アドバイス1 生活費が公的資金内なら毎年の海外旅行も十分可能
「寿命まで逃げ切れますか? 」というご質問ですが、先に結論から申し上げます。資金的には、逃げ切れると考えていいと思います。ざっと試算してみます。2年後に早期退職した時点で、予想される金融資産の保有額は、現在の金融資産1950万円に退職金2000万円。さらに、今後2年間で900万円(貯蓄ペースが月20万円とボーナス年間200万円超)が貯蓄に上積みされます。
また、老後資金となる収入としては、個人年金保険の総受給額が900万円。拠出型企業年金は退職後、拠出が停止となりますが、結果的に満額の半分の180万円受け取れるとすれば計1080万円。つまりは、公的年金以外に確保できる資金は計5930万円ということになります。
次に支出ですが、退職が56歳であれば、公的年金を受け取るまでの9年間の生活費があります。ご本人は「リタイア後は年間240万円で生活する(税、社会保険料込み)」とのことですから、トータル2160万円。これを先の老後資金から差し引けば、65歳の時点で3770万円がまだ手元にあることになります。
これだけで寿命まで資金的に足りるかということですが、240万円の生活費であれば公的年金だけでの生活が可能です。90歳まで生きるとして25年間。何もなければ、貯蓄を取り崩す必要はないということです。ただし、長生きリスク、さらには病気や介護費用も考慮すべきでしょう。
そのために1000万円を予備費とすれば、老後資金の残りは2750万円。これを25年間で割れば、生活費として月9万円の余裕があることになります。予備費を2000万円としても月に約6万円の余裕資金があります。当然、生活費以外に不定期支出もあるでしょうが、それを考慮しても年1回の海外旅行は十分実現できるはずです。
アドバイス2 インフレが不安ならばアルバイトで収入を得る
心配されているインフレ率ですが、上昇率2%だと85歳で資金が底をつくとのこと。どのような条件設定での試算かは不明ですが、まず現実問題として、ご相談者が90歳になるまで、毎年物価が確実に2%上昇し続けることは考えにくいと思います。仮に今年からずっと2%上がり続けるとすれば、想定していた生活費は月20万円が90歳のときは約28万5000円にアップし、トータルで3520万円程度の老後資金が別途必要になります。そうなると、手持ち資金は270万円に減ってしまいますが、それまで生活費以外に何も支出が発生しない場合ですから、実際には90歳までは資金がもたないと考えるべきでしょう。
そうなることがご心配であれば、どう対処すべきか。もっとも効果的な対策は働いて収入を得ることです。完全リタイアを希望されていますが、不安で仕方がないならば、働かざるを得ません。
とは言え、フルタイムで働く必要はありません。苦にならない程度に週の半分程度アルバイトをする。収入にして月6、7万円あれば十分です。退職後、60代の半ばまで続ければ700~800万円、老後資金が上乗せされます。
もっと老後資金がないと不安というのであれば、早期退職の時期を遅らせるのが賢明です。1年先延ばしすれば、それだけで450万円、老後資金が増えることになります。
もうひとつ、高齢になって資金が足りなくなったら、自宅マンションを担保に資金を借り入れるという手段もあります。現在は都心の一戸建てが対象物件の中心ですが、リバースモーゲージも利用できるかもしれません。どちらにしても、自宅を遺す必要がないならば、有効な対策となるでしょう。
アドバイス3 リタイア後は社会の関わりを意識する
早期リタイアは資金的な不安がもっとも大きいでしょうが、ご相談者の場合、他の部分に目を向けるべきです。ひとつは健康。これは老後生活を豊かにするための前提条件です。健康管理には十分気を配ってください。そしてもう一つが、社会との関わりです。それがストレスを生むことはもちろんありますが、リタイア後、社会とのつながりがなくなってしまい、ただ一人で生きているというのであれば、それもまた問題です。ケースによっては、健康を害する可能性すらあります。
その意味で、先に触れた退職後のアルバイトは、収入以外にも社会との関わりを持つというメリットがあります。もちろん、働くこと以外で接点を持っても構いません。すでにそういう点は考えられているでしょうが、とても重要な部分だということは認識しておいてください。
最後に個人型の確定拠出年金(iDeCo)を活用すべきかどうかですが、してもいいとは思いますが、在職期間が2年なので所得控除のメリットも2年分しか受けられません。上限である月2万3000円を掛けて節税となる額が年間5、6万円といったところでしょうか(口座管理等のコストを考慮せず)。
また、投資による売却益や配当が非課税になる恩恵を受けたいなら、NISAの方が選択できる投資商品も多く、投資額も大きい点で有利だと思います。また、最大5年間という利用期間も、54歳という年齢であればiDeCoの方が有利とも言えないでしょう。
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ
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