減塩ブームで、日本人の塩分摂取量は減っているのか
減塩ブームでも多くの人が日常的に利用している外食。ラーメンなどの麺類や汁物も意外に塩分が高いので注意が必要です。
ちなみに欧米の幾つかの国では6g未満を推奨し、国際的な世界保健機関(WHO)ではすべての成人の減塩目標を5gにしました。
『平成26年度国民健康・栄養調査』では、1日の平均食塩摂取量は男性で10.9g、女性で9.2gでした。平均値は、大きな数値に引っ張られますから、実際にはもっと多く摂っている人も多いのかもしれません。
この『国民健康栄養調査』は半世紀以上にわたって調査を重ねてきており、塩分の摂取量は変化しています。1975年頃には、約14gでしたから、その頃と比べるとずいぶん減塩の努力をしているように思います。
しかし『日本人の食事摂取基準(2015年度版)』の設定に参加している東京大学大学院教授 佐々木敏氏は、『栄養データはこう読む!』で、食べているものが薄味になってきているわけではないのではないか、と指摘しています。というのも、75年には1日あたり2226kcalあった平均エネルギー摂取量は、2012年には1874kcalになり、16%も減っているのです。食べる量が減ってきていることを考えて、一定量の1000kcalあたりの「塩味の濃さ」という観点で比較してみると、75年から02年までは6g、その後は5.3gで、あまり変化が見られていないことになり、薄味にはなっていないのではないか、ということです。
1日の目標量を知っているのはわずか3%
現実的になかなか厳しい減塩ですが、私たち生活者は減塩についてどの程度正しく知っているのでしょうか?カリフォルニア・レーズン協会では、家族の食事を管理している30~70代の主婦500名を対象に、減塩に関する意識調査(2016年1月)を実施しました。
その調査の結果、約7割の主婦が食事の塩分量を気にしていました。しかし1日の食塩摂取目標量を「知らない」と答えた人は83.8%と多く、正しく知っているのはわずか3.4%であることがわかりました。減塩への関心が高い一方で具体的な数値は認識されていないことが明らかになりました。
理屈では減塩の大切さはわかっているけれど、自分が実際にどの程度摂取し、どの程度減らせば良いのかわからない、というのが現状なのではないでしょうか。
塩分の取りすぎが食べすぎを招く?
健康的な食事として世界から注目される和食ですが、塩分が多くなりがちなところは改善が必要です。
最近オーストラリアのディーキン大学の研究で、食塩の多い食事は食欲を増し、食べる量が増えるおそれがあり、これに脂肪が加わるとその効果はさらに増すという調査結果が発表されました。つまり、塩分の多さが食べすぎを招き、ひいては肥満にも関わっているかもしれないというのです。
確かに料理の味付けをする際、味がぼんやりとしていると感じたときには塩をほんの少し加えることで味が締まり、美味しくなります。塩味は、味覚の基本の五原味の一つであり、料理の美味しさを決める要素です。食塩により食欲を促すというのは、経験的にも実感できることでしょう。
味が濃いと、よく噛まなくても味がわかります。薄味の方がよく噛むことで、食べ過ぎ防止になっている面があることは、これまでにも様々な研究でもとりあげられてきました。
研究チームは、18~54歳の健康な男?を対象にトマトスープを食べてもらう実験で、塩分の濃度を0.04%、0.25%、0.5%、1%、2%に、脂肪分の濃度を0%、5%、10%、20%にそれぞれ変えた場合に、食欲にどのような変化が起こるかを調べました。
平均的にもっとも「味が良い」と感じるのは、食塩の濃度が0.25~0.5%で、脂肪分の濃度が5%の時であることが判明しました。しかし食塩の濃度を上げていくと、脂肪分が10%以上にならないと満足感を得られにくくなることが判明したのです。さらに、食塩の濃度を上げるとエネルギー摂取量が平均して11%増えることが示されました。
肥満は、血圧やガンだけでなく糖尿病や脂質異常症など、幅広い疾患につながります。深刻な状況になって減塩を指導され取り組んでも、食事が味気ないと、日々の暮らしの楽しみも半減したりするものです。
味覚は、食習慣によって育まれますから、子供の時から、そして日常的に薄味に慣れて美味しく感じられる感覚を養っておくことの重要性は大きいと改めて思います。
次のページでは、おいしい減塩料理のコツをご紹介します。
おいしい減塩料理のコツは? キッチンでできる減塩の工夫
薄味にしても美味しく食べるためには、出汁の旨みを効かせる、酢やかんきつ類などの酸味、スパイスなどの絡みや香りを効かせるなどの工夫が必要です。またもしも外食などで摂りすぎてしまったかなという場合には、野菜や果物などをできるだけ多く食べるように心がけ、カリウムを摂取することで、余分なナトリウムを排泄することができます。詳しくは、「塩分摂取量の目標が低減」「外食・中食は、塩分の過剰摂取に気をつけよう」で解説していますので、ぜひご覧ください。
実際の食塩摂取量を「見える化」する方法
ガイドが2016年度日本栄養食糧学会の市民公開講座に参加したところ、講座の内容は減塩対策がテーマで、日本人が摂りすぎ傾向の塩分を、どれだけ取っているかを「見える化」すると、食事の見直しも前向きになる、という取り組み事例が紹介されていました。「見える化」する具体的な手法として、武庫川女子大学 国際健康開発研究所が展開している24時間採尿で「食塩摂取量」と「ナトリウム/カリウム比率」を分析、評価するプログラムが紹介されました。
ナトリウム/カリウム比率は、塩分摂取量と野菜や果物などからのカリウム摂取量の関係を示ます。カリウムはナトリウムとバランスを取っており、カリウムはナトリウムを排泄する働きがあります。ナトリウム/カリウム比率は、数値が低いほど、食生活のバランスが良いことを示します。
さらに食塩摂取量とナトリウム/カリウム比率から、「適塩で野菜もたっぷり」のAタイプ、「適塩でカリウム少なめ」のBタイプ、「食塩摂取量は多いけれどもカリウムは良くとれている」Cタイプ、「塩分摂取量が多く、カリウムの摂取も足りない」 Dタイプと分析し、自分の食生活の傾向がわかります。
講座の中では、秋田県の保健所や香川県の栄養士会において、24時間採尿によって対象者の食生活を「見える化」することで、減塩と野菜の摂取増量については成果が見られたケースが紹介されました。
実はガイドも、昨年から同大学研究所の「食育先生プロジェクト」に参加し、24時間採尿をしてナトリウム/カリウム比を分析してもらいました。薄味を心がけているつもりでも、実は自分が想像していた以上塩分を摂取していたことがわかりました。しかし幸いなことに野菜などからのカリウムはしっかり摂れていたCタイプでした。より塩分の摂取に気をつけなければということを意識することができました。
減塩を意識しているけれど、なかなか成果が見られない、また自分は本当はどの程度の塩分を摂取しているのかを知りたい方もたくさんおられると思います。
現在は、簡易な尿中ナトリウムカリウム比率計測器(オムロン ヘルスケア株式会社)が研究者向けに販売されていますが、まだまだ値段が高く、生活者への普及版ではありません。血圧計程度の価格帯で一般家庭に普及できれば、減塩に取り組みやすくなるのではないかと期待されます。
■関連記事
・塩分摂取量の目標が低減(食と健康)
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・外食・中食は、塩分の過剰摂取に気をつけよう(食と健康)
■参考
・塩分・塩蔵食品と、顔・循環器疾患の関連について(国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ)
・日本高血圧学会
・平成26年国民健康栄養調査概要(厚生労働省)
・日本医療・健康情報研究所
・カリフォルニア・レーズンレポート
・『栄養データはこう読む!』(佐々木敏 著/女子栄養大学出版部)
・オムロンヘルスケア株式会社