「色の回帰」のウソ・ホント
――重要な創造的手段として「色の力」が認識されるようになり、2000年初頭には「色の回帰」と呼ばれる現象が確認されたとも言われています。しかし、たくさん売れるのは「白・黒・グレー」といった無彩色。デザイナーとして、カラリストとして、今の状況をどのようにご覧になっていますか?「確かに、「色の回帰」という傾向はあるけれど、残念ながらマーケティング的なものであって、実際の傾向ではないような気がします。
例えば、自動車メーカーはさまざまな色の車を提案しており、現在は100色くらいの選択肢があります。しかし、アジアでは44%が「白」、ヨーロッパでは「白」よりも「黒」の方が売れますが、4台の車のうち3台は、「白・黒・グレー(シルバー)」といった無彩色です。60年代は、5つの色の選択肢しかありませんでしたが、4台の車のうち3台は鮮やかな色でした。
テキスタイル(ファッション)においては、日本人女性の方が、フランス人女性よりも、有彩色を着ているのではないかと思います。男性に関しては、ヨーロッパよりもアジアの方が黒っぽい背広が多いです。日本のサラリーマンは、白いシャツを着た人が多いですが、ヨーロッパでは、青など少し色のついたシャツを着る人が多いです。
このように、アジアとヨーロッパで多少の違いはありますが、根本的に言えるのは、60年代のように鮮やかな色がたくさんあった時代と比べると、アジアもヨーロッパも似たような状況です。
しかし、個人に対して、さまざまな色を提案することはとても重要で、全体の売り上げに貢献しています。」
日常生活で色の力を活用するヒント
――ご著書『色の力』では、色の与える心理的かつ生理的影響に関する最新の研究を紹介しながら、目的に応じて、各人がよりふさわしい色を選べるように、デザイナーとして、カラリストとして、具体的なアドバイスをなさっていますね。仕事に役立つ色の力をご紹介いただけますか?「パリにある広告代理店BETCには、小さな会議室が並んでいて、部屋ごとに色が異なっています。クリエーターたちは「青の部屋」を好みますが、営業や販売の会議は「赤の部屋」で行われることが多いようです。グーグルなど、色の使い方を研究し、自社のインテリアに色を取り入れている企業もあります。
研究者やクリエーターなど、アイデアを考える仕事には、自由な感性を与えてくれる青い部屋が向いています。赤い部屋はブレインストーミングには適していますが、熟考を要する会議には不向きです。
しかし、オフィスの壁の色を変えるのは容易ではないので、パソコンの壁紙にいくつかの色を用意しておくことをおすすめします。私は、考えたり、執筆しているときは「青」を選びます。難しいメールを書くなど、集中力を必要とするときは、「赤」を選びます。ぜひやってみてください。とても効果的です。」
トレンドカラーの役割とは?
――ファストファッションが台頭し、SNSが普及するにつれて、ファッションビジネスが変容し、季節感が失われてきているようです。例えば、バーバリーは、2016年2月のコレクションで、半年後に発売される秋冬のアイテムではなく、すぐに着られるシーズンレスなファッションを発表し、コレクションの直後に発売開始しました。「デザイナー、カラリストとして、できるだけ多くの色を提案するようにしています。しかし、ここ数年、1~2年のスパンでトレンドをとらえるようになり、季節感はあまり考慮しなくなりました。グローバリゼーションが進み、提案を推し進めるのに時間がかかりますし、北半球と南半球では季節が逆になる場合もあるからです。
とはいえ、シーズンの立ち上がりに、ショーウインドウに並ぶトレンドカラーはとても重要です。実際にトレンドカラーを購入する人は多くないものの、マーケティングにおいて重要な役割を担っており、効果が期待されるからです。」
科学と風水に共通する基本原則
――日本で、風水は占いとして、もしくは、身の回りのものごとに秩序を与える環境学として親しまれています。ご著書『色の力』で、科学と風水の共通点について言及なさっていますね。「フランスで、風水は一般的でありませんが、少しずつ関心が高まってきているようです。アジアからやってくる知識や文化は、ヨーロッパと異なっています。さまざまな文化において、色をどのようにとらえているのかに興味があります。風水は五千年の歴史を持つ知識であり、実験的な知恵だと思います。特に、色については、西欧の科学的な研究と同じような結論に至っている点が、興味深いです。」
色が与える影響は、先天的なものもあれば、後天的なものもあります。そして、色の認識は主観的なものであり、数量化するのは容易ではありません。
ジャン=ガブリエル・コース氏は、より多くの人々が色の力を理解し、その生かし方を学んでいただくために、精力的に活動しています。ご著書『色の力』は、色の力を語った1冊として大きな評判を呼んでいます。ご興味のある方は、ぜひ一度手にとってみてはいかがでしょう。
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