書く際、性別欄の記入に困る
こういった住まい探しや契約時のハードルのほかにも、次のような心理的なハードルも存在します。
- LGBTであると分かることで、不動産会社や隣近所の目が気になって実行に移せない
- 不動産会社に、2人の関係性を聞かれる(結果、ごまかしたりウソをつくことになる)
その背景には、賃貸オーナーや不動産会社、金融機関にLGBTへの理解が進んでいないことが考えられます。同性パートナーとのペアローンを認めている銀行は、現在国内では条件付きで1行のみという厳しい現実もあるようです。
したがって、こうしたハードルをなくしていくには、不動産会社がLGBTへの理解を深め、サポートするように体制を整えることが求められます。さらに、賃貸オーナーにLGBTに対する啓蒙活動を行い、LGBTを理由に入居相談や入居自体を拒まない(LGBTフレンドリー)賃貸物件であることを明示し、当事者が物件を探しやすくすることも重要です。
LGBTフレンドリーな住まい探しの動きとは?
こうしたなか、不動産ポータルサイトの「SUUMO」では、2017年3月から賃貸コーナーに新たに特徴項目として「LGBTフレンドリー」を追加しました。試しに、SUUMOで「フリーワード」検索をしてみると、関東版で200件(2017年7月8日時点)の賃貸物件がヒットしました。SUUMOでは2017年9月頃を目途に、フリーワード検索だけでなく、「ロフト付き」や「オートロック」などの条件と同様に、こだわり検索の項目にチェックを入れるだけで、LGBTフレンドリー物件を絞り込めるようにする予定です。
SUUMO for LGBT
こうした取り組みをけん引してきた、SUUMO副編集長の田辺貴久さんに話をうかがいました。そもそもSUUMOではなぜこのような取り組みを始めたのでしょうか?
賃貸コーナーで「LGBTフレンドリー」を探せるようにするには、単にシステム上に項目を用意すればいいというわけではありません。ご自身も当事者である田辺さんが、2015年に社内の「経営への提言」として提案したLGBTへの取り組みが採用されたことから始まります。
具体的には、次の3つステージで取り組んだそうです。
(1)LGBTについての社内認知・理解を広げる
組織長やメンバーにLGBT研修を繰り返し、社内認知を広げていきました。2017年4月からは、リクルートグループ全体で従業員の配偶者やその家族に適用される福利厚生を同性パートナーにも適用されるようになりました。
(2)自社のサービスに展開する
リクルート住まいカンパニーでは、「LGBTフレンドリー」で賃貸物件を探せるようにすることに加え、「新築マンションSUUMOカウンター」でLGBTの方向けの個別相談会などを2017年から実現しています。
(3)自社のサービスを利用するクライアントに認知を広げる
自社サービスを利用する際の情報を通じてだったり、積極的に取り組むクライアントが主催する賃貸オーナー向けのセミナーに協力をしたりして、啓発活動を展開しています。
LGBTフレンドリーな住まい探しは、今後広がっていくか?
住宅業界全体のLGBTに対する取り組みは、まだ動き出したところです。愛知県や福岡県でLGBTフレンドリーな不動産会社として、相談窓口や担当者を設置したり、SNSで情報発信をしたりといった積極的な展開をしている不動産会社もありますが、まだごく一部の取り組みといっていいでしょう。また、自治体が条例をつくって、同性パートナーを「結婚に相当する関係」と認める書類を発行することで、住まい選びなどで多様性が認められるようにしようという動きも出ています。現時点では、東京の渋谷区、世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、札幌市の6つの自治体で「パートナーシップ証明書」や「パートナーシップ宣誓書受領証」などを発行する体制を整えています。
住まい探しの窓口となる不動産会社、賃貸物件を提供する賃貸オーナー、ローンを貸し出す金融機関などの関係各所が、LGBTに対して適切な認識を持ち、行政が多様性を認める社会環境を整えるなど、まだまだ課題は山積みです。
今後はこうした関係者が連携して、LGBTフレンドリーな住まい探しができるようになることに、大いに期待しています。
〇調査概要
※1:リクルート住まいカンパニー「賃貸オーナー・集合住宅居住者の意識調査」(2016年3月28日~29日に全国の賃貸住宅のオーナーや集合住宅居住者、LGBT当事者に対してインターネットにより調査。LGBT当事者の有効回答数は52)
※2:リクルート住まいカンパニー「LGBT当事者の住まい探し実態調査」(2016年4月10日~13日に全国のLGBT当事者と非当事者(ストレート)に対してインターネットにより調査。LGBTの有効回答191の内訳はゲイ50、レズビアン41、バイセクシュアル50、トランスジェンダー50)