建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

5つの箱と3つの庇がつくる快適空間[Sukima Atelier]

東京の閑静な住宅街に建つ、住居とギャラリーとアトリエを兼ねた住宅です。大きな吹抜け空間に、5つの箱を点在させ箱同士が生み出す隙間をパブリックな空間として繋げることで、多様な性格の個室と広がりを感じる空間を共存させています。

執筆者:川畑 博哉

共に60代になるこの家の建て主のFさんご夫妻は、ご自邸を建てるにあたって「それぞれが仕事に集中できる場所」「画家であるご主人の作品を展示し、歓談や音楽を楽しむ場所」「温熱環境に配慮した空間構成」などを建築家の塚田眞樹子さんに要望されました。

それを実現させるべく塚田さんが出した答えは、大きな吹抜け空間の中にプライベートな空間を5つの箱に収め、その間を行き来しながら暮らすというユニークな提案でした。

3つの庇(ひさし)をもった焦げ茶の家

外観
南側の外観。建物は敷地の北側に寄せている。外壁は墨色に着色されたモルタル仕上げに撥水剤が吹付けられている。
外観
庇の張り出しがよく分かる西側の外観。庇の張り出しは約2.3m。
外観
2階のV字型の「書庫の庇」。モッコウバラが絡まる1階の「ルーバーの庇」は愛車のガレージの屋根を兼ねる。
外観
左右に壁が垂れ下がる「リビングの庇」。張り出したテラスは1階の勝手口の雨除けでもある。庭には枝垂れ桜が葉を繁らせている。
玄関
玄関のガラス扉を開けると左右に2つの箱が並ぶ。左(西側)は収納とトイレ、右(東側)は奥様の個室。

最寄りの私鉄の駅から閑静な住宅地を10分ほど歩いて行くと、緩やかにカーブする道の先に2階建ての焦げ茶の家が見えてきます。

近づくにつれ、家に3種類の庇(ひさし)が付いているのが分かります。何より個性的なのは2階の窓からV字形に張り出した「書庫の庇」です。その隣には下向きのコの字型の「リビングの庇」が並び、1階の横長の窓の上には細長い板が連続する「ルーバーの庇」が張り出しています。

建物は敷地形状に沿って北側に寄せて、南側に敷石が等間隔で並んだ前庭を設けています。ここは車1台分のガレージでもあります。屋根は北側に傾いた片流れになっています。


白い吹抜け空間の中の5つの墨色の箱

吹抜け
家の中心にある吹抜け空間。奥の隙間からご主人のアトリエが垣間見える。床はラーチ材のフローリング。
LDK
階段の先にはLDKの入る大きな箱が横たわる。スチール製の階段の手摺は直径約3cm弱。床や壁内部でプレート補強を施して細くても頑丈な造りになっている。
吹抜け
天井の丸いトップライトが吹抜けの下を明るく照らす。
書庫
北側に向かって緩やかな段差をもつ書庫。幅は90cm、奥行きは4m。
書庫
書庫の南側の窓からの眺め。窓はフィックスではなく通気のために開放することができる。
物干場
西側の壁と書庫との間のドライスペース(物干場)。書庫側の壁に竿を架けるアームが取付けられ、洗濯機もブースの中にすっきりと収まる。

この家の中心は白壁の大きな吹抜け空間です。ここに南側に1つ、東西に1つずつ、2階に2つと、5つの墨色の箱が配されています。箱の中はプライベート空間で、1階は奥様の個室と水回り、寝室、収納とトイレ、2階はLDKと書庫になっています。

1階の箱と2階の箱はそれぞれ独立しているので、箱どうしに隙間があります。この隙間が他の家には無い魅力的な空間体験を与えています。

2階に横たわる墨色の箱は、この家の構造の要となる太い梁の役割を担っています。西側に横たわる箱は、幅が狭く奥行きのある廊下のような書庫です。南側の窓の外に張り出した庇が、カーブする道路のある街の風景を手招きするように室内に繋げています。


2階の東側はLDKの墨色の箱と白いアトリエ

玄関
墨色の室内と白い家具のコントラストが美しいLDK。床はアカシアのフローリング。
LDK
足元が解放されたキッチンカウンター。奥行きは約70cm。フロストガラスの北窓の光が手元を明るく照らす。
LDK
リビングの南側の窓。外には小さなテラスが張り出している。庇がピクチャーウインドーとなって風景を切り取る。
アトリエ
北側に傾いたアトリエの天井高は最も高いところで4.4m。床はラーチ材のフローリング。本棚と机は建築家のデザインによる造り付け。
アトリエ
アトリエに外の光を呼び込むトップライト。
アトリエ
アトリエの机の下の隙間から吹抜け空間を見る。左(南側)の箱の上はラウンジ、右(北側)の白い壁はギャラリー。奥(西側)に書庫の隅間が見える。

北側に傾いた天井、壁、フローリングの床を全て墨汁で着色した、東側の約6.7帖の鈍く光を反射する墨色の箱の中は、宙に浮くキッチンカウンターと冷蔵庫のボックスとダイニングテーブルの白が鮮やかなコントラストを生み、空間をキリッと引き締めています。ダイニングテーブルは冷蔵庫のボックスと一体化することで、軽く浮いた感じを演出しています。

LDKとその東側にあるアトリエの間には約65cmの「隙間」があります。アトリエの床に座ると、視線の先に広がる大きな吹抜け空間を眺めることができます。


墨色の箱の中は様々なプライベート空間

寝室
寝室にはアトリエとギャラリーを繋ぐ階段収納がある。階段越しにトップライトからの光が入り込む。
洗面室
洗面室とバスルームはフロストガラスで仕切られている。
風呂
墨色の床と白い琺瑯のバスタブの立ち上がりと腰壁は共に20cm角のタイル貼り。
個室
玄関の隣にある南向きの個室。背後は奥様の希望で本棚が造り付けになっている。

アトリエからは隠し階段で寝室に降りると、そこからは洗面室とバスルームへ直接アクセスできます。バスルームは南側に面した箱の真ん中に位置しています。その隣に壁を隔てて奥様のコンパクトな個室が続いています。この南側の箱は前庭に向いた窓が横長に続いていて、緑の絡まる「ルーバーの庇」越しに明るい日射しが入り込んできます。

以前、この敷地を購入して自宅の設計者を探していた折、近所に完成した塚田さん設計の集合住宅を内覧する機会に恵まれ、その作風に共感して設計を依頼されたとおっしゃるF夫妻。お二人は完成したご自邸の中で、お互いの仕事と趣味を満喫されています。そして「隙間」が生み出す想像を超える豊かさをもった空間を、日々楽しみながら生活しています。

[Sukima Atelier]を舞台にしたイメージ動画はこちらでご覧下さい


[Sukima Atelier]
所在地: 東京都練馬区
構造・規模: 木造 地上2階
竣工年月: 2014年10月
敷地面積: 91.45m2
建築面積: 45.61m2
延床面積: 85.95m2
設計・監理: 塚田眞樹子建築設計/塚田眞樹子 木下康理
構造設計: ニエダ+ヒサエダ アーキテクツ/贄田泰然 小松泰造


塚田眞樹子[塚田眞樹子建築設計]プロフィール

大学を卒業後、大林組や竹山実氏、坂茂氏の元で建築の実務を経験して、1995年に独立。「建て主からの要望、敷地や自然、予算や歴史などの条件を平等に並べ、全体を理解した上で、建築に自然や風景を取り込み、建築内を移動する楽しさや建築内外どちらにいても気持ちよいと感じる環境を提案したい」をポリシーに、これまでに新しい発想の住宅や集合住宅を数多く設計してきました。
塚田眞樹子建築設計
Tel.03-5372-7584
http://makikotsukada-architects.jp
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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