「季節」が原因のうつ病があるって本当?
炭水化物や甘いものがむしょうに食べたくなる過食も、冬季うつ病に表れやすい症状の1つです
うつ病の症状は、憂うつ感、無気力・無関心・無感動、強い疲労感、集中力・思考力・判断力の低下、不安、焦り、睡眠障害、食欲・性欲の低下などがあります。ところが、こうした症状が冬の間だけ現れる季節性のうつ病があり、「冬季うつ病」と呼ばれています。
冬季うつ病は、20~30代の女性に比較的多くみられやすい病気です。個人差はありますが、だいたい秋口から抑うつ状態が重くなり、春には自然と回復して症状がなくなります。そして、この病気に現われやすい症状に「過食」と「過眠」があります。
過食の症状は、とくに午後から夜のあいだに炭水化物や甘いものがむしょうに食べたくなり、たとえばケーキやチョコレートなど、常識を超える量を食べつづけたりする場合もあります。また睡眠時間が長くなり、日中の眠気も強くなります。従来のうつ病であれば、食欲が落ちて眠りたくても眠れず、体重が減少していきますが、冬季うつ病の場合は逆に、体重がどんどん増えていくのも特徴的といえるでしょう。
冬季うつ病の原因は太陽の光が足りないこと
冬季うつ病の原因には、日照時間が大きく関わっています。この病気が注目されるようになったのは、フィンランドやスウェーデンなど、冬季の日照時間が極端に短い北欧で多くの患者が報告されたからです。いまや北欧では冬季うつ病はポピュラーな病気であり、その発症率は人口の10%にものぼります。日本でも、北海道や東北、北陸地方など日本海側の地方に住む人が、冬季うつ病を発症するケースが多くなっています。日照時間の不足が、なぜうつ病を発症させるのかというと、脳が分泌するセロトニンとメラトニンの量に関係しています。
脳内の神経間の情報伝達を担う「脳内神経伝達物質」のひとつであるセロトニンは、気分のバランスを維持していくうえで重要な物質であり、その不足は、うつ病が発症する原因になります。またセロトニンの作用は、太陽の光によって増強されます。一方のメラトニンは、覚醒と睡眠を調整して生体リズムを作る基礎になる物質で、夜間の睡眠中に分泌量が最大になり、太陽光を浴びると抑制されます。
ところが日照不足になると、セロトニンの作用が弱まり、メラトニンの分泌が起床時にも多いままになり、うつ状態になってしまうと考えられるのです。
予防と対策は日光浴と生活習慣の見直し!
日照不足が大きな原因で起こる冬季うつ病の予防には、何より、自然の光を浴びることが予防となり、対策となります。朝起きたら、すぐにカーテンを開けて、直接日光を浴びるようにしましょう。日中もチャンスがあれば日光浴をするように心がけ、メラトニンを減らすようにします。曇りでも室内よりも屋外のほうが明るさのレベルは高いので、朝はすぐにカーテンを開けることを習慣にしましょう。実際に、冬季うつ病と診断されれば、専門の病院などで「高照度光療法」という治療を受けるかもしれません。これは、2500~1万ルクスの人口の光を浴びることで、体内時計を調節して生体リズムを整えるという治療法で、多くの患者で効果があるといわれています。最近は、自宅で使える光療法用の照明機器や、太陽光に近い光と音を出す目覚まし時計も市販されています。このような便利グッズを利用するのも手です。
また、日照不足によって体内で生成されるビタミンDが減ることも、冬季うつ病の要因だという指摘もあります。北欧では、牛乳など一部の食品にビタミンDの補充を義務化するなど、国の政策としてビタミンD不足問題に取り組んでいる国もあるほど。ビタミンDは魚や卵、キノコ、牛乳などに多く含まれているので、これらの食材を食事に積極的に取り入れるようにしましょう。
冬季うつ病でなくても、冬は何となく倦怠感や疲労感を感じる季節です。そうした気持ちの落ち込みに対しては、規則正しい生活と運動を毎日の習慣に取り入れることで、症状の改善を期待することができます。
食生活では、サバ、いわしなどの青魚の油に含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)には抗うつ効果があることが知られているので、食事に積極的に取り入れることをおすすめします。運動もジョギングなどの有酸素運動が最適ですが、通勤時に1駅分早歩きするだけでも気持ちのリフレッシュになりますし、冬季うつ病にありがちな肥満予防にもなります。さらに詳しくは「冬季うつ病の治療法・改善法」をあわせてご覧ください。
(監修:メンタルヘルスガイド:中嶋 泰憲)