アドバイス1 撤退する明確なラインを決めておく
ご相談は早期退社され、独立開業にあたってのポンイト、注意点ということですが、起業される内容がビジネス的に有望かどうかは判別できません。ただ、ライフプランの観点からアドバイスするならば、どのような業種であれ、必要なのは「ダメだったら潔く手を引く」という線引きだと思います。理由は、すでに57歳だということ。潤沢な開業資金があれば別ですが、そうでなければ資金的に大きな負債を負った場合、時間的に回収が難しい年齢です。損失が出るならば、それは極力小さく抑えたい。成功報酬型というのも気になります。フランチャイズですが、損失はそのまま本人が被るということになるからです。
どのあたりで線引きするかは考えた方次第ですが、現在の資産から考慮するなら、どんなに引っ張っても手持ち資金の50%を割るようであれば、それが限界でしょう。独立開業とは言え、個人で行うわけですから、損失はそのまま老後資金の目減りに直結します。取り返そうとズルズル損失を大きくしてしまう、それだけは絶対避けなくてはいけません。従って、明確な「撤退ライン」を決めてください。
アドバイス2 奥様にも働く覚悟が必要となる
もうひとつ、仮に自営から手を引いたとします。その場合、アルバイトで構いませんので、働いて確実に収入を得ることが大事です。とくに公的年金支給が始まる65歳までの間、貯蓄を取り崩すだけの生活になることはかなりのリスクとなります。現在の生活費が月額22万円。固定資産税や不定期支出を考慮すると、年間300万円は必要と考えるべきでしょう。退職金は不明ですが、今ある貯蓄だけでは5年も持ちません。
場合によっては、奥様にもパートをしてもらう。本気でリスクヘッジをするならば、独立開業と同時に奥様には働いてもらい、必ず収入を得られるようにしておく。ご本人も成功は「そんなに甘くはない」と考えられているようですが、考えているだけでなく、具体的な対策を打っておくことが大切です。独立開業はそのくらいの覚悟を奥様にも求めるほどのチャレンジであると、認識してください。
もちろん、成功すればそういった心配はすべて杞憂となります。ここまでの話はあくまで失敗を想定してのことです。しかし、その失敗が老後そのものに影響を与えます。このくらい慎重であってしかるべきでしょう。
アドバイス3 独立開業の成功と「悠々自適」に結びつかない
もうひとつ、自営業の私からアドバイスをするならば、ご相談者が望まれている「悠々自適な生活」はそう簡単ではありません。多くの業種では、仕事が順調であっても、いや順調であればあるほど、忙しいからです。自分の時間も持てず、仕事に追われる毎日。会社勤めのときのように勤務時間が決まっているわけでもなく、残業代も有給休暇もありません。収入が増えれば、会社員時代より確実に多忙となります。そういった生活を悠々自適とは呼べないのではないでしょうか。
それでも「悠々自適」を目指すなら、人を雇い、しっかりとした組織を構築して、仕事の大半を信頼できる部下に任せるということになります。あるいは財産を築き、事業を他人に譲る。それは独立開業を軌道に乗せるより、はるかに高いハードルとなるはずです。
最後に親御さんの土地相続における信託商品の活用ですが、その心配は不要でしょう。相続人が複数いるなど、相続そのものが複雑で難航することが予想されるならば活用も選択肢の一つですが、相続人は弟さんとの2人だけ。まずは、どういう相続をお互い望むのか、兄弟で話し合ってください。信託商品にはそれなりの手数料が発生します。コストを掛けず済ませる方が賢明です。
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ
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