“うるキュン”なラブストーリーから、オトナが学べることって?
映画で描かれる「僕らのごはん」とは? (c)2017『僕らのごはんは明日で待ってる』製作委員会
恋愛には障害やすれ違いがつきもの。そんな壁に出会ったとき、つい一歩踏み出せずに諦めてしまう人にオススメしたい恋愛映画があります。大切な人と希望に満ちた未来を手に入れるために、映画から学べることとはなんでしょうか?
今回の映画『僕らのごはんは明日で待ってる』の主人公、亮太(中島裕翔)と小春(新木優子)は高校の同級生として出会います。家族をなくした悲しみから立ち直れずにいた亮太でしたが、体育祭をきっかけに小春と親しくなり、唐突な告白に戸惑いつつも明るい彼女に惹かれていきます。
そこには、イマドキの王道恋愛映画にあるような「壁ドン」や「顎クイ」なんていう派手なシーンはないけれど、そこにあるのはケンタッキーでチキンを食べたり、ファミレスでごはんを食べる日常。そして、亮太は彼女にも自分と同じように心に悲しみや喪失感を抱えていることを知り、デートを重ねていくうちに2人が少しずつ変わっていく様子は、オトナ世代には、少し初々しく、懐かしい思い出として響きます。
いつも前向きで気丈な小春ですが……。(c)2017『僕らのごはんは明日で待ってる』製作委員会
そして、結婚を意識するようになったある日突然、あまりにもアッサリと、小春は亮太に別れを切り出します。実は、彼女には好きだからこそ言えない秘密があり、それを知った亮太は、小春のもとに走り出すのですが……。
このようにお互いに悲しみを抱えながらも、どん底の時期をどうやって乗り越えていくか、どうしたら運命の恋を育てていけるのか、……オトナ世代でも、この映画から学べることはたくさんあります。
さっそく、市井昌秀監督に、インタビューし、恋愛で「殻を破る」方法を聞いてみました。
自分の殻を破るときの「熱量の高まり」を日常で描き出す
市井昌秀監督 1976年4月1日生まれ。2013年の『箱入り息子の恋』では、第54回日本映画監督協会新人賞を受賞。主演の星野源を第37回日本アカデミー賞新人俳優賞に導いた。
―― 本作は、人気小説の映画化でしたが、台詞は原作に忠実でしたね。映画化に当たって心がけたことは?
「瀬尾まいこさんの原作を読んで共感し、感じたことを、特殊なカメラワークではなく、芝居をじっくりと見つめるようにしました。また、筋を追うだけでなく、あえてカットを切らないで日常の自然な瞬間を大事にしたつもりです」
――ケンタッキーのカーネル・サンダースの人形を抱えるシーンは原作になく、オリジナルだそうですが。
「小春はケンタッキーのチキンが好きで、チキンに関する場面は、強がりな小春が初めてつらい過去を打ち明けた大切な思い出で、サンダース人形は2人にしか分からない合図でもある。当然、ほかの人たちは、きょとんとするしかないのですが、それが“2人だけの熱量”を引き立たせている場面です。僕がずっと描いてきたテーマでもあるのですが、“何と言われようが、他人の目なんて気にする必要ないじゃん!”ということです」
――草食系というと安易ですが、亮太のように、自分の殻に閉じこもる繊細な男性って、増えているような気がします。自分の殻を破りたくても、なかなか勇気が出ないという人も多いと思うのですが。
「僕も基本、人見知りですし、殻に閉じこもった時期もあります。ただ、振り返って考えてみると、相手に何かを伝えるということは諦めないほうがいいなと思います。やるかやらないかで迷うなら、やったほうがいい……と年齢を重ねた今だからこそ感じるし、後悔はしないほうがいいなと。だからこそ、他人の目を気にしている場合じゃないということを表現したい、というのはあります」
市井監督と、小春役の新木優子さん。(c)2017『僕らのごはんは明日で待ってる』製作委員会
―― 一方、小春のように人に弱みを見せずに明るく振る舞うことで衝突を避ける人もいます。彼女のようなタイプにアドバイスするとしたら、どんな言葉を贈りますか?
「前半の小春は、重たいものを隠して、“嘘の笑顔”をしていることがあります。そして、亮太との心の距離が近くなることで、嘘がどんどん剥がれていく。小春が自分の過去を吐露することで止まっていた時間が動き出して、最終的に嘘は剥がれる。小春は自分から積極的に行動するように見えて、どこか自分にストッパーをかけてしまうところがある。でも、信じられる人に出会ったら本心を託してもいいんじゃないかと思います」
――信じられる人と本心で向き合える関係は理想ですよね。これからそういう関係を築こうという人に“これだけは忘れないほうがいいよ”というアドバイスをいただけますか?
「人はひとりでは生きていけるわけではないということですね。亮太と小春にしても高校時代に一緒に過ごした仲間や、大学で出会った友だちがいて、たくさんの人の出会いの中から自分たちの未来を見つけることができたので。最初はぎこちなくても、相手のことをちゃんと考えていれば想いや熱量は伝わるもの。結局は、人を思いやる気持ちが大事だと思います」
――最後に、“最高も最低も乗り越えられる”そんな運命の恋を手に入れたい人へのメッセージをお願いします。
「『僕らのごはんは明日で待ってる』というタイトルは、単純に “おいしいごはんがあれば、明日も生きられるよね”というような未来的な意味を表すだけでなく、“今まで食べてきたごはんを糧にしていこう”というメッセージでもあるんです。
悲しい思いも苦しかった経験があっても、それを糧にすることで明日につながり、かけがえのない日常を獲得できるのではないでしょうか。
たしかに、今の時代は人と深くかかわらなくても、楽しいことはたくさんあります。それは、もちろんひとりで食べてもおいしいのだけれど、誰かと一緒に食べるともっとおいしく感じられる。そのためにも、自分の殻やストッパーを外して、他人の目なんか気にしないで、後悔しないように気持ちは伝えていってほしいと思います」
今日頑張って食べたものは明日につながり、明日おいしいごはんを食べるために今日がある。それだけではなく、つらい過去も糧にすることで乗り越えられることも…。
マイナスの面で結びつくと不幸になるとも言うけれど……
性格は正反対でも、亮太と小春は同じように「家族をなくした悲しみ」を経験しています。人は自分と似た部分があると惹かれ合うけれど、マイナスの面で結びついているということで不幸になるという恋愛論があるのも事実。実は、小春は最愛の祖母にそんな忠告をされ、その意見に従おうとしました。
ただ、高校時代に暗かった亮太が自分の未来に対して前向きになれたのは、小春が悲しい過去を乗り越える方法を自分で見つけていて、手を差し伸べてくれたからです。いつもたそがれてばかりいた彼が強くなれたのは、彼女が明るい方向へと強引に誘い出してくれたから。
確かに、「心の闇で惹かれ合うのは不幸のもと!」と切り捨てるのは簡単。でも、自分が辛かった過去を乗り切ったように「この人にもその苦しみから立ち直ってほしい」と真剣に考え、救いたいと思ってくれることほど、心強いものはありません。そして、辛い過去があったとしても、それを乗り越える熱量で、恋愛や幸せな未来をつかむための一歩を踏み出せるのではないでしょうか?
映画『僕らのごはんは明日で待ってる』 公開情報
出演:中島裕翔 新木優子美山加恋 岡山天音 片桐はいり 松原智恵子
監督・脚本:市井昌秀
原作:瀬尾まいこ「僕らのごはんは明日で待ってる」(幻冬舎文庫)
配給:アスミック・エース
2017年1月7日(土)ロードショー