食事で不足する栄養素は、サプリで摂れば大丈夫?
「忙しくて食事がいい加減になっているけど、栄養はサプリから取れば大丈夫だよね」……。そんな過信は禁物です。サプリと食事の違いを押さえておきましょう。
でも栄養に関する専門知識もない状態で、本当に必要な栄養成分を見極めることは本当に難しいことです。そして例え高額なサプリメントであっても、口に入れた栄養素がそのままその機能を果たすのかどうかはわからないのです。
今回、米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究で、「サプリメントからカルシウムを摂取すると、動脈にプラークが蓄積し、心臓にダメージを与えるリスクが高まる可能性がある。反対に、カルシウムが豊富な食品を多く摂る食生活には心臓の保護効果がある」という驚くべき報告がありました。
この研究チームは、以前から高齢者がカルシウムのサプリメントを摂っても、骨格まではたどり着かなかったり、尿に排出されなかったりした結果、身体の軟部組織に蓄積されていると考えられるため、心臓や循環器系にカルシウムがどのような影響を持つのか興味を持っていたそうです。研究チームは、結果からこのように示しています。
今回の調査結果は、カルシウムサプリメントとアテローム性動脈硬化症について観察したもので、因果関係の証明にはまだ至っていません。また海外での研究ですから日本人においてどうなのか、また量や健康状態などの条件によって、同様にリスクがあるのかどうかも明らかではありません。結論に至るまでには、今後、研究を重ねていく必要がありますが、同じ栄養素のようであっても食べ物から摂るか、サプリメントで摂るかで、こうも大きく作用が変わってしまう例が報告されたことには注目すべきでしょう。このようなリスクの増加の原因として、研究者は「サプリメントはカルシウム塩を含むこと、または高用量のカルシウムを身体が処理しきれないこと」ではないかとしている。
一方で、食事由来のカルシウム摂取量が最も多かった群の人たちは一日平均1022mg以上だったというが、彼らに心臓病リスクの増加はみられなかったとの こと。研究者は「この証拠によれば、カルシウムの豊富な食品を含む健康的な食事を摂ることは、何の問題もないばかりか心臓に有益だともいえるでしょう。」 としている。
食事由来のカルシウムなら、多めに摂っても大丈夫?
今回の研究で興味深いと思ったのは、食事由来のカルシウムは1,000mgも摂っていても過剰摂取によるリスクの増加は見られなかったこと。そして、むしろ心臓に有益となる可能性があると言われていることことです。日本では、成人のカルシウム推奨量が600mg、男性は、年齢によりますが大体700mg程度。上限量は、2500mgです。
平成28年度の国民健康・栄養調査によると、男性の20歳以上の1日の摂取量は498mg、女性492mg。これは平均値ですので、あくまで参考にすぎません。極端に少ない人や、多めに摂取しているひともいることでしょう。
納豆1パックで約50mg、豆腐1/2丁で約180mg、牛乳カップ一杯220mg、ヨーグルト100gで120mgと目安にすると、 1000mg摂るのもけっこう頑張る必要があります。ましてや上限量の2,500mg以上の量を通常の食事から摂るのは無理があり、サプリメントのように特定成分を濃縮しているものでなければ摂取することは難しいでしょう。
サプリ摂取の注意点…特定成分の過剰摂取はリスクがある
以前から、サプリの過剰摂取については(もちろん様々な条件があってですが)、がんリスクを高めるのではないかと言われていました。例えば、β-カロテンの過剰摂取は特に喫煙者の場合に肺がんリスクを増し、イソフラボンの過剰摂取は女性の肝がんリスクを高めるなどです。サプリメントなどいわゆる健康食品は、特定の成分が濃縮されているため、用法用量を間違えたりすると、簡単に摂りすぎてしまうこともあります。
そして通常の「食べ物」は、特定の栄養素や成分だけで構成されていません。「ビタミンCが豊富」「鉄分が多い」などと言われる野菜や果物などの食品中には、その栄養素だけでなく実に様々な栄養成分や水分などが含まれています。通常の食事をする程度では、一つの栄養素が簡単に過剰摂取になることはほぼないと考えられています。だからこそ、毎日食べていても安全であり(毒性があるものは当然別です)、また薬と食品は異なり効果があるとか、治すなどとは言えないものなのです。
栄養成分は、ビタミンCがビタミンEを助けたり、一つの栄養素が他の栄養素によって身体に吸収されやすくなったりと、お互いに影響し合っています。食べ物には様々な栄養成分が含まれているからこそ、今は明らかではなくても、食事由来ならカルシウムは多量に摂取しても心臓保護に有効という結果があったのかもしれません。
もちろん食事由来でも常識を超えた量を摂取すれば、健康に何らかの弊害はがあるかもしれませんので、何事も度を越えないことが大切です。
健康食品の活用は、食事を見直すきっかけ作りに
特定の成分が濃縮されたサプリメント。私も歳を重ねて色々な体の変化を感じ始めていますので、もしも高齢になって思うように量が食べられない場合などは、いつか利用することも必要になるかもしれないと思っています。しかし、カルシウムに限らず、口から入れたものが全て有効というわけではないですし、サプリメントを含めた食品の機能性については、まだまだ未知のことが多いのです。
特に身体の不調などを感じた場合は、自己判断せずに病院などで診察を受け、有効性・安全性の信頼度が高い薬を使用する、あるいは薬剤師や薬剤師、アドバイサリースタッフなどの専門家に相談して、保健機能食品を用いるなどしたほうが良いでしょう。
薬や他の健康食品、食事や飲み物との飲み合わせの良し悪しなどもありますし、用法用量を守るなどの注意も必要です。冒頭に書きましたが、トクホなどの保健機能食品、いわゆる健康食品は、今の食事を見直すきっかけ作りにすぎません。本当に必要なのかよくよく考えて、またそれぞれの健康食品の特徴や薬との違いなどを理解して選択するようにしましょう。
国の認可の必要なトクホや、事業者が自主的に機能の説明ができる栄養機能食品、機能性表示食品などについては、「これだけは知っておきたい! 新たな機能性表示食品」「トクホのこと、本当に理解して使っている?」「健康食品の虚偽・誇大表示に注意」「消費者庁 トクホの含有量について調査依頼」などに詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
■参考
リンク de ダイエット(国立健康栄養研究所)
ビタミンA(食品安全委員会)
イソフラボン摂取と肝がんとの関連について | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
カルシウム(食品安全委員会)
カルシウムを多く含む食品(公益財団法人 骨粗鬆症財団)
平成26年度国民健康栄養調査概要(厚生労働省)