テクノポップ/アーティストインタヴュー

元アイドルがYouTuberの音楽講師になったわけ

里本あすかちゃんはエレクトリックリボンの生みの親、現在はPastel Pantsとして新作『もう一度クラッシャー』を発表。そのかたわら、彼女はDTM講座で講師として活躍しており、生徒にはYouTuberもいます。自らの挫折を乗り越えた経験から、YouTuberにも注目されるDAWを使った作曲の始め方について語ります。

四方 宏明

執筆者:四方 宏明

テクノポップガイド

里本あすかちゃんは、エレクトリックリボン(通称、エリボン)の生みの親でリーダーでもありましたが、昨年エリボンを卒業し、現在はソロユニット、Pastel Pantsとして活動しています。彼女は並行して、パソコンを使った作曲講座で講師を務めています。最近の傾向としては、YouTuberも増えているとのこと。
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里本あすかのDTM講座


■DAWとは? 
あすかちゃんは、DAWで楽曲制作を完結させる女子、DAWガール。DAWとは、Digital Audio Workstationの略。「ディーエーダブリュー」または「ダウ」と呼びます。DAWを擬人化した漫画「DAWガールズ」や「DAW女子会」などというものも存在します。DTM (Desktop Music) がパソコンを使った音楽制作を指すとすれば、DAWはそれをソフトウェアとして統合した形で可能にしてくれる道具と考えていいでしょう。


音楽作成はお父さんの日曜大工的に誰でも始められる

彼女の現在のDAW環境は、Mac上でのLogic Pro X、オーディオインターフェースはRMEのBabyfaceと(本人曰く)至ってシンプルな構成。また、機材について彼女は面白い体験談を話してくれました。

里本あすか:
実は、機材とかには全然こだわりがないのです。お父さんの日曜大工的に誰でも、DAWが始められるということを切に言いたいのです。私自身は2005年にLogicを買いました。でも、意味がわからなくて、全然使えませんでした。例えば、サンプラーの呼び出し方もわからない。だから、Logicを使っている友達に電話して、「わからない」「どうしてやるの」といちいち訊いていました。「お前は、ググるということを知らないのか?」とブチ切れられたりしましたね。

そんな彼女自身、エリボン時代から「はじめてのDTM講座」や現在YouTube上で「GarageBandで簡単!作曲講座」を行っています。これは自らの経験から培ったものなのです。


里本あすか:
ある日、ヴォイストレーニングの先生に「GarageBandは簡単だから、そこから始めたら」とアドバイスをもらったんです。GarageBandは友達に電話をしなくても、使えたんです。半年くらいで使いこなせるようになって、Logicに戻りました。GarageBandで作った曲をLogicに移してみると、Logicではこうなっているんだと、Logicの仕組みがわかるようになったのです。最初は何が訊きたいかすらも伝えられなかったのですが、その後はほぼ自分で調べながら、必要に応じて的を射た質問ができるようになって、Logicが使えるようになりました。急に『Sound & Recording』を読んでも、意味わかりませんよね。だから、DAW初心者にはGarageBandは超オススメです! まずは、iPhoneやiPadでGarageBandを始めていいし、その後、MacでGarageBand、それでもっとやりたくなったら、Logic、その上でやりたいことが限定されてきたら、それぞれのソフトを使っていけばいいと思います。


生徒にはYouTuberも多い

あすかちゃんのDAW講座には、どんな方が参加しているのでしょう?
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里本あすかのDTM講座


里本あすか:
最近の講座ではYouTuberさんが多いです。8割くらいかな。自分の映像に自分で作った音楽を付けたいというYouTuberさんが、ほとんどです。残り、日曜大工的に自分の趣味としてDAWをやりたいという方々ですね。もちろん、DAWガールを目指す人たちも。この前、私自身がファンであるロシア人のYouTuber女子が来てくれました。YouTuberの方々はクリエティヴ精神が旺盛なので、「こうしたい、ああしたい」と具体的な質問がバンバン飛んできます。そうすると、講座で他の生徒さんも一緒にその問題にチャレンジできるので、とても有意義です。

楽譜の読めない、楽器も弾けない初心者でも彼女は勇気付けてくれます。

里本あすか:
「DAWを重たく捉えないで、やってみて」と言っています。パソコンは壊れないし、GarageBandもおかしくならないから、とにかく好きにようにまずやってみることです。実際、コード進行も理論もわからない全くの初心者の方がほとんどなんです。だから、サンプル音源を使うところから始めるのです。GarageBandだとApple Loops(GarageBandに入っている録音済みの音楽ファイル)が使えるので、まずそれらを聴く作業に時間を取ってもらいます。その上で、自分のやりたいことに合うものを選んでいく、そして足し算と引き算を覚えて、音楽に抑揚をつけていくのです。そうすれば、1分くらいの曲はできてしまいます。私の講座は4時間なんですが、その中で作れてしまう人もいます。


作曲からマスタリングまで自分で

あすかちゃんは、Pastel Pantsとしてエリボンに在籍中から一つの表現手段として活動をしており、7曲入りCD『シンセサイザークラッシャー』を2012年に発表しました。そして現在、Pastel Pantsは、ソロとしてやりたいことが溢れてきたあすかちゃんの主軸となったのです。6月29日全国発売となるアルバム『もう一度クラッシャー』は、『シンセサイザークラッシャー』から3曲(ボーカル録り直し・リマスター)、エリボンの新アレンジ曲、そして新たに作られた4曲で構成されています。ちなみにPastel Pantsのパンツは長丈パンツではなく、メイド服のドロワーズをイメージしているそうです。DAWガールとして、今回のアルバム制作はどこからどこまで自分でやったのでしょう?

もう一度クラッシャー (amazon.co.jp)
mouichidocrasher

もう一度クラッシャー




1. テレパシー
2. 雨上がりクライシス
3. ハニーバター
4. 波音チューニング
5. ユニコーン
6. 真昼の月
7. ドーナツひとつ
8. 破滅的ガール
9. one more!~ハムスター

里本あすか:
一部作曲を依頼したり、ギターなどを演奏してもらいましたが、基本的に作詞作曲、編曲、プログラミング、ミックス、マスタリングまで、DAW上でできることやオーディオシンセは全てやりました。最後のDDP(Disc Description Protocol:CDのデータフォーマット指定)もやりたかったのですが、ソフトを持っていなかったのでお願いしました。時間とお金がなかったというのもあるんですが、サウンドエンジニアがやる部分も、自分でやってみて良かったと思っています。やりながら、他人に任せていたらわからないことが少しでも減ったと感じました。

エリボンを卒業した理由とは

『もう一度クラッシャー』の中で、エリボンの中でも僕が好きな「波音チューニング」のリメイクがされていますが、この曲を選んだ理由を聞いてみると。

里本あすか:
「波音チューニング」は、もともとピアノハウス的な楽曲として作りました。エリボンとして発表する時に、サビ始まりにして、もっとわかりやすく、アイドル的要素を入れたのです。今回のアルバムでは、元祖「波音チューニング」に戻して、DJにも使えるような大人の楽曲にしました。

2014年暮れ、エリボンがメンバーの脱退により逆境の渦中にいた時に、あすかちゃんとフロントのericaちゃんにインタヴューをしました。卒業したエリボンについてあすかちゃんの現在の思いを語ってくれました。

逆境から這い上がるエレクトリックリボン (All Aboutテクノポップ)

里本あすか:
卒業したのにはいろんな理由があったのですが、私がやりたいのは音楽だというのが一番大きな理由です。エリボンでは、アーティストの気持ちでアイドルという土俵でやっていました。でも、もう一歩先に向かって自分のしたい音楽を表現したくなったのです。エリボンの枠の中でやってみようとはしたのですが、難しかったです。

僕はてっきりステージでビールと納豆巻きを食らうericaちゃんに愛想をつかしたのかと思い、聞いてみると。

里本あすか:
そしたら、もっと前に辞めていますよ(笑)。エリボン自体は逆境からは這い上がれたと思っています。メンバーも増えて楽しかったです。CDやspoon+のacoちゃんに作ってもらったミュージックビデオを発表できたし、OTOTOYの年間ランキングにも入ることができました。

葛藤がありつつも、エリボンの生みの親としてはやることはやった感があるあすかちゃんです。

DAWガールはミュージックビデオも自作

「真昼の月」には、ネガティブな感情とポジティブな感情が入り混じっています。あすかちゃんは、心屋仁之助さんという心理カウンセラーの方にはまっており、「真昼の月」は、心屋さんの『光と影の法則』への読書感想文なのです。今回、あすかちゃんはミュージックビデオの制作も自分でやっちゃいました。


里本あすか:
「真昼の月」は今までにないタイプの楽曲でみんなに聴いて欲しかったのです。また、私のように悩んでいる女の子にも歌詞は届けたいので、映像も含めてリリックビデオを自分で作りました。

「ユニコーン」「破滅的ガール」は一見テーマもガーリーで、ファンタジーの世界のようですが、ささやかな反抗みたいものを感じます。どこか毒とエロスがあります。

里本あすか:
私はずっと反抗期というか思春期なんです(笑)。

DAWガールにチャンレンジしてみては?

あすかちゃんは、自分の経験を踏まえて、楽しんでDAWをやってみることを後押ししてくれます。皆さんもDAWガール(またはDAWボーイ)にチャンレンジしてみてはどうでしょう? この取材の後も彼女は、講師として六本木でのDTM講座へと向かいました
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里本あすかのDTM講座


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