妖精のような老夫婦

愛知県春日井市に、素敵なシンプルライフを送るご夫婦がいます。
それは、高蔵寺ニュータウンに住むつばたご夫妻。

お住まいは雑木林に囲まれた丸太小屋。87歳と90歳という高齢ながら、畑仕事や、機織りなどの手仕事を楽しんでいます。敷地内に作ったキッチンガーデンで採れる野菜や果物で作り出すおいしいお料理、それを親しい人と分かち合う暮らし。

なんだか、妖精のようなご夫婦ですが、いったいどんな生活なんでしょう?
映画トップ

ヨットマンだった修一さんと、造り酒屋のお嬢様だった英子さん。おとぎ話の主人公のような二人ですが…?(C)東海テレビ放送



雑木林の丸太小屋

このお家は、建築家である夫・修一さんが、かつて師事したアントニン・レーモンドの自宅兼アトリエに倣って設計したもの。装飾を排し、玄関さえないシンプルな構造で、小さな台所を備えた内部には、寝室にも仕切りがありません。天井は高く、夏には太い梁にハンモックを吊るすこともできます。

質素な室内ですが、置かれているのは重厚な松本民芸家具、食卓に並ぶのはジノリやヘレンド、九谷や砥部などの洗練された食器ばかり。食事の際は真っ白なテーブルクロスを欠かしません。
室内

使い込まれた家具や什器に、生活への愛を感じる室内。細かいものも分類され、色や規格を統一した収納に、番号をふってあるので、何がどこにあるかすぐにわかる(C)東海テレビ放送



自家製野菜と果物が彩る食生活

その食卓を飾るのは、お二人が丹精して育てた野菜や果物たちです。落ち葉や生ごみたい肥だけで育て、春にはキャベツやえんどう豆、初夏にはいちごやさくらんぼ、夏にはトマトやきゅうり、秋には栗や柿と、四季折々の収穫がありますが、その数、野菜70種類、果物50種類とか!

それらを、日々の食事やお菓子に、また塩漬けやジャム、乾燥野菜として保存食に、さまざまに活用して食卓をととのえます。梅酒やらっきょう漬けばかりか、ハブ茶や麦茶さえ自家製です。修一さん設計の燻製器で作るベーコン、月に一度搗くお餅など、特別なご馳走も、津端家の食生活を彩っています。
みかん

果物は、お菓子作りに。ジャムやコンポートにしておけば、パイやケーキがいつでも焼ける(C)東海テレビ放送



いちばん大切なのは「食」

お米や肉・魚、乳製品などは、お店や生産者を決めて購入しています。どれも、品質の確かな信頼のおける食材ばかり。そのため割高になってしまいますが、英子さんは、「食べるものは、生きていく上で一番大切よ」(『ときをためる暮らし』)。と、妥協しません。

高齢となっても健康で好奇心旺盛、まめまめしく働くご夫婦の、センスよい質の高い暮らし。

あなたも、つばた家にお邪魔してみたいと思いませんか?
ならばぜひ、この映画を観に行ってください!
室内の夫妻

実際は、2ショットを撮るのが困難なほど、二人は一日中別の場所で別のことをしていたそう。それが、長く一緒に暮らすコツかも?(C)東海テレビ放送



つばた家の暮らしが映画になりました!

東海テレビの取材チームが2年近くかけてつばた家に通い、そのていねいな暮らしを撮りためた番組が、2016年3月に放送されました。派手なイベントはなく、老夫婦のたんたんとした日々がつづられた作品でしたが、静かな反響を呼び、第12回日本放送文化大賞・グランプリを受賞しました。

今回上映される『人生フルーツ』は、それを劇場版として再編集したものです。2017年1月2日の公開に先立ち、監督の伏原健之さんにお話を伺うことができました。
花

つばた家のテーマカラー、黄色で塗られたプレート。たくさんある花や作物の管理に活躍(C)東海テレビ放送



監督が見たつばた夫妻

伏原監督 最近、テレビでも高齢社会を反映した番組を制作することが増えています。その論調は決まって、「このままでは日本は……」「このままでは社会は……」という暗いもの。間違ってはいないけれど、それだけでは不安をあおるばかりですよね。もっと、歳をとることに希望を持てるような事例はないか、と思っていたところに、つばたさんご夫妻のことを知ったんです。
監督

伏原健之監督。東海テレビで報道、番組制作に携わる。劇場公開作は『神宮希林 わたしの神様』に続く二作目



お金持ちかと思っていたが……

伏原監督 僕は最初、「こんな素敵な暮らしは、お金持ちだからできるんだろう」と思っていました。でも、実はそうじゃなかった。あの素晴らしい食器類だって、家具だって、毎年1客ずつとか、こつこつと長い年月をかけて揃えていったものなんです。コンビニやスーパーには行かず、お金と時間をかけて、わざわざ遠くの店で食材を買うことも、人に惜しげなくおもてなしをするのも、お二人が「お金」ではなく、「人との関係」に価値を見出していたからだと思います。
ドールハウス

お孫さんのために、修一さんが自ら設計製作したドールハウス。お孫さんの望みをすべて叶えてある(C)東海テレビ放送



貯金よりも「暮らしの豊かさ」を選んだ

英子さんは、200年続いた造り酒屋のお嬢様育ちですが、結婚した修一さんは、住宅公団のサラリーマン。ヨットマンだった修一さんが、年収以上のヨットを買うのを、英子さんは借金をして支えます。

毎日着るもの、毎日使うものにはお金に糸目をつけず、次の世代に譲れるものを選び、長く大切に使う。その代わり、クルマは持たず、家族旅行も遊園地も行かず、修一さんはお酒を飲みに行くこともありませんでした。

蓄えとは無縁で、老後は年金生活でしたが、畑仕事を楽しみ、何でも自分たちで作り出す暮らしは、病弱だった英子さんを健康にし、90歳の修一さんにマウンテンバイクを乗りこなす体力を与えました。
ポスト

季節を大切にするつばた家。英子さんは、季節ごとにファブリックや食器も変え、暮らしを楽しんでいる(C)東海テレビ放送



学びたいな、この人たちに

伏原監督 僕自身は、消費文化の中で育ち、さらにテレビ番組の制作という「もっと面白いもの、もっといいものを」と、情報をかき集める生活をしてきました。でも、次第に「これでいいのかな?」という疑問を持つようになってきたんです。その時に、モノを否定するのでもなく、消費に取り込まれてしまうのでもなく、人情だけに頼るのでもない彼らの暮らしにふれて、「実は、新しい暮らしのあり方なんじゃないか」と思ったんです。「学びたいな、この人たちに」。

だから「目利きでインテリだからできた、特別な暮らし」とは思われないようにしたかった。同じにはいかなくても、普通の人にもマネできるところがあるんじゃないか、と思ってもらいたかったんです。
プラン

夫妻が住むニュータウンの計画を任されたのは、実は若き日の修一さん。しかし、自然を生かした画期的なプランは経済効率のために覆され、平板な街に。だが、自分一人でも木を植え、森を復活させる試みを長年続けてきた(C)東海テレビ放送



人生の実りを

実は、映画の終盤で、修一さんが亡くなってしまいます。ある日の草むしりの後、いつものお昼寝から醒めなかったのです。安らかな、見事な最期を、カメラは映し出しています。そして、その少し前、修一さんは建築家として最後の、そして最高の仕事を遺していったのでした……。(くわしくは、映画で!)
秋

当初の構想とはうらはらに、表土をはぎとられてしまった造成地に、修一さんが植えた木々は、秋に葉を落とし、土を肥やしていく(C)東海テレビ放送


『人生フルーツ』というタイトルにこめられた思いは、
「人生はいいものだよ、いつか実を結ぶものだよ」。

樹木希林さんによるナレーションも素敵です。
たわわに実った果実のような人生を、ぜひ、映画館で。
水飲み場

小鳥の水飲み場。映画の中で、象徴的に扱われている(C)東海テレビ放送


『人生フルーツ』
2017年1月2日(月)よりポレポレ東中野にてロードショー、ほか全国順次




とき

『ときをためる暮らし』(自然食通信社)

修一さんと英子さんの喜びに満ちた暮らしの記録は『ときをためる暮らし』をご覧ください。英子さんのオリジナルレシピもたくさん!

 

 

ふたり

『ふたりからひとり~ときをためる暮らし それから』(自然食通信社)

修一さんを見送ってからの、英子さんの新たな暮らしについては『ふたりからひとり』をどうぞ。

 
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