平成28年熊本震災では本震以降も、大小多くの余震が続いています。すでに地震は800回を超えたという報道がされており、被災者の方々のご心労をお察し申し上げます。

 



こうした被災後の大変なストレスの中で懸念されている病気のひとつが、「たこつぼ心筋症」です。東日本大震災や新潟地震の際にも多数発生し死者を出してしまいました。たこつぼ心筋症を予防するためにどうすればよいのか、解説したいと思います。

たこつぼ心筋症とはどんな病気なのか?

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たこつぼ心筋症の患者さんの左室の形です。本来は細長い形の左室がたこつぼのように丸くなっています。

たこつぼ心筋症の状態になると、心臓の主ポンプである左室が異常を来たし、左室の先端側の心尖部と呼ばれる部分が動かなくなります。その結果、左室が病名にもつけられている「たこつぼ」のような形になってしまいます。右図はその一例です。左室の心尖部が動かなくなり、たこつぼのように膨らんだ姿になっているのがわかると思います。

日本の医師が最初に報告したため日本的な名前がついているようですが、別名「Stress-induced cardiomyopathy」つまり「ストレスで引き起こされる心筋症」、あるいは「apical ballooning syndorom」つまり「左室の心尖部が異常に膨らむ病気」とも呼ばれており、この病気の特徴を示しています。

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胸痛や呼吸苦にはご注意を

症状は心筋梗塞に似ていることが多く、紛らわしい病気です。たとえば胸痛、呼吸苦、ショック、失神、心電図異常などが代表的な症状です。
症状からは確実な診断が付けにくいため検査を行います。

推奨されている診断基準は、
  1. 一時的な左室機能不全、
  2. 心臓に血液を送る冠動脈に閉塞所見がない
  3. 心電図異常かトロポニン上昇を認める
  4. 褐色細胞腫と心筋炎を認めない

の4つ。これら4つをすべて満たしていた場合、初めてたこつぼ心筋症だと診断します。検査法としては心エコーやMRIが有用です。冠動脈はCTやカテーテルが必要で、トロポニンは血液検査です。

患者さん目線では、胸痛やショック(顔面蒼白や手足が冷たい、落ち着かないなど)があれば、まず近くの病院や医院あるいは医療チームに相談してください。狭心症や心筋梗塞あるいは大動脈解離かも知れませんから急ぐ必要があります。

たこつぼ心筋症の原因は?

カテコラミンつまり体内のがんばりホルモンが増えすぎるためと考えられていますが、まだ解明されていません。地震や被害の大きさのためカテコラミンが増えすぎると細い血管がけいれん状態となり心筋が動けなくなるのではという説があります。

誘因として次の2つが挙げられます。
1. 強い精神的ストレス:地震、震災、災害、身内の死、虐待、喧嘩、大病の診断を宣告されたときなど

2. 強い身体的ストレスや急な内科疾患:感染、脳卒中、急性の呼吸不全、急性腎障害、手術のあとその他

しかし必ずしもはっきりとした誘因が見られないこともあります。

今回の熊本地震では800回を超える地震が続いており、ストレスとしては厳しいものがあるため一層心配されているわけです。

大地震に襲われ、大切な家が壊れ、身内や友人が巻き込まれ、ストレスがあっても当然なのですが、せめて皆で会話し、悩みを相談し、体を動かして少しでも精神衛生を改善できるよう、協力しあいたいものです。

たこつぼ心筋症の特徴

閉経後の女性に多く80~90%を占めます。急性冠症候群つまり狭心症や心筋梗塞になりかけの状態の患者さんの約1.2%が一時的な心筋症でその60%がたこつぼ心筋症だったというデータもあります。

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たこつぼ心筋症は油断できない病気です

また心臓病のない内科集中治療室患者さんの28%にたこつぼ心筋症を認めたという報告もあり、状況によってはかなり多いことが考えられます。またそれらの患者さんの2か月後の生存率が52%ときわめて低く、他の病気と重なれば要注意と考えるべきでしょう。

アメリカのデータベースでの研究では24701名のたこつぼ心筋症患者さんの死亡率は4.2%でした。冠動脈バイパス手術の全国平均死亡率が1~2%であることを考えるとかなり高い死亡率で、やはりしっかりとした対策が必要だといえます。

男性には比較的少ない病気ですが、いったん発症すると女性より死亡率が高いことが知られています。

たこつぼ心筋症の治療法とその予後

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強い胸の症状があればまず病院へ

診察の結果、たこつぼ心筋症だと診断されれば、入院してお薬や点滴で治療することになります。誘因となったストレスをできるだけ取り除くことも大切です。

お薬としてはACE阻害剤、βブロッカー、利尿剤などがよく使われ、冠動脈に硬化があればアスピリンを併用します。低血圧のときには点滴でリンゲル液などを入れるほか、左室抽出路が狭くなっていないかエコー等で確認することも重要です。もし心臓内に血栓がみつかればヘパリンやワーファリンなどで抗凝固療法を併用します。

予後は入院した場合の死亡率で0~8%と幅があります。死亡率がかなり高い病気なので、油断できません。もちろん、入院しなければ大変高い死亡率になってしまいます。上記の胸痛などの症状があれば、できるだけ早く病院や診療所に行きましょう。震災後の避難生活中の場合は、とりあえず医療チームや検診チームに相談しても良いでしょう。

急場を乗り切ればおよそ1~4週間で回復します。その後の経過は良いことが多いです。

まとめ

たこつぼ心筋症は油断してはいけない病気だとお分かりいただけたかと思います。もし震災後に、胸痛や息苦しさ、顔面蒼白や冷や汗などの自覚症状があれば、直ちに最寄の病院医院や医療チームに相談してください。そこで冠動脈関連や大動脈関連ならただちに治療、それらがなく、たこつぼ心筋症の場合でも、直ちに入院し治療することが命を助けることにつながります。

震災のとき、ご自身や周囲の方々にそうした症状の方がおられたら、お互い協力し、命を守りましょう。

末筆ながら今回の地震でお亡くなりになった方々のご冥福を祈り、また被災者の方々が一日も早く健康な生活を取り戻して戴くことを祈ります。

参考 心臓外科手術情報WEBの心筋症・心不全のページ
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