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フランス大統領選とマリアンヌ切手のデザイン
フランス大統領は共和国の国家元首であり、外交面を中心に強大な権力を持っています。現在の任期は5年に短縮され、再選も一度限りとなっていますが、かつては「7年の国王」と呼ばれたこともあります。そんな国家制度を持つフランスでは、大統領が変わるたびに、普通切手のデザインも変わるのが慣例となっています。
フランス普通切手に描かれるマリアンヌ
フランスを擬人化した女性像であるマリアンヌ(Marianne)が描かれている普通切手。マリアンヌは18世紀によくあったマリーとアンヌという2つの女性の名前を合わせた造語で、一般に自由の女神として知られます。マリアンヌは多くの場合、フランス革命の中心となった市井の人びとの象徴であるフリジア帽を着けており、「自由・平等・博愛」の精神を表しています。1960年の「新フランシリーズ」などの例外もありますが、1944年以降のフランス普通切手の大半がマリアンヌを描いたものとなっています。
巨匠ガンドンが手がけた3つのマリアンヌ
歴代のマリアンヌ切手の中では、凹版彫刻家ピエール・ガンドンが手がけたものが特に有名です。彼は3つのマリアンヌの普通切手シリーズを手がけたため、それぞれを区別する意味で「ガンドンのマリアンヌ」(1945-1954年)、「ガンドンのサビーヌ」(1977-1982年)、「ガンドンの自由の女神」(1982-1990年)という通称で呼ばれています。なかでも「ガンドンのマリアンヌ」は戦後フランス切手を代表する存在で、ガンドンの奥さんがモデルを務めたエピソードでも知られます。「ガンドンのサビーヌ」(ダヴィッドの絵画)はヴァレリー・ジスカールデスタン大統領(在任1974-1981年)の時代の普通切手であり、「ガンドンの自由の女神」(ドラクロワの絵画)はフランソワ・ミッテラン大統領(在任1981-1995年)の時代の普通切手です。
90年代以降のマリアンヌ切手
ジャック・シラク大統領(在任1995-2007年)の時代は当初、「革命200年のマリアンヌ」が使われていましたが、1997年に「革命記念日のマリアンヌ」となり、シラク大統領の2期目には2005年「ラムーシュのマリアンヌ」が使われるようになりました。ニコラ・サルコジ大統領(在任2007-2012年)のときには、「ボージャールのマリアンヌ」が使用されました。星はヨーロッパ連合を表していて、フランスがサルコジ大統領の在任中の2008年に欧州連合理事会議長国となったことが踏まえられています。
炎上騒ぎを起こしたマリアンヌ切手?!
オランド大統領(在任2012-2017年)のときの普通切手はデザインが公募され、全国の高校生1,000人の投票により新しいデザインが選ばれました。ところが、2013年7月14日の革命記念日の日に披露されるや、デザイナーの1人オリビエ・シアパがツイッター上に、マリアンヌのモデルの1人にフェミニスト活動家のインナ・シェフチェンコ(ウクライナ人)の名を挙げたため、新切手をボイコットする声も上がった、いわく付きの切手となっています。
忘れ去られた題材のセレスと種まき
マリアンヌ以外の題材で、フランス切手の定番と言えば、セレスと「種まき」でしょう。1849年に発行されたフランスの最初の切手が、農業神セレス(Ceres)であることは有名です。しかし実は当時の政府の告示には「自由の女神」と明記されており、広い意味でマリアンヌと同じ系譜に位置づけることができます。 またフランス第三共和政(1870-1940年)の後半には、主に「種まき」が普通切手の題材に使われました。
共和政の穏健な特性を「種まき」が表し、共和政の革命的性格をマリアンヌが表していて、もともと両者は並び立つ存在だったのですが、現在では「種まき」が登場する場面はあまりありません。 このように歴代のフランス切手にはさまざまな自由の女神や女性たちの姿が描かれていますので、フランス切手を見かけたら、それがマリアンヌなのか、あるいはセレスや種まきなのか、図案を味わいながらチェックしてみると面白いものです。
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