話題の映画『せか猫』の永井監督インタビュー

2016年5月14日(土)から、全国公開される映画『世界から猫が消えたなら』(以下、『せか猫』)の原作は、『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『バケモノの子』『バクマン。』などを製作した映画プロデューサ川村元気(かわむらげんき)氏が、はじめて書いた小説。小説『せか猫』は2013年度本屋大賞にノミネートされ、文庫化、コミックス化され、現在累計発行部数120万部を突破する大ベストセラー本になっています。

ひと昔前に「読んでから見るか、見てから読むか」という宣伝文句がありましたが、わたしはできれば先に映画を観たい派。今回も試写を観て、すぐに原作本を購入。ファミレスで読み始めましたが、途中から、涙で顔を上げることができなくなってしまいました。絶対に人前で読んではいけない本です。まだ原作を読んでいない方は、映画と共に是非小説もお楽しみ下さい。

この小説の映画化に当たって、川村氏が監督に指名したのは、数々のCMで大ヒットを飛ばしている永井聡(ながいあきら)氏。今回インタビューさせていただけることになり、永井監督のいままでのお仕事をたどってみると「あーなるほど、そうだったのか」と納得。監督の作品の中に、大好きなCMが何本もあることに気づきました。


永井監督と猫の関係は?

永井監督の最初の映画は短編作品の『犬語』。テレビCM業界を舞台にした2014年のコメディ映画『ジャッジ!』で初の長編映画を手掛け、今回の3作目は「猫」がテーマ。3作品中2作品で動物と縁がありますが、これは動物に対する思いがあってのことでしょうか? とインタビューの冒頭で尋ねてみました。
永井監督、キャベツ君の縫いぐるみを抱いてにっこり

永井監督、キャベツ君の縫いぐるみを抱いてにっこり


「動物は大好きですけど、ホントに偶然で、僕も不思議だなって思います」

では、監督の猫歴は?

「物心ついた時には猫がいました。父親が猫が好きだったんです。シャム猫、チンチラ、雑種の黒猫、どの猫も寿命を全うしました。いままで飼ったのは3頭ですが、猫に慣れているというか、家の中に猫がいる生活が当たり前という感じでした。でもいまは、奥さんが猫アレルギーなので、6年前から犬を飼っています」


主演俳優、佐藤健さんについて

『せか猫』の主人公「僕」役を演じた佐藤健さんは、こちらのインタビューで「原作を読んだ時、イメージが違うと思っていた。自分に話が来るとは思わなかった」と語っていました。しかし、永井監督は「佐藤さん以外が「僕」を演じるのは難しいと思います」と話します。

「健君が猫と戯れている写真を見たんですけど、それが猫好きの戯れ方なんです。顔を思いきりグッと近づけたりして、”持たされた”感じがしない。映画の「僕」は猫に対してすごい愛情を持ってないといけないし、猫がいるのが当たり前でないといけないから、これはピッタリなキャスティングだと思いました。

それと彼は、顔がどこか猫っぽいですよね。そういうところも含めて健君はすごくいいな、と感じたんです。それと、「僕」の年齢は30歳という設定でしたけど、彼は年齢不詳なところがある。若くも大人っぽくもなれるという魅力的な存在だったので、名前を聞いた時は『是非!』と答えました」

永井監督「この写真の、こういう時、微妙に顔をそらしてるってのが可愛いですよね。コレが猫ですよね」

永井監督「この写真の、こういう時、微妙に顔をそらしてるってのが可愛いですよね。コレが猫ですよね」

 

役者猫・パンプくんについて

キャベツとレタスの二役を演じたパンプくんは、現在12歳。所属事務所の株式会社グローバル・アニマルアクトの敷地内で、野良猫のお母さんが産んだ子猫をスタッフが保護した1頭だったそうです。今までの出演作は、ドラマ『最高の離婚』、『続・最後から2番目の恋』、『問題のあるレストラン』。映画では『先生と迷い猫』などに出演する、超売れっ子俳優猫さんです。

猫じゃらしで遊ぶことが好きで、機嫌がよい時はどこでも爪研ぎ。仕事モードと日常モードではそんなに変化がないとのこと。特技は、どんな状況でもじっと「マテ」ができること。これは猫にとっては至難の業ですが、パンプくん、それが得意技というのですから、本物の役者さんなのです。永井監督もそんな「役者ぶり」にはとても驚いたんだとか。
超貴重!パンプくんのオフショット!リラックスしてます

超貴重!パンプくんのオフショット!リラックスしてます


「主人公の「僕」が漕ぐ自転車のかごに猫が乗っている、というビジュアルだけはぜったいに譲れないと考えていました。でも、僕はコマーシャルをやっているので、猫が(撮影では)いかにやっかいな存在かはわかっています。だから『そんな子はいないだろうな』と考えていたところに、パンプ君の話を聞いて『もう絶対この子だ』と思いました。

それとパンプ君は、健君が「悪魔」役の演技しているときにだけ、引っ掻こうとしたりするんです。健君が二役を演じわけると、ちゃんと『(このふたりは)違う』とわかっていたのかもしれません」


「僕」と「悪魔」、役柄を変えていたとしても、顔や声や衣装が替わっているわけではない二役をちゃんと区別して演技するパンプくん。今回監督のお話を伺い、ますます「すごい猫だなー」と思いました。
パンプくん、ポーズも決まってます

パンプくん、ポーズも決まってます



映画に描かれる風景

映画では風景も見どころのひとつ。たとえば、「僕」が自転車で坂道を上りきると眼下に広がる大きな入り江。その場面では、冷たい空気、頬をなぶる風、ニオイ、音、降り注ぐ光のあたたかさなどが、映像なのに感じられます。あたかも自分が自転車で坂道をおりていくかのように。

「いろいろな候補地をロケハンした中で、函館の風景が一番マッチしました。その時に感じた空気感をちゃんと撮影できたらなって思ったので、あの坂道のシーンは結構撮りました。日の光がちょっと違うと風景が全然違うから、何度かこだわって」

また、わたしが『せか猫』を観たときにリンクしたのが、岩井俊二監督の作品『ラブレター』。少し失礼な質問かと思いましたが「『せか猫』を観た後に、どうしても観たくなって『ラブレター』をまた観ました」と伝えると、ふっといたずらっぽく笑う監督。

「それはすごくうれしいですね。『わかっちゃったかー』って感じです。実は撮影前に『ラブレター』を観ていました。あの空気感はどうやって出すんだろう? と参考にするために。

岩井俊二さんの映画は、ちょうど僕が美大生(1994年武蔵野美術大学卒業)の頃にすごくブームを迎えていて、映像の教科書として結構使っていた部分がありました。『ラブレター』は舞台が小樽のほか、いろいろ組み合わせていますが、その撮影がすごく参考になる。素敵なものは年代をあまり感じさせませんよね」


『せか猫』を観終わった方、映画『ラブレター』も是非どうぞ!
圧倒的な迫力「イグアスの滝」映画シーンより

圧倒的な迫力「イグアスの滝」映画シーンより



この映画で描かれる「猫」が象徴しているもの

「監督にとって、この映画で描かれる猫とは?」と尋ねてみますと

「家族をくっつけてくれる存在ですね。「もの」と言うよりは人と人との絆を象徴するみたいな感じで本作の「猫」も捉えて描きました。犬だとちょっとわかりやすくなっちゃうんですよ、感情表現が激しいから」

また、撮影で苦労したことについても聞きました。

「悲しい物語なので、どうやったら悲しいだけにならないようにするか……というところに苦労しました。「僕」には悲劇的な結末が待っているかもしれないけど、どうやったらお客様に気分よく劇場を出てもらえるか? ということをずっと考えながら撮っていたんです。

それと苦労した話とは少し違いますが、実はラストシーンは脚本にはなかったもの。元々は物語の中盤くらいに差し込まれるはずだったので、健君はちょっとびっくりしたようです」

静かに、でも熱く、言葉を選ぶ永井監督

静かに、でも熱く、言葉を選ぶ永井監督



監督にとっての映画とは?

劇中、「悪魔」が消そうと持ちかける中のひとつに「映画」があります。映画を観ると、その登場人物すべての人生が体験できてしまうほど、映画の中にはたくさんの人の時間と人生があります。監督にとっての映画とはどのような存在なのでしょうか。

「映画は、すばらしい本と同じように何かを与えてくれるものだと思います。また、劇中で映画が消えることに関しては、映画で友達とつながる素晴らしさとか、そういうものを伝えたいという思いもありました。(「僕」の親友役の)濱田岳君がホントにいいんですよ。ああやってひとりぼっちで、世間とうまく付き合えないみたいな……なんか、そういう男の友情ってグッときちゃうんです。

僕が撮る映画では、男性が弱いのも特徴かもしれません。実際『ジャッジ!』では北川景子さんや鈴木京香さんは、ものすごく強く描かれていました(笑)。僕は情けない男が好きで、芯の強い女性が好き。逆に男が女性を守ってあげる、というのはあまり好きじゃないんです。女性の方が強いっていうのが、わかっているのかもしれませんね」

「僕」と「親友」の関係に心が震えます

「僕」と「親友」の関係に心が震えます


この映画でも宮崎あおいさんは強い女性として、描かれていました。


映画『世界から猫が消えたなら』の見どころ

郵便配達員の僕は、どこにでもいる普通の30歳の青年。少し引っ込み思案で、口べたで照れ屋。話したいことや考えることはたくさんあるけれど、言葉にまとめるのがあまり上手ではありません。お母さんを亡くして、お父さんとは疎遠になって、今は彼女がいなくて、キャベツという名前の猫とふたりで暮らしています。

そんな僕がある日突然、余命宣告を受けます。脳腫瘍。手術で完治させるのは難しいと。「あなたの命はあとわずかです」と告げられたら、あなたはどうするでしょうか?

この映画は、余命宣告を受け、自分の人生に深く関わってきた「もの」と「ひと」と「じかん」と、向き合わなければならなくなった「僕」を描きます。「僕」は、あなたであって、わたしでもあります。

自分がいなくなったあとの世界にどんな変化があるのでしょうか。自分が存在していたことを誰かに覚えていて欲しい、自分と関わった「もの」「ひと」「じかん」を記憶してもらえていたら、自分がいなくなったあとの世界は、いた時とは何か違うはずだ。忘れられたくないと思うのは本能のDNAかもしれません。

でもこの映画では、誰かに覚えていてもらうことよりも、「僕」は自分が生きてきた人生を振り返ります。「僕」自身が今まで生きてきた証、人とのつながりを思い出すことで、「僕」は死を受け入れられるようになっていくのではないでしょうか?

そんな「僕」を助けてくれるのは、「僕」と同じ格好をした僕自身でもある「悪魔」。「悪魔」は茫然自失となっている「僕」に、「僕」が生きてきた中で関わってきた大切なつながりを思い出させてくれます。

映画では原作と異なり、「もの」が消えてしまうと、「僕」以外の記憶は消えてしまうので、いっそう切ないです。「もの」がなくなっても、世界は変わらず回り続け、誰も困りません。だって、「僕」以外は、その「もの」が存在したことがない世界を生きているのだから。それは、明日いなくなってしまうかもしれない「僕」が消えても、誰も困ることなく、同じ日常が続いていくこととも現します。
「僕」と「彼女」の関係も想い出と共に消えてしまう?!

「僕」と「彼女」の関係も想い出と共に消えてしまう?!



4月18日、東京・イイノホールで行われた完成披露舞台挨拶で、佐藤健さんは
「この映画は余命わずかな主人公が、自分の命と引き換えに大切なものをひとつずつ世界から消していくことで、自分にとって大切なものを見つけていくという希望の映画です。この映画を今、皆さんに届けたいと強く思いました。この映画が広まっていくことで、今辛い状況にいる方々の励み、力になればと僕たちは願っています」と語りました。
4月18日、東京・イイノホールで行われた完成披露舞台挨拶

4月18日、東京・イイノホールで行われた完成披露舞台挨拶


とても悲しくて、たくさん涙する映画ですが、希望の種が蒔かれる映画でもあります。たった1本の映画で人生が変わることも、救われることもあるでしょう。映画にはそんなすばらしい力があります。映画は、ぜひ映画館で!




取材協力:株式会社グローバル・アニマルアクト
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キャスト:佐藤 健 宮崎あおい(崎は“山”へんに“竒”)
濱田岳 奥野瑛太 石井杏奈
奥田瑛二 原田美枝子
原作:川村元気「世界から猫が消えたなら」
監督:永井 聡
脚本:岡田惠和
音楽:小林武史
主題歌:HARUHI「ひずみ」(Sony Music Labels Inc.)
公式サイト www.sekaneko.com
(C)2016 映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会

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