「呪われた切手」と呼ばれる切手とは
今回は夏本番ということで切手にまつわる怖い話をしたいと思います。実は、切手収集の世界には、「呪われた切手」や「不幸の切手」などと呼ばれるものが存在することをご存じでしょうか。ある入手困難な切手の所有者になったとたん、不思議と事故に見舞われたり、病気や怪我をしたりするジンクスのある切手が存在し、俗にそんな言われ方をするのです。セルビア切手から浮かび出すもう1つの顔
切手収集の世界でおばけ話の代名詞的存在なのは、セルビアで1904年に発行された記念切手ではないでしょうか。この切手はセルビア王国カラジョルジェヴィッチ朝100年とペタール1世の戴冠を記念した切手なのですが、この切手を逆さまにすると、2人の人物の間にもう1つ不気味な顔が浮かび上がって見えるのです。実はペタール1世は1903年にアレクサンダル1世がクーデターで暗殺されたことを受けて王位に就いた経緯があり、きっと切手に浮かんできた不気味な顔は先代の国王の亡霊ではないかといった噂が飛び交ったそうです。
このセルビアの亡霊切手は100年以上も前の東欧の切手なので、高価だと思われるかもしれませんが、もし切手商の店頭にあれば、1枚50円~200円程度で購入することができます。セルビアということもあり、日本の切手屋さんで見かけることは少ないのですが、低額面切手なのでお手軽な値段となっています。
英領ギアナ切手の「事実は小説より奇なり」
「不幸の切手」としてもっとも有名なのが、英領ギアナのデュポン・コレクションです。アメリカの大手化学メーカー・デュポンのジョン・デュポンが非常に希少な切手を多数含む英領ギアナの大コレクションを築き上げました。ところが彼は1996年に自宅でオリンピック金メダリスト(レスリング)のデヴィット・シュルツを射殺する事件を起こしてしまい、2010年に服役中に死去しています。その後、彼の所持していた中で最も稀少とされる英領ギアナの「1セントマゼンタ」は2014年6月17日にニューヨーク競売会社サザビーズのセールで、9億7000万円で落札され、1枚の切手の世界最高額を更新しました。
残りの英領ギアナのパートも、スイスのオークション会社フェルドマンで2014年6月27日にオークションにかけられました。ところが、スイスでの落札者で、カタールの首長サウード・ビン・モハンマドは750万ドル(8億8500万円)を未払いのまま、11月9日に自宅で死去してしまいます(自然死と推定・享年48歳)。
オークション会社と落札者は売上額の35%を手付金として支払い、残金を分割で支払うことで合意していましたが、実際には手付金の支払いも滞っていたようで、結果としてさらに「いわくつきのコレクション」となってしまいました。品物はフェルドマンの手にあるようですが、いつどのようなかたちで次なる所有者の手に渡るのか気になるところです。
日本のおばけ切手といえばコレ!
日本切手収集の中でよくおばけ話として引き合いに出されるのが、1947年に発行された「司法保護記念日」です。司法保護とは罪を犯した人の社会復帰を支援する運動のことで、1937年から毎年9月13日を司法保護記念日となりました。もっともこの記念日は1952年から毎年11月27日の「更生保護記念日」に統合されたため、今ではありません。この切手の図案は「幸福の再来」を意味するスズランを持つ女性の手ですが、小指が妙に長いことに気が付きませんか?切手収集家の間で俗に「おばけ小指」と呼ばれています。手のモデルを務めたのは、逓信省切手周知係の女性職員だったそうですが、有名な切手収集家で都立高校の教員の方が実際にモデルになった職員を訪ね、「こんなに小指が長くない」ことを確認したというエピソードもありました。(参考:内藤陽介、『濫造・乱発の時代』、日本郵趣出版、2001年、40-44ページ)
ユーモラスな「おばけの風景印」はいかが?
全国の郵便局のうち、11,000局に配備されている風景印(郵便局に配備されている記念印・消印の一種で、配備される郵便局近辺にちなむ図柄が描かれている)ですが、この中にもいくつかおばけが登場してします。有名なのは、水木しげるの出身地で知られる境港市で、市内7つの郵便局で「ゲゲゲの鬼太郎」の妖怪たちが登場する風景印を使用しています。また、横浜市青葉区の青葉台駅前郵便局では、ハロウィンに出てくるかぼちゃのおばけの風景印を使用しています。2003年から始まった「よこはまハロウィン」を盛り上げる一環として作成されたもので、かぼちゃの中には地元の小学生が描いた青葉台駅前の様子が紹介されています。
最後はあまり怖くなかったかもしれませんが、こんなおばけの消印で家や職場に手紙が来たら、思わず気持ちもほっこりするのではないでしょうか。