2005年11月のことですが、大阪府住宅供給公社により実施された団地の壁にエアコンの穴をあける工事で、柱や梁の鉄筋を誤って切断(140か所)し、耐震性能が低下したために全世帯が退去を求められたという、にわかには信じ難いような事件がありました。
また、2014年に傾きが明らかになった横浜市西区のマンションでは、地下のコンクリートに穴をあける工事の不具合で、23か所に鉄筋切断の疑いがあることも後の調査で判明しています。
さらに、2015年11月に傾きが表面化し、杭打ち工事の偽装問題が大きく報じられた横浜市都筑区のマンションでも、穴あけに伴う鉄筋切断の工事不良がみつかったようです。
少し遡ると、2013年12月には東京都心の引き渡し前の新築マンション(その後、解体・建て直しへ)で、約6,000か所の穴のうち1割以上に不備があり、不適切なコア抜きのために一部で鉄筋が切断されているという問題が報道されていました。
横浜の2つのマンションは先に傾きが発覚し、その後の調査で鉄筋切断が分かったものですが、切断そのものが傾きの直接的な原因ではありません。同様の鉄筋切断がありながら問題が表面化していないマンションは他にもあると考えるべきで、あくまでも氷山の一角なのでしょう。
住宅では電気設備や給排水設備、換気設備などのためにさまざまな「穴」が存在し、エアコンのドレイン管や冷媒管を通すための穴(スリーブ)もそのひとつです。
新築マンションではエアコン配管用の穴を先にあけてある場合がほとんどですが、新築一戸建て住宅の場合には未施工のままで、実際のエアコン取り付けに合わせて後工事でやってくれといわれることも少なくありません。
ところが、専門的な施工技術や建築に関する知識のない者が穴をあけることで、柱や筋交いなど重要な構造部材を損傷するケースも少なからずあるのです。建物の耐震性能だけでなく、防水性能や断熱性能などに悪影響を及ぼすこともあるでしょう。
また、エアコンの配管内に生じる結露水を排出するために、穴には適切な勾配をつけることが必要なものの、これが不十分なケースもあるようです。
とくに家電量販店でエアコンを購入して設置工事を依頼した場合や、引っ越し業者のサービスで工事をするような場合には、実際に工事をする人が十分に知識を有しているのかどうかにも気をつけなければなりません。
使用するエアコンに合わせて穴をあけることは合理的に感じられるかもしれませんが、現実にはリスクが大きいものです。購入する住宅が建築途中のものであれば穴の有無を確認し、もし設置されていなければ事前に穴をあけてもらうようにしたいものです。
中古住宅を購入する際にも注意が欠かせません。過去に不適切な工事がされたままで使用していたり、ときには穴に隙間ができたような状態で放置されていたりすることもあるのです。
リフォーム工事で容易に直せる場合はよいとしても、構造部材に欠損などがあれば大きな「落とし穴」にはまることにもなりかねません。気になるときは、建物の専門家に穴の状態も含めて事前調査をしてもらうようにしましょう。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2007年6月公開の「不動産百考 vol.12」をもとに再構成したものです)
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