アカデミー賞で大注目を集めた話題作!
公開中の『ラ・ラ・ランド』はアカデミー賞で監督賞、主演女優賞、撮影賞、作曲賞 、歌曲賞6部門を受賞し、日本でも公開から2週間で興行収入15億円を突破と、批評面と興業面の両方で大成功を収めている作品です。本作がなぜここまで多くの人を魅了しているのか、以下に紹介いたします。大きなネタバレはありませんが、少し内容に触れているところもあるので、これから映画を観る方はご注意ください。
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
1.現代にミュージカルを蘇らせた!だけど古臭くない!
『ラ・ラ・ランド』は、過去の名作ミュージカル映画のオマージュに溢れている作品です。たとえば、主人公の2人が夜景を前に踊るシーンは『バンド・ワゴン』(1952)が元ネタで、『雨に唄えば』(1952)にそっくりな画がいくつもあり、オープニングシークエンスは『ロシュフォールの恋人たち』(1967)をもほうふつとさせるのです。それでいて“こんなの観たことがない!”と思うほど、ミュージカルシーンの数々が幻想的で、楽しくて、とことん魅力的になっているのが本作の一番の長所でしょう。夜であってもドレスが色あざやかに映っていたり、“長回し”で撮影して躍動感を生んでいたりなど、画の色彩や照明、撮影や編集には並々ならぬこだわりがありました。
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
重要なのは、過去の名作にリスペクトを捧げていても、極めて現代的に仕上げているということです。懐古主義的な“昔(の映画)はよかった”な印象はなく(ジャズに対する価値観は保守的ですが)、楽曲はポジティブなものからメロウなトーンのものまで幅広く、ミュージカル映画をまったく観たことがない人へも、その魅力をダイレクトに届けることに成功しているのです
もちろん、これは簡単なことではありません。『ゴッドファーザー』のフランシス・フォード・コッポラ監督が手がけたミュージカル映画『ワン・フロム・ザ・ハート』(1982)は制作スタジオが倒産するほどに大ゴケしていましたし、大ヒットした『ムーラン・ルージュ』(2001)は誰もが知っているおなじみの楽曲を用いて、最新のCG技術や豪華絢爛な衣装やセットで魅せた作品でした。
しかし、『ラ・ラ・ランド』は1950、60年代の当時のミュージカルのようなセット撮影やテクニカラー(当時のカラー映画の彩色技術)を用いて、まさに“昔ながら”のミュージカル映画を再現し、それを現代の若者にも新鮮に映るものに仕上げているのです。さらには世界中で大ヒットしているのですから、これはもう賞賛するしかありません。若干31歳の監督がこれをやり遂げたというのも驚きであり、アカデミー賞監督賞を受賞するのは必然とも言えます。
2.テーマが実に普遍的だ!
本作のテーマの1つになっているのは“夢”です。それも「努力すれば夢は必ず叶う!」といった“スポ根”ものとはまったく違う、“夢についての価値観”が丹念に描かれていました。具体的には、主人公の1人のミアは“ただひたすらに女優として活躍すること”、もう1人の主人公のセブは“ある点において妥協して音楽家として成功すること”という、少し違う道を選んでいくようになっていき、その過程において彼らの“譲れない価値観”というものがはっきり見えてくるのです。
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
しかも、夢を追っていたことのある人が共感できるエピソードが満載で、それが実際の出来事を踏まえているというのもポイント。たとえば、劇中の“オーディションの途中で電話に出られてしまう”というのは、主演のライアン・ゴズリングが本当に体験した出来事であるし、“自分が好きな音楽と違うオーダーに従わなければならない”というのは、デイミアン・チャゼル監督が在学中の卒業制作にて「主人公が好きな音楽をジャズではなくロックに変えろ」と出資者に言われて苦い経験をしたことが反映されているのだそうです。
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、ラストで提示される“あること”にこそ、現代の人々に当てはまる、極めて普遍的なテーマが表れていました。2人の主人公の価値観に共感できる人、同じように夢を見ていた人にとっては、本作は一生の財産になるほどに、大切なものになってくるのかもしれません。
3.実は賛否両論?『君の名は。』に似た魅力のある作品になっている!
本作はデイミアン・チャゼル監督の前作『セッション』と同じく、好評ばかりというわけではなく、激烈なまでの批判意見があることも事実です。メガヒットを遂げているアニメ映画『君の名は。』もそうですが、こうした“基本的には大絶賛であるが批判意見も多い”作品は、言い換えれば“議論が盛り上がる”、“色々な記事を読みたくなる”ということでもあり、それは作品を奥深く知りたい、もう一度観たいと思わせることに一役買っている、さらなるヒットと話題性につながっているのでしょう。個人的に本作における最大の賛否両論の理由は、前述したような“主人公2人の価値観に共感できるか”が鍵であると考えています。2人は夢については絶対的な価値観を持っている分、その他の価値観については“排他的”なところがあり、それは“約束に遅れて上映中のスクリーンの前に立ってしまう”や“プールサイドで名曲をふてくされた態度で演奏している”など、客観的に見れば好ましくない行動としてはっきりと表れていました。ここで、主人公2人が好きになれなくなってしまう人もいるかもしれません。
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
そういえば、『ラ・ラ・ランド』は『君の名は。』とは、美しいシーンが満載なことと、楽曲の魅力が大きいためにサウンドトラックが欲しくなること、主人公2人の気持ちや行動が“世界を変えていく”ことも共通しています。これから話題になる映画も、こうした要素が重要視されていくのかもしれません。
おまけ.なぜ“春”や“夏”などの“季節”が表示されるのか?
劇中で“春”や“夏”などの“季節”がテロップとして表示されていることに、違和感を覚えた方は多いのではないでしょうか。なぜなら、劇中ではずっと夏のような見た目であり、“四季”を感じさせないのですから。それもそのはず、ロサンゼルスは日本の春や夏に似た、1年中暖かく過ごしやすい気候であるので、そもそも季節感がないところが映画の舞台になっているのです。
※こちらの記事をご参考に↓
ロサンゼルスの気候・気温 ベストシーズンを知ろう
それでも“春”や“夏”とテロップが表示されるのは、その季節が主人公2人の気持ちを表しているからなのではないでしょうか。
・オープニングからの“冬”では、2人は寒々しい冬のように人生のどん底にいて
・“春”に2人は出会う
・“夏”に激しい恋に溺れ
・“秋”にはすれ違いが起きて
といったように……
これから映画を観る人は、最後の“冬”が表示されたすぐ後の“びっくりする演出”の意味を考えてみることをおすすめします。これも観る人によって解釈が違うので、“議論が盛り上がる”ネタになりますよ。
『ラ・ラ・ランド』公式サイト