皮膚・爪・髪の病気

治りにくい爪の水虫「爪白癬」と進化する治療法

爪白癬は、治りにくい爪の水虫。長らく日本の保険診療において、爪白癬に適応のあるものは飲み薬の抗真菌薬(2剤)だけでしたが、2014年にエフィコナゾール、2016年にルリコナゾールという塗るタイプの爪白癬治療薬が登場し、今、爪白癬の治療法は大きく変化してきています。最新の爪白癬治療法について解説します。

野田 真喜

執筆者:野田 真喜

皮膚外科医 / 皮膚外科ガイド

治りにくい爪の水虫・爪白癬とは

足の爪

見た目も気になる足の爪。足の爪の水虫は治療に時間がかかるのも

爪も水虫にかかることをご存知ですか? 爪水虫ではなく正式には「爪白癬」と言いますが、爪白癬は手足の皮膚に感染した白癬菌が爪の周囲から爪に侵入して起こる病気です。時に手や足に水虫がなくても、爪の傷付いた部分に直接感染し、爪白癬が単独で起こる場合もあります。

爪には感覚がないので足の水虫のような痒みはありませんが、爪が濁ったり厚くなったりして見た目が悪くなることが特徴で、治療をしないで放っておくと他の人に移してしまうことはとても大きな問題です。

そして爪水虫のもう一つの特徴が治りにくい病気であるということ。飲み薬による治療を3~6ヶ月以上も続ける必要があり、その薬も副作用や他の薬の飲み合わせが問題となりやすいため、治療に二の足を踏む人も多く、また高齢の方では全身状態を考えて放置せざるを得ないケースも多々あり医師を悩ませてきました。一時はレーザーによる新しい治療が注目されたこともありましたが、現時点では治療効果はほとんどないと言って良いと思います。

こうした厄介な状況を一変させたのが2014年にエフィコナゾール(クレナフィン®爪外用薬)という爪水虫に効果の高い外用薬の登場でした。新薬登場によりここ数年で大きく変化した爪白癬の治療について、解説します。

そもそも爪白癬の人はどのくらいいるの?爪白癬罹患率

日本に於いて足白癬は5人に1人、爪白癬は10人に1人が罹っていると言われています。つまり1200万人以上の患者さんがいるということになります。さらに爪白癬は、男女ともに年齢が高くなるに従って増加する傾向があります1)2)。米国では60歳以上の4割は爪白癬であると言われており、生活習慣や気候は異なるものの日本でも同じような状況が容易に想像できます。

爪白癬の症状

爪は白色~黄色に混濁し、分厚くなっていきます。そして爪甲下角質増殖と言って爪の下がボロボロと脆く崩れやすくなってきます。最初にお話をした通り実は爪単独の水虫では痒みはありません。しかし爪水虫の多くの場合は、すでに足にも水虫があったり、一見足の水虫が治っているように見えていても実は爪をすみかに白癬菌が潜んでおり、夏になるとジクジクと足水虫を繰り返すこともしばしばあります。同居のご家族にも、湿気たっぷりのバスマットやスリッパを介して水虫をうつしてしまうリスクがあります。

爪白癬の検査・診断法

爪の色などが悪く爪水虫の心配があれば、まずは皮膚科で顕微鏡検査を受けましょう。見た目や症状だけでは、専門医であっても水虫かどうかの確定判断をすることは困難です。爪が濁ったり厚くなる病気は爪水虫だけではないのです。
「水虫が治りません!」と受診される方を検査をすると、そもそも水虫ではなく他の病気であることはしばしばあります。水虫ではないのに、水虫治療を続けても治らないのは当然です。また水虫で通院治療中の方も、症状が治まったからと言って足水虫の治療を自己判断で中止することなく、必ず皮膚科医師に治癒したか診断を受けていただきたいと思います。

現在の爪白癬治療の選択肢

爪白癬に効果のある塗り薬のエフィコナゾール(クレナフィン®爪外用薬)、ルリコナゾール(ルコナック®爪外用薬)が数年間から相次いで発売されました。どちらも比較的新しい薬で、特にルリコナゾールは2016年に発売されたばかりですので、発売後の臨床データーは多くはありませんが、爪白癬の原因菌である皮膚糸状菌(トリコフィトロン属)に効果の高い薬で、爪(爪甲)にしっかりと浸透し、長く効果を発揮します。

薬の飲み合わせの関係や肝機能障害などで内服治療が困難な場合、今までは足白癬用の塗り薬が爪白癬にも使用されている場合もあったようですが、足白癬用の塗り薬では爪白癬には効果が低く、爪白癬単独の場合は保険適応もありません。

新しい爪白癬の外用治療薬は、局所のかぶれなどが数%認められる以外は、副作用の心配はほとんどありませんし、定期的な採血検査も必要ありません。高齢の方や高血圧などの多数の薬を飲んでいる方、肝障害のある方にも治療ができるようになりました。これは、爪白癬の治療を大きく変化させたと言って良いと思います。

実際の症例画像で見る爪白癬外用治療薬による治療経過

ここに登場する写真はすべて、爪白癬の塗り薬のみを用いて治療をしています。
  • case1 爪全体に病変が拡大しているもの
爪白癬undefined治療前
爪白癬undefined治療前

爪白癬 治療前
 

爪白癬undefined外用治療中

爪白癬 外用治療中

爪白癬undefined外用治療開始後1年

爪白癬 外用治療開始後1年



  • case2 爪先端の爪の裏側から皮膚糸状菌が侵入しているもの
爪白癬undefined治療前

爪白癬 治療前


爪白癬undefined外用治療中

爪白癬 外用治療中


爪白癬undefined外用治療開始後1年

爪白癬 外用治療開始後1年



  • case3 爪の表面の傷から皮膚糸状菌が侵入したもの
爪白癬undefined治療前

爪白癬 治療前

爪白癬undefined外用治療中

爪白癬 外用治療中

爪白癬undefined外用治療開始後1年

爪白癬 外用治療開始後1年



爪白癬の治癒率

治癒率(=完全治癒率=感染面積0%かつ真菌学的治癒)ですが、クレナフィン、ルコナックがそれぞれ17.8%3)4)と、14,9%5)と少し低いようにも感じる報告となっていますが、ここでの調査期間はそれぞれ13カ月、12カ月です。年齢が上がると爪の生え変わりはよりゆっくりになり、1年半程度かかることもありますので、もっと長い期間経過を追えばさらに高い治癒率になると考えられています。同じ条件において、クレナフィンの日本人に於ける解析では治癒率28.8%6)7)とより良い結果や、実際の現場でのほぼ同条件における治癒率アンケートで40%という発表もあります。当院ではクレナフィンの発売以降、飲み薬による治療例は激減しました。個人的な印象で恐縮ですがクレナフィンの爪白癬の治癒率は8割程度と、これらのデータよりずっと優れている様に感じております。まだまだ今後の臨床報告に期待をしたいところです。



爪白癬治療を受ける際の注意点・心構え

注意したい点は一つ!顕微鏡による検査を受けましょうということです。せっかくの良い薬も、そもそも水虫がいなければ効きません。爪白癬の心配があれば、家族などに移す前に、皮膚科で検査を受けてくださいね。

あと治療をされる方に知っておいて欲しいことは、治療の効果を実感するのには少なくとも数カ月以上はかかるということです。根元から綺麗な爪が生え、濁った爪は先に伸びていきますので、爪切りをすることで徐々にその濁った爪が体から出ていきます。足の親指の爪が生え変わるには約1年~1年半はかかりますので、綺麗な爪で白癬菌もいなくなるには1年もしくはそれ以上の時間がかかるのです。数日の単位で治るという訳では決してありません。根気強く治しましょう。



■参考資料
1)比留間政太郎:爪真菌症 疫学,診断,治療の最新の進歩.真菌誌 47巻2号 69-73,2006
2)仲弥,宮川俊一,服部尚子,畑康樹:爪白癬の実態と潜在罹患率の大規模疫学調査.日臨皮会誌, 26巻1号 27-36,2009
3)Elewski BE, et al.: J Am Acad Dermatol, 68 (4): 600-608, 2013
4)国際共同第三相臨床試験(DPSI-IDP-108-P3-01)(科研製薬株式会社社内 承認時評価資料)
5)第三相臨床試験(佐藤製薬株式会社社内 承認時評価資料)
6)渡辺晋一ほか: 西日本皮膚科, 77(3): 256-264, 2015
7)臨床的有効性(科研製薬株式会社社内 承認時評価資料)

■写真提供
神楽坂 肌と爪のクリニック
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