神木隆之介スペシャルインタビュー
羽海野チカの人気漫画を実写化した映画『3月のライオン』。この映画で主役の桐山零を演じているのが神木隆之介さん。両親を亡くし、将棋だけを支えに生きてきた零の世界を演じられるのは神木隆之介しかいない!と、原作ファンから熱望されていた神木さん。夢がかなったキャスティングとあって、今から楽しみにしているファンも多いでしょう。神木さんはファンの期待値が高い中、零役をどのように解釈して臨んだのでしょうか。映画『3月のライオン』桐山零役について伺いました。
原作通りではない、神木流の桐山零とは?
――映画『3月のライオン』の桐山零役は、原作ファンの期待も大きいと思うのですが、神木さんは、零を演じるにあたって、原作の零に近づけて演じたのでしょうか?それとも神木隆之介の桐山零として演じたのでしょうか?役へのアプローチについて教えてください。
神木隆之介さん(以下、神木):率直に言えば僕流の桐山零です。対局のシーンの将棋の指し方、体勢、タイミングなど決められた動きはあり、そこは原作に近づけたところがありますが、原作は将棋だけでなく、とても人間味のある物語なんです。たぶん100人の人が原作を読んだら100の通りの感想を持つ漫画です。読んだ方、それぞれが違う感じ方をするだろうし、その人の桐山零がいると思うんです。「こうだ!」と言い切れる答えのない物語です。
なので実写化し、登場人物を役者が演じると『3月のライオン』の世界の答えを出してしまうのではないかという恐れもありました。漫画の実写化というと、原作をマネたり、なぞったりするという印象を持たれるかもしれないですが、外見を似せただけではいけないと思っているので「ただの実写化にはしたくないですね」と大友啓史監督とも話しました。僕は桐山零が現実世界で生きていたら、こういう生き方、感じ方、表情をするのではないかと漫画の零に捉われず、撮影現場で感じたことを零として表現していきました。なので、僕流の桐山零なんです。
もちろん外見など似せている部分もありますが、それ以上に原作が持っている人間味、温かさ、彼の体温のようなものを映画に持ってこないといけない。それはあらかじめ決められたものではなくて、現場で人間として零に起こったことを受け止めて返すことが大切だと思って演じました。
大いに楽しんだ、天才棋士のトレーニング
――将棋のシーン、対局はスリリングで圧巻でしたが、これについてはあらかじめ将棋を学ぶなど準備は相当されたのですか?
神木:撮影前からレッスンがあって、プロの棋士の方に教わりました。僕自身、将棋は大好きでしっかりと覚えたい気持ちは強かったんです。先生方に対局の際の戦法、囲い方などを教えていただき、実践もできるようにと何度もレッスンを行いました。映画で駒音(駒を将棋盤に打ちつけた時に出る音)が綺麗に響くのですが、実際の音も一緒で、駒音って本当に綺麗なんです。この音を聞くのが気持ち良くて、対局のシーンは大好きでした。すごく楽しんで演じることができました。
加瀬亮さんが演じる宗谷冬司と桐山零は将棋のスタイルが違い、宗谷さんは見せ方が重要。いかにシンプルに指すか……なので、駒音もすごくシンプルなんです。だからある程度、将棋の型を決めていました。でも僕の場合は、実践を積み重ねていけば指し方も慣れていくだろうというスタイルで学んだので、実践あるのみ。僕自身、実際に将棋が強くなりたかったので、先生とはたくさんの対局をやらせていただき、結果、将棋に強くなれました。(神木さんは、日本将棋連盟の谷川浩司会長から「アマ初段免状」を授与されています)
神木さんが「意外!」と思ったキャストはあの人!
――今回、神木さんは原作ファンが熱望したキャスティングだったようですが、神木さん自身はキャストの皆さんが決まったとき、どんな感想を持たれましたか?
神木:僕は佐々木蔵之介さんが、先輩棋士の島田さんを演じると聞いたとき「やはり佐々木さんか~」と思いました(笑)。豊川悦司さんが演じた零の師匠の幸田さん、ライバル棋士の後藤を演じた伊藤英明さん、零がお世話になる川本家のあかりさんを演じる倉科カナさん、それぞれ「ナルホド」と思ったり「ピッタリ」と思ったり、共演できると思うとうれしかったです。でも正直、キャストが決まっていくうちに不安にもなりました。皆さん主役級の役者さんばかりで「どうしよう……」と(笑)。すごい役者さんが多いので、特に対局シーン、盤上で向き合うことを考えると「吹っ飛ばされるぞ!」というような。これは染谷将太さんが演じた二海堂晴信のセリフのようですが(笑)。
――意外だなと思ったキャスティングはありましたか?
神木:義理の姉、幸田香子を演じた有村架純さんです。香子は気が強くて屈折した女性だから、強気なイメージの女優さんかなと想像していたんです。有村さんはホンワカしていて、トゲトゲした役を見たことはなかったので、香子が零にネチネチと嫌味を言うシーンなどどう演じるんだろうと思いました。実際すごくネチネチ嫌味な感じで演じていらっしゃいましたが(笑)。有村さんとは共演経験があるので、お互いに演技に入るときの世界の作り方や時間の流れもわかっているのが良かったです。有村さんが香子を演じたから、家族、姉弟、恋人、どれにもピタっとあてはまるわけではないですが、歯車が合っているという二人の間の空気が出せたんだと思います。
自分の出演作を見て初めて抱いた感想
――桐山零は両親を事故で亡くしてからずっと孤独を抱えて生きていますが、神木さんは彼の持っている孤独を感じた経験などはありますか?
神木:さすがにないです、彼ほどの深い孤独感というのは。そこは想像で演じていました。でも僕は、零はずっと孤独を抱えているわけではなく、ときどきふと思い出して心をえぐられると解釈したんです。だからそんなに常に孤独を抱えているという芝居はしていないんです。零は過去の出来事として消化しているので、将棋の世界の先輩たちやお世話になっている川本家の人たちと笑顔で接することができるんだと思います。
――零の人生は紆余曲折があり、胸が熱くなったり、辛くなったりと前後編通して濃厚なドラマでしたが、神木さん自身は完成した映画を見て、どのような感想を持ちましたか?
神木:ドキュメントを見ているようでした。自分が出演した映画を見て、こういう気持ちになるのは初めてかもしれません。映画が始まって桐山零の人生がスタートするのではなく、ずっと生きていた桐山零のもとからあった生活の一部を切り取っているような感じがしました。
僕は零の長い人生の途中を生きることができて良かった!と思いました。動いている零をスクリーンに残したいという気持ちで演じていたし、それがきちんと表現されていたかなと。前後編で『3月のライオン』の温かさと熱さの違いも出ていたので、そこも良かったと思います。
神木隆之介(かみき・りゅうのすけ)
1993年、埼玉生まれ。1999年ドラマ「グッドニュース」で俳優デビュー。ほか「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」「11人もいる!」など多数。映画にも多く出演しており『妖怪大戦争』『お父さんのバックドロップ』『桐島、部活やめるってよ』『バクマン!』『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』ほか。新作は『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017年8月4日公開)。
声の出演としては『借りぐらしのアリエッティ』『君の名は。』など。
『3月のライオン』(2017年3月18日前編公開:4月22日後編公開:2部作連続ロードショー)
9歳のときに両親を交通事故で亡くした桐山零(神木隆之介)は、棋士の幸田(豊川悦司)の内弟子となりますが、そこに自分の居場所を見いだせず、彼は幸田の家を出て一人暮らしを始めます。零が棋士としてライバルたちと切磋琢磨しながらも闘い続ける姿とともに、家族の温かさを失った彼を支えてくれる親切な川本家との関係、零を愛憎入り混じった眼差しで見つめる義理の姉の香子(有村架純)との確執など、複雑な人間関係も描いたひとりの若き棋士の人生を描いた物語。
監督/大友啓史
©2017映画「3月のライオン」製作委員会