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ZEH実現に向けた高いハードルをどう乗り越える!?

現在、住まいづくりの重要な注目ポイントになっているのが「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」です。その実現には高いハードルがあり、乗り越えるためハウスメーカーなどの住宅事業者は今、対応に追われています。この記事ではZEHを巡る国の動きに加え、住宅事業者の対応の事例も紹介します。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

ハウスメーカー選びガイド

住まいづくりの最も重要なトレンドの一つになっている「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」。省エネで環境に優しい住宅の決定版、これからの住まいの理想像とされ、その普及が求められているわけですが、ZEHの実現には都市部を中心に高いハードルがあります。そこで、この記事では改めてZEHについて基本的な事項を確認するとともに、ハウスメーカーなど住宅事業者が行っているZEHを実現するための対応や工夫について紹介します。

ZEHビルダー制度がスタート

まず、ZEHについておさらいします。高断熱化と高効率設備により快適な室内環境を実現しながら、省エネも同時に可能とした上で、太陽光発電などによりエネルギーを創り出すことで、年間に消費する正味(ネット)の「エネルギー量が概ねゼロ以下となる住宅」のことをいいます。

ZEHイメージ

ZEHのイメージ(クリックすると拡大します)


高断熱化は、壁や屋根、開口部(窓や玄関ドア)、基礎といった住宅そのものを対象としたもので、高効率設備とは省エネタイプの給湯や照明、エアコンなどのこと。このほか、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)などのエネルギー制御機器、さらには家庭用蓄電池などを採用するケースもあります。

普及が求められる背景は、国内外での気候変動対策が避けられない課題となっていることがあります。2015年末に開催されたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された「パリ協定」において、日本政府は2030年度までに2013年度比26%の二酸化炭素(CO2)削減を公約しました。

とはいえ、国内では石油危機以降、CO2排出は約2倍に増加し、家庭部門の最終エネルギー消費量も増大している状況です。また、東日本大震災での原発事故による電力需給の逼迫やエネルギー価格の不安定化などを受け、住宅のさらなる省エネ化が求めています。

政府は、2014年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」において、「住宅については、2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」とする政策目標を設定しました。

定義

経済産業省が示した「ZEHの定義」(クリックすると拡大します)


それを受けて、経済産業省は2015年12月にその達成に向けた対応策を盛り込んだ「ZEHロードマップ」を関係省庁などと策定しました。その中で、事業者や消費者にわかりやすいZEHの定義が示されました。

加えて、2016年度からは補助金制度「ZEH支援事業」がスタートしています。2017年度については、補助金の額が1戸あたり上限75万円(地域区分・建物規模によらず全国一律、Nearly ZEHも)となっています。

それにあたり、ZEHの供給達成目標や実績値をホームページなどで公表すると宣言した事業者を「ZEHビルダー」(事業者はハウスメーカー、工務店、建築設計事務所、リフォーム業者、建売住宅販売者など)として公募、登録する取り組みも行っています。

対応に悩む住宅事業者たち

これは、「登録している事業者であればこれからの時代に適した住まいを建ててくれるし、安心できますよ」という、国によるお墨付きのようなもの。消費者にとってわかりやすいようにと、登録事業者であることを示すZEHビルダーマークまで作成されました。
マーク

「ZEHビルダーマーク」。このマークの表示の有無を確認することが、依頼先選びの基準の一つになるかもしれない(クリックすると拡大します)


登録数は2017年3月17日現在で5636社。日本国内にどれほどの住宅事業者があるかというのは定かではありませんが、これほどの数の住宅事業者が登録しているのは、ZEHへの対応が彼らの死活問題となるためです。

実はZEHの対応は、住宅事業者にとっては複雑な部分があります。というのも、同じ規模の建物で建築コストを比較すると、ZEHは通常の住宅を比べ割高にならざるを得ないからです。断熱性能の強化や省エネ、創エネ設備も必要になるからです。

そうなると、住宅の主要な購買層である20~30歳代の消費者にとって住宅取得が難しくなります。とはいえ、「当社はZEHに対応しません、否定的です」となると、消費者からは見向きもされなくなります。

ですから、できるだけ建築費を抑える、あるいはZEHとすることによる経済的メリットを最大化できる方策を考える必要があるわけです。で、このことは住まいに変化をもたらしました。その一つが屋根形状を含めたデザインに表れるようになってきました。

普及のネックになる太陽光発電の容量

さて、ZEHの達成に最も効果的なこととは何でしょうか。それは太陽光発電の容量を大きくすることです。しかし、小規模な建物では屋根の面積が小さいため、発電容量を大きくしづらいのが普通です。

住宅密集地

東京都品川区の住宅街。このような住宅密集地では近隣環境や敷地面積などの兼ね合いもありZEHの実現が難しくなるケースが多い(クリックすると拡大します)


そこで近年、太陽光発電システムを屋根の全面に設置する建物の提案が増えてきました。この場合、フラット(陸)屋根か、北面から太陽光が当たる南面に下がる片流れ屋根、切妻屋根とすることがほとんどです。

また、屋根材に太陽光発電システムを乗せるのではなく、太陽光発電システムと一体化した屋根とした建物も増えてきました。一体型には設置面積の確保のほか、設置にかかるコストを抑えられるメリットもあります。

ただ、フラット屋根や片流れ屋根の住宅は郊外であれば建てやすいのですが、住宅密集地ではそうもいきません。敷地が狭く大きな建物が建てにくい上、隣地斜線制限、北側斜線制限など建築制限の問題で大きな屋根面積を確保しにくいからです。

ちなみに、住宅密集地が多い都市部はそもそもZEHの実現には不向きといえます。それは、周囲にビルやマンションがあって太陽光発電システムがZEHに必要な発電を十分に確保しづらいからです。

このため、3階建てなど中層住宅もZEHが難しいのが実情。また、都市部に限らず、マンションや賃貸アパートでも同様です。なぜなら、全住戸のエネルギーをゼロにすることが難しいからです。

話を屋根のかたちに戻すと、とはいえ対応の方法もあります。それは寄棟屋根とすること。寄棟は上で紹介した建築法規に対応しやすいためです。ただ、それだけでは、もちろん限界があります。

ルーミー

「ヘーベルハウス キュービックルーミー」のプロトタイプモデルハウス(静岡県富士市、クリックすると拡大します)


しかし、その特徴を生かし、さらに工夫を加えることで対応しようする事例もあります。旭化成ホームズが2017年6月に発売した「ヘーベルハウス キュービックルーミー」がその一つ。先日、そのプロトタイプのモデルハウスを見てきましたので少し紹介します。概要は以下の通りです。

1階床面積:53.51〓(16.18坪)
2階床面積:50.16〓(15.17坪)
ロフト床面積 :11.80〓(3.57坪)
延床面積:103.67〓(31.36坪)
建築面積:56.86〓(17.20坪)
〓=平方メートル

変形寄棟屋根で発電容量確保と快適性向上を両立!

若い世代の人たちに多い、狭小敷地に約30坪のコンパクトサイズの建物を建てることをイメージしたもので、「偏芯寄棟屋根」という珍しい屋根形状としたのが最大の特徴となっています。

屋根

「偏芯寄棟屋根」という珍しい屋根形状(模型、クリックすると拡大します)


通常、寄棟屋根は上から見た建物の形状が正四角形、あるいは長方形の場合はシンメトリー(対照的)ですが、これは南面の屋根勾配が緩やかで大きく、それ以外の面は急で狭くなっています。

日照量が最も多くなる南面に、ZEH化するために必要な約5kwの太陽光発電を設置できるようにする工夫です。もちろん、日照の状況は土地それぞれで様々ですから、これにより寄棟屋根の建物の全てでZEHが実現できるわけではありませんが、その可能性は高まるのではないでしょうか。

ところで、寄棟を含む勾配屋根の建物は、小屋裏の空間利用がしやすいのも特徴。このモデルハウスでは、狭い空間を広く見せることができる高い天井高の2階リビング+ロフトとして、このメリットを活用していました。

2階

プロトタイプモデルハウスのLDK。2階にあり天井高が高く、ロフトのある空間となっている(クリックすると拡大します)


要するに、これまでデッドスペースになりがちだった小屋裏空間を有効活用しているわけです。なお、旭化成ホームズでは2017年5月から断熱性能の強化と標準化を行っており、その成果の表れともいえます。

ZEH仕様の住宅を建てることはなかなかハードルが高いもの。つまり、高度な提案力やアイデアが求められるわけです。今回は旭化成ホームズの取り組みを紹介しましたが、他その他の住宅事業者も様々な対応策や工夫を打ち出しています。

これから住宅取得を目指す方々は、その動向をチェックすることで、皆さんがこれから住まいづくりを行う際に、住宅事業者の善し悪しの判断材料にできると考えられます。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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