人間は何色まで認識することができるのだろう
私たち人間は、およそ100万もの色を識別することができると言われています。しかし、このようなテストが示すように、色の微妙な違いを認識する能力には個人差があります。今回は、色覚に関する研究報告を紐解きながら、色を見分ける能力の差が生じる理由をご紹介します。
<目次>
人間の色の識別……色というものは存在しない!?
目を閉じると、私たちは色を見ることができません。目の前に色があるのではなく、色は、人が見ることによって存在します。しかし、目を開いていても、真っ暗闇では、色を見ることはできません。私たちは、人間の目が知覚する光(電磁波)を色として認識します。太陽の光は電磁波の一種で、波長の違いによって分類されます。人の目が知覚する波長の下界は360~400ナノメートル、上界は760~830ナノメートルとされ、この範囲の波長を「可視光線」と呼びます。電磁波には、可視光線よりも波長の短い紫外線やX線、可視光線よりも波長の長い赤外線やマイクロ波や放射線もありますが、人間は見ることができません。 「万有引力の法則」などで知られる、イギリスの科学者アイザック・ニュートン(1643~1727年)がプリズムの実験で示したように、可視光線の各波長の色は、波長の短い側から順に、紫、青紫、青、緑、黄、橙、赤を基本の7色に分類されます。これらの色は連続的に移り変わり、美しいグラデーションを描きます。
光の違いによって、物体色と光源色に分類される
太陽や照明、ろうそくなどから発せられた光が物体に当たると、特定の波長を反射します。物体の表面から反射された光によって現れる色を「表面色」、ガラスやセロファンのように、光が透過することによって現れる色を「透過色」と呼びます。 イルミネーションや花火、スマホやパソコンのディスプレイは色を帯びた光を発しています。これらの色は「光源色」に分類されます。人間に識別されるもの色彩としての「色」とは?
私たちが色を認識するのは、人間の目の網膜に、錐体(すいたい)と呼ばれる視細胞(光受容体)があるからです。人間や霊長類には、3種類の錐体があることから、三色型色覚と呼ばれます。S錐体(青錐体)は短波長(440ナノメートル)付近の光に、M錐体(緑錐体)は中波長(545ナノメートル)付近の光に、L錐体(赤錐体)は長波長(565ナノメートル)付近の光に高い感度を示します。
錐体が知覚する波長によって、私たちはさまざまな色を認識します。三色型色覚の人々は、およそ100万もの色を識別することができると考えられています。
人間の色の識別とは? 色覚異常の色の見え方
3種類の錐体のうちのどれかが足りなかったり、十分機能しないケースを色覚異常と呼びます。色覚異常者は、隣り合う色の違いが小さく感じられ、判別困難になることがあります。見分けにくい色の組み合わせは、次のとおり。ただし、色覚異常の種類や本人の自覚によって個人差があります。
■色覚異常者が見分けにくい色の組み合わせ
- 赤と緑、赤と黒
- オレンジと黄緑
- 緑と茶、緑と灰色、緑と黒
- 青と紫
- ピンクと白、ピンクと灰色、ピンクと水色
■色覚異常の程度による分類
- 1色覚(全色盲):1種類の錐体が備わっている
- 2色覚(色盲):2種類の錐体が備わっている
- 異常3色覚(色弱):3種類の錐体が備わっているが、十分に機能しない
- 1型色覚:L錐体の異常
- 2型色覚:M錐体の異常
- 3型色覚:S錐体の異常
四色型色覚の可能性
人間など霊長類は三色型色覚、哺乳類は二色型色覚、それ以外の脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類・鳥類)の大半は四色型色覚です。生物の進化の過程で、四色型色覚、二色型色覚、三色型色覚へと変化してきたと考えられます。 近年の研究では、L錐体(赤錐体)とM錐体(緑錐体)の間の波長に高い感度を示す、第四の錐体をもつ人がいる可能性について検討されています。スーパービジョンとも呼ばれる四色型色覚の人々は、赤とオレンジと黄色の微妙な色合いを認識する能力に優れており、三色型色覚の100倍である、1億もの色を識別することができると考えられています。
四色型色覚は、まだ十分に解明されていませんが、男性よりも女性に多いと言われています。なぜなら、色覚異常と同じように、錐体色素遺伝子の変異が原因ではないかと考えられているからです。
色を映し出すスクリーンは「脳」にある
色覚全体の仕組みについても、諸説あり、未だに一つの説に絞られていません。ここでは、有力な学説の概略をご紹介しましょう。目の網膜の3種類の錐体がとらえた情報は、視神経を通り脳へ伝えられます。色を映し出すスクリーンは、目ではなく、脳にあります。3種類の錐体が知覚した情報は、次の3つの感覚(信号)に変換されます。
- 赤と緑
- 黄と青
- 白と黒
人が見分けられる色の種類には限界がある?
色覚の仕組みについて諸説あるように、私たちが識別できる色の数についても、はっきりした答えは出ていません。一般的に、女性のほうが男性よりも識別能力に優れていますが、個人差があります。MRIなどを活用した脳の研究では、男性と女性では、色を見たときの脳の反応が異なることがわかっています。色識別域に関する研究では、彩度の高い色では色の違いに対する感度が低く、色の違いを識別しにくくなるなど、人が色の違いを識別する能力には、いくつかの特長があることも明らかになっています。 確実に言えるのは、男女差、個人差に関わらず、隣り合う色を識別する場合、面積が広いほうが狭いよりも容易です。色の違いを見分けるテストは、スマホの小さなディスプレイよりも、パソコンの大きなディスプレイのほうが、高成績が期待されます。
【参考】
- 研究室に行ってみた。東京大学 色覚の進化 河村正二(ナショナルジオグラフィック日本版)
- 色色雑学(コニカミノルタ)
- The mystery of tetrachromacy: If 12% of women have four cone types in their eyes, why do so few of them actually see more colours?
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