こども食堂=貧困のイメージでは解決できない
家族揃って食事ができるのがベストですが、難しい家庭も多いのが現実です
取材で見えた、こども食堂の多様な役割と可能性
「おかえり~」。登下校時のこどもたちを近所の人が見守る活動をしている福祉協会長の小林さんは、下校時のこどもに声をかけます。中には、「今日のメニューは何?」と質問するこどもたちも。兵庫県尼崎市瓦宮の『そのっこ夕やけ食堂』は、毎週金曜日に開かれ、こどもたちがお手伝いをして夕食の準備をした上で、みんなで食事をし、勉強をしたり遊んだり……、こどもから大人まで共に一時を過ごす場となっています。
活動の母体となっているのは、尼崎市社会福祉協議会園田支部、ボランティアサークル、社会福祉法人、小学校PTAなどと結成した「園田地区子育て支援連絡会」。市内でも子育て世代が多い同地区で、こどもの孤食や貧困などについて勉強会を1年半ほど重ね、「こどもたちの居場所を作れないか」と考えてきたそうです。
兵庫県園田地区の「そのっこ夕やけ食堂」。廃業した喫茶店を拠点に、毎週金曜日夕方から子どもや大人がともにご飯を食べるために集まってきます。
(撮影/そのっこ夕やけ食堂にて)
しかし、本当に困っているこどもにどのようにアプローチしたら「こども食堂」に来てもらえるのかが課題でした。
同社協の地域福祉活動専門員 今井久雄さんは「こどもの問題は世帯の問題」と言います。こどもに「食事においで」と言っても、親が拒否すればこどもは来ることができません。親からすると、「こども食堂」に子を行かせることは、「貧困」や「食事を与えていない」というレッテルが貼られてしまうのではないかという心配が浮かんでしまうそうで、世間体が悪いという考えの方もいるようです。
例えば親に「晩御飯を食べさせましたか?」と質問し、「食べさせている」という答えが返ってきたとしても、その中身は「ご飯を作っておいた」「惣菜を買っておいた」「お金を置いておいた」など様々なケースがあります。同じ「晩御飯は食べさせた」という言葉の中にも、親の意識や背景はそれぞれに異なり、その部分は簡単には見えないのです。
「一緒に食べる場」からスタート
子どもも大人も一緒に食べて、時間を共有することで、地域の人のつながりが生まれてきます。
(撮影/そのっこゆ夕やけ食堂にて)
2016年3月からは、地域の廃業した喫茶店を借りて、『そのっこ夕やけ食堂』が開設されました。毎回20食分をボランティアが用意し、日によって、こどもが15~6人くることもあります。お手伝いをする小・中学生は無料、高校生以上の大人300円です。
貧困という問題を抱えているこどもだけでなく、親が働いていて夕食が家族とともにとれない、あるいは一人っこなのでたまには大勢で賑やかに食べたい、また普段は忙しいのでたまにはゆったり食べたいとやってくる親子連れなど、様々な人たちが集います。
こども食堂が、食育や学習支援の場にも…
これは、取材をさせていただいた幾つかのこども食堂に言えることですが、回を重ねるうちに、こどもたちはみんなで食べることで、好き嫌いがなくなったり、たくさん食べられるようになり、また「いただきます」をいう係やルールを自主的に決めたり、調理や配膳、後片付けを手伝うことで、自然と家でもお手伝いができるようになったといいます。また近隣の大学に通う学生や教授が来て、学習支援の機会にもなっています。勉強を見てもらって向上心が芽生えてきたという、親から感謝の声も多く寄せられています。
先出の福祉協会長 小林さんは「こどもにとっては、しつけを学ぶ場。そこで高齢者も役に立てる」と言います。
思春期になると好奇心も増えて、ちょっとワルぶってみたくなる時期です。最近は学生に問題のある行動があっても見て見ぬ振りをする大人もいますが、小さい頃から知っているこどもなら、遠慮なく注意や声がけができるものです。近隣の中学校長から「最近学生が落ち着いてきた」という声も寄せられているそうです。