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どこまで進んだ!? 再生可能エネによる暮らしの可能性

太陽光発電システムの普及など、再生可能エネルギーの活用が住まいや街づくりの分野で進みつつあります。では、それはどの程度の進捗度合いなのでしょうか。この記事では、あるスマートタウンにおける実証実験の内容を紹介し、進捗の様子や今後の課題などについて明らかにします。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

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住まいや暮らしの分野において、省エネルギー化は大変重要なテーマとなっており、日々進化しています。例えば、これまでZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及など住宅単体の省エネ化が進んできましたが、これからは街や地域、自治体などより広い範囲での省エネ化の動きが拡大していくはずです。そこで今回は最近、私が取材してきたある実証実験についてご紹介します。将来的に住まいや暮らしのエネルギーのあり方がどうなるのか、少なくともイメージしていただけるとともに、より省エネで環境に優しい社会の実現に向けてどのような課題があるのか、についてご理解いただけるはずです。

普及が進む太陽光発電システム

まず、実証実験について紹介する前に、住まいや暮らしの省エネ化のこれまでの内容について簡単におさらいしておきましょう。まず、「再生可能エネルギー」の活用が、従来よりずっと進んできました。中でも、住まいの分野では特に太陽光発電システムの普及が急速に進みました。

スマートハイムシティ研究学園

「スマートハイムシティ研究学園」の様子。全ての住戸に大容量の太陽光発電システム、HEMS、家庭用蓄電池が備えられている(写真はセキスイハイム提供。クリックすると拡大します)

総務省の「平成26年全国消費実態調査」によると、2人以上の世帯の太陽光発電システムの普及率は6.6%で、前回の平成21年調査(1.6%)より5ポイント上昇しています。この数字だけをみると、普及のスピードはそれほどではないようにみえますが、最近は賃貸住宅や分譲マンションなどでも太陽光発電システムが設置されるケースもありますから、暮らしの実態レベルではもっと普及しているように思われます。

これは、東日本大震災以降、家庭での省エネ意識が高まっていることに加え、政府による太陽光発電システムなどの省エネ住宅への補助、「再生可能エネルギー買取制度」(FIT)がスタートしたことなどで、設置による経済的なメリットが高まったことが要因です。ちなみに、高効率給湯器の普及率は23.9%で、前回調査(5.1%)より18.8ポイント上昇しています。

話を再生可能エネルギーに戻すと、これは太陽光や水力、風力、地熱などのことをいいます。これらは石油や石炭など温暖化ガス(CO2など)を発生するエネルギー源とは異なり、地球環境に優しく温暖化防止に役立ち、かつ枯渇することのないエネルギーです。

しかし、気象条件に左右されやすいこと、エネルギーを得るための仕組みづくりが難しいこと、その結果、石油や石炭と比べて発電効率が劣り、発電コストが高いというデメリットがあります。ですから、このようなデメリットを解消し、再生可能エネルギーをより効率良く活用できれば省エネに大きく貢献できますし、地球環境により優しい社会をつくることができるはずです。

発電エネルギーの様子

(出所)経済産業省エネルギー庁「エネルギー白書2016」


ちなみに、我が国全体の発電供給量をみると、2013年度に再生可能エネルギー(新エネルギー)は3.2%となっています。東日本大震災前の2010年度は1.1%に過ぎませんでしたから大きくは増加していませんが、現在(2016年)ではさらに拡大しているのではないでしょうか。

太陽光発電をより効率良く活用する実証実験がスタート

このような大前提をご理解いただいた上で、実証実験の話に移ります。実証実験を行っているのは、セキスイハイム(積水化学工業住宅カンパニー)と東京電力、茨城県つくば市にある分譲住宅地の住民の方々などです。

分譲住宅地は「スマートハイムシティ研究学園」というスマートタウン。そこにある20戸の住宅の蓄電池を連携させ、太陽光発電システムが発電した電力をより効率良く活用することを目指したもので、それを可能とするバーチャルパワープラント(VPP)という仕組みの運用の実証実験です。

VPP概要

バーチャルパワープラントの概要図


VPPとは小規模な自家発電設備、太陽光発電、燃料電池、蓄電池などの複数の分散電源を、通信ネットワークでまとめてマネジメントし、それらを持つ地域を一つの発電所のように機能させるシステムのことです。

このようなシステムが出来上がると、既存の大規模発電所からの送電電力にほとんど依存せずに、従来より小さなエリア、例えば街や自治体といったレベルでエネルギーを自給自足しやすくなります。このような社会のあり方を「マイクログリッド」といい、この実証実験はマイクログリッドを実現する中核的な技術となります。

さて、各住戸(20棟)には全て大容量の太陽光発電システム、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)、家庭用蓄電池が搭載されています。その住戸と積水化学工業の筑波事業所を、さらに地域版のエネルギー・マネジメント・システム(EMS)で結び、相互に電力のやりとりをするというものが基本的なスキームです。

各住戸は太陽光発電システムで発電し、必要な分を消費しますが、余剰電力を蓄電することで1日中の電力の自給自足できるレベルにあります。ただ、時間帯や天候によって発電電力の不足や余剰も発生してしまいますから、それをうまくコントロールしようというのが、この実験の第一のミソです。

再生可能エネルギーのデメリットを解消する蓄電池

積水化学工業の筑波事業所が実証実験の中に組み込まれていますが、これは各住戸の余剰電力をこの事業所に供給することによって、電力供給のピークカットが可能かどうかを検証するものです。住宅は一般的に、住民が仕事や学校で昼間はいないことが多く電力の使用は減ります。その時、蓄電池に貯められた電力を事業所に供給するわけです。

蓄電池

採用されている家庭用蓄電池。近年は技術革新が進み、このような省スペースタイプのものも登場している(クリックすると拡大します)

そして、もう一つ大切なことが家庭用蓄電池の存在です。蓄電池があれば、太陽光発電システムで発電した電力を貯められますから、再生可能エネルギーのデメリットの一つである気象条件の問題をある程度解消できます。

実は蓄電池から東京電力などの電線に電力を流すということは、これまで行われていなかったこと。電線には発電所から送られてくる電力が既に流れていますから、それにプラスして蓄電池から電力が流れてきた場合、電圧の問題など安定的な電力供給の妨げになる可能性があります。

そのあたりの問題をクリアできるかということを、高いレベルで確認しようとしているわけです。なお、今回使用される電線は、東京電力の通常のものを使用しています。この点も大きな注目点の一つです。

大手電力会社の所有物ではない電線を引くのではなく、自治体などが所有する「自営線」によるスマートタウンはこれまでにもありました。しかし、この場合はコストが非常に高くなる傾向があります。ですから、既存の電線を活用することは、将来に向けたコストダウンになるわけです。

この他にもまだまだこの実証実験には狙いがありますが、その一つがこのシステムが確立された場合の電力料金の設定の仕方です。住宅は建物の大きさはもちろん、家族構成、ライフスタイル、生活時間、さらには所有している家電の内容や数がそれぞれにおいて異なります。

ですから、電力の使用量が多い住戸、少ない住戸が発生します。電力のやりとりを行う上で、電気料金は公平でなければなりませんから、公平にするための仕組みづくりをこの実証実験で行おうとしているのです。

再生可能エネの活用・普及を損なわないために

ところで、セキスイハイムは太陽光発電システムを搭載した住宅の供給が16万棟超にのぼる、スマートハウス分野のリーディングカンパニーの一つです。そして、その中の多くで現在、FITを活用しています。

太陽光発電システム

メガソーラーなど大規模な太陽光発電システムの設置の設置も進んでいる。今後、FITが廃止されると大規模な設備の普及は減速するかもしれない(クリックすると拡大します)

ただ、この制度は近い将来、廃止されることが予想されています。つまり、太陽光発電システムによって生み出された電力を売ることによる経済メリットがなくなってしまうわけで、その対応が求められるのです。

そうした際に、電力会社から購入した電力にあまり頼らず、太陽光発電システムの電力で自給自足に近い暮らしができるようにすれば、売電収入がなくなることによるデメリットを吸収することができるようになります。

既に紹介したように、太陽光発電システムは経済性のメリットがあるから世の中に普及したわけです。FIT終了後にも太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用がもっと広がるようにするために、今回ご紹介したような実証実験が行われているのです。

また、このような仕組みが出来上がれば、省エネや環境配慮につながるほか、大きな災害が発生しても停電などの発生エリアが限定されやすいため、災害に強い街・社会づくりにも貢献が期待されます。まだまだクリアしなければならないことがたくさんありますが、再生可能エネルギーを有効活用する動きが少しずつ実現していることをご理解いただければと思います。


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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