年金額の見直しは、原則として毎年4月に行われる
年金額は、一度もらい始めると常に一定ではなく、わずかですが変動しています。年金額の見直しは、原則として毎年4月に行われ、4月分の年金額から変更になります。実際に手元に入金になるのは6月15日の振り込みからとなります。変動幅は年によりますが、多くても年額で1万円から2万円前後です。月にすると数百円から千数百円程度といったところです。
先日の厚生労働省の発表によると、2017年度の年金額は0.1%の引き下げとのことなので、年間200万円受給している人の場合、ざっくりいえば年間で2,000円下がることになります。
この年金額の変動のことを「スライド」と呼びます。
年金額改定のルールとは?
年金額がどの程度変動するかを決定づけているのは、主に物価と賃金の変動率です。どちらが使われるかは、受給者の年齢によって決まっています。67歳になる年度までの人は賃金の変動率(「名目手取り賃金変動率」)が使われます。現役世代に比較的近いため、賃金の変動の影響を受けるということになります。68歳の年度以降は物価変動率が使われます。現役を退いてしばらくたっているため、純粋に物価のみを基準とするというわけです。
ただし、例外もあります。以下の3パターンの場合です。
- 賃金、物価ともに下落したが、賃金の下落の方が大きかった場合は、67歳までの人も物価の変動率で年金の改定が行われます。
- 賃金、物価ともに上昇したが、物価の上昇が上回った場合は、68歳以降の人も賃金の変動率で年金額の改定が行われます。
- 物価は上昇し、賃金は下落した場合は年金額は据え置きとなります。
ちょっと難しいですね。一言でいうと、「67歳までの人の年金額が不利にならないようにする」ということでしょうか。
ちなみに、2016年末に成立した年金制度改革関連法は、このルールを見直すものです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
これに加え、マクロ経済スライドという考え方が導入されています。これは、現役世代の人口減と平均寿命の延びを年金に反映させ、年金額の伸びを少し抑えよう、という仕組みです。このマクロ経済スライドによる「スライド調整率」を物価変動率や名目手取り賃金変動率にかけ合わせて実際の改定を行うことになっています。
ただし、マクロ経済スライドはあくまで年金額の増加を抑える仕組みであるため、年金額が増加しない時には顔を出しません。
このルールに従って、先日の厚生労働省の発表を見てみましょう。
発表された物価変動率は▲0.1%、名目手取り賃金変動率は▲1.1%でした。つまり、例外の1番目に該当します。したがって、年金額は物価変動率に基づいて改定されます。年金額が減額となるので、マクロ経済スライドはお休みです。
具体的な年金額はどうなる?
2016年度の老齢基礎年金の金額は、満額で78万100円でした。実はこの額は、2004年時点の額78万900円から0.1%下がった額なのです。計算式は以下のようになります。78万900円×0.999=78万119円
老齢基礎年金の満額は10円の位を四捨五入ですから、78万100円となっていました。ここからさらに0.1%減額なので、
78万900円×0.999×0.999=77万9,339円→77万9,300円
となります。
老齢厚生年金はもう少し複雑です。厚生年金の金額を決めている要素に給与がありますが、昔の給与を現時点でいくらと計算するかが受給者の生年月日や在職時期によって事細かに決まっています。これを「再評価率」といいます。この再評価率が全体として0.1%引き下げになるということになります。
さらにここに、厚生年金は平成12年改正前の古い計算式があり、通常の計算式と古い計算式で計算をして、有利な方が採用されるという「従前額保障」という制度もあります。
また、厚生年金基金からの給付がある場合は、厚生年金基金の代行部分についてはスライド対象外なので、トータルで0.1%引き下げになるよう、国からの厚生年金の額が従前より0.1%以上引き下げられるケースもあります。ですので、一概にいくら、とは言いにくいところです。
年金は下がる一方なの?
ここ10数年間、デフレの影響で年金額は下がるかよくても据え置きということが多かったため、そもそも年金額とは下がるもの、というイメージがついてしまっていることも否定できません。しかし、実際に2015年度は消費税増税の影響が大きかったとはいえ、物価も賃金も上向いたため、年金額は久方ぶりの増額となりました。今回の改定では残念ながらわずかですが引き下げになってしまいましたが、政府は2%の物価上昇を目標に経済対策を進めています。これがもう少し軌道に乗って、年金額が上向くことを期待しましょう。
【関連記事】