海を楽しむ週末移住から起業、完全移住。河瀬豊さん、愛美さん(静岡県熱海市)
休日もなく働くお二人だが、表情は明るく、楽しそう
週末、海を楽しむために静岡県熱海市にマンションを購入したにも関わらず、移住して起業、忙しく働くご夫婦がいる。八景島のドルフィンファンタジーで結婚式をしたというほど、海が大好きな河瀬さん夫妻である。2006年の結婚以来東京に住んでいたが、2011年に実家の住宅ローン支払いが終わったのを機に熱海にマンションを購入、週末移住を開始させた。
地元との交流ゼロからいきなり転機が
「車の買替えか、マンション購入かで悩みましたが、海の近くで暮らしたいとマンションを買うことに。千葉から小田原辺りまで広く物件を見ましたが、熱海で海の真ん前にあるマンションと出会い、電車利用で近いこと、ほどほどに都会であることなどを考慮して決定。しばらくは金曜日に新幹線で来て、海を満喫、月曜日の朝に熱海から出社する生活を送っていました」(豊さん)。転機が訪れたのは2012年6月。物件を購入した地元不動産会社主催で購入者交流イベントがあり、そこで完全移住をした人達と話す機会があり、完全移住を考え始めたのである。そのすぐ後には熱海で街の活性化に関わっている市来広一郎氏との出会いがあり、そこから人間関係が一気に広がった。
東京での暮らしは機械的。自然や季節の移り変わりが身近に感じられない
「平日に東京、土日に熱海で暮らすようになって、東京での暮らしはロボットみたいだなと思うようになっていました。機械音で起きて、ベルトコンベヤーに載せられるように通勤、窓から見えるのはビルばかりで季節もない。ところが熱海では日の出とともに目が覚め、自然や季節感が身近に感じられる。食べ物も美味しい。これこそが人間らしい生活だと思っていたところに地元の二代目、三代目経営者や熱海で起業した人達と出会い、移住して起業という手があることに気づきました」(豊さん)。そこで目をつけたのが急坂が多く、高齢者が多いという土地柄。豊さん自身が小学生時代に集中治療室で2カ月間、外出はおろか、寝返りも打てない生活を送ったことがあり、動けない辛さを知っていることもあった。「高齢者が外出できるよう、介護・福祉タクシー事業を始めようと思ったのです」。
熱海は高齢化率が高く、坂が多いなどシニアには優しくない面もあり、仕事は順調に成長している
2012年12月には移住、起業を決意。2013年2月には住民票を移し、3~4月にはヘルパー2級、4~5月にはタクシーの2種免許、7月には法人登記と2013年は準備に費やし、同年12月24日には開業に漕ぎつけた。
開業に向けて大きな助けとなったのは妻、愛美さんが看護師だったという点。「病院、その他施設と看護師ならどこに行っても仕事はある。だから、移住には大賛成でした」(愛美さん)。
歯車の一部ではない、主体的な仕事を
開業から約3年。最初は月に数万円だった売上は順調に伸び、現在は月に2日ほどしか休めないほどの忙しさ。2016年5月には熱海市初の患者等搬送事業者の認定を受けてもいる。「海を楽しみたいから熱海だったはずなのに、起業決意後はそれどころではない生活。でも、サラリーマン時代は歯車の一部で、仕事の成果が見えなかったのに対し、今は自分が主体となって仕事をしている実感があります。熱海市は人が少なく、特に若いプレイヤーが少ないのでチャンスはいくらでもある。もちろん、東京でもあったのかもしれませんが、私達には熱海だった。それにこの仕事は直接感謝される仕事で、やりがいがある。東京の生活に戻りたいと思いませんね」(豊さん)。
コンパクトな街では人間関係が仕事に繋がることも多く、そのあたりも東京都の違い
人生で今が一番忙しいという愛美さんも同意する。愛美さんは介護・福祉タクシーの仕事以外に、地元の熱海高校福祉コースの授業を週1回担当、家族に代わって介護の手助けをする「全国訪問ボランティアナースの会(キャンナス)」の活動も行っており、忙しくも充実した毎日を過ごしている。
「熱海高校の仕事は地元のマルシェで商工会議所の人に紹介してもらったのがきっかけで、授業をすることに。こうした人の紹介で縁が繋がりやすいのは小さな街ならでは。縁が縁を呼び、いろいろな人と知り合い、世界が広がっていくのを実感、忙しくても楽しいですね」(愛美さん)。
かつては名刺を持たず、人見知りが激しかったという愛美さん。最初に異業種交流会に参加した時には主催者に参加者を引き合わせてもらう状況だったというが、回を重ねるうちに自分から挨拶に回れるようになり、今では初めての参加者を紹介するまでに。住む場所を変えたことが仕事を変えただけではなく、世界や人生をも変えた。そんな風に思えるお二人である。
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