弁膜症の内科治療(お薬など)

■軽症の方の場合
スポーツ

限界に挑むようなスポーツは危険なことがあります

症状がない、元気な状態のときは通勤や仕事などは普通にこなして構いませんが、それでもはっきりとした弁膜症、たとえば比較的強い僧帽弁閉鎖不全症などがある場合は、残業や無理はしないことが勧められます。楽しみで行うスポーツなら良いのですが、限界に挑むスポーツなども控えた方が安全です。

食塩制限はこの段階でも行った方がよいでしょう。病院で診察を受けた後、栄養士さんに指導を受ければ、好きなメニューの中での減塩の工夫ができます。大動脈弁狭窄症の場合は症状がなくても無理をせずに慎重に生活することが勧められます。

■ある程度以上重症の場合
薬

さまざまなお薬で心不全の治療をおこないますが、弁自体は薬では治せません

弁膜症がもう少し進行した場合は、弁そのものを内科的な治療、つまり薬のみで治すことは難しいですので、薬治療の目的は、弁膜症のために起こった心不全の治療を目指すことになります。たとえば体に貯まった水分を利尿剤で取り除いたり、血圧をほどよく下げて心臓を楽にさせたり、心臓を軽く休憩させエネルギーを蓄える薬を使ったり、時には強心作用のある薬を併用します。また薬以前に、適度の安静や食塩制限、冬などでは暖かくして温度変化を避けるなどします。

それでも対処できず、息苦しさや体のむくみなどの症状が取れなかった場合は、病院へ入院し、上記の食事、ストレス管理、内服薬などを徹底し、必要なら点滴でより効果的な利尿剤や自然の利尿ホルモン、さらには腎臓と心臓を助ける強心剤や血管をリラックスさせて心臓を助ける薬などを使用します。

弁膜症の種類によってはこの段階かそれまでに、つまり症状が出た段階や心臓が大きくなった段階で手術により治すことが勧められています。手術をする方が、しない場合より明らかに安全、という状況のときです。中には僧帽弁閉鎖不全症などのように症状がなくても安全のため弁形成手術が勧められている病気もあります(ただし弁形成術のエキスパートがいる病院に限ります)。

なお、肺高血圧症という、肺動脈の圧が高まるために発生した肺動脈弁閉鎖不全や三尖弁閉鎖不全では、肺高血圧を治すこともあります。

IE

感染性心内膜炎に御注意を。とくに抜歯のあとが重要。

心臓弁膜症では僧帽弁狭窄症を例外としてばい菌が弁に付いて全身に飛ぶ感染性心内膜炎(略称IE(アイ・イー))が合併することがあります。この病気は感染症としても重症ですが、脳梗塞などの大きな問題を併発するため、さまざまな対策が必要で、軽重問わず弁膜症で発熱が続くときなどには専門医にご相談下さい。とくに抜歯などの歯科治療後に起こることが多いので、その場合は歯医者さんにも弁膜症のことを前もって相談しておかれると良いでしょう。

手術するほど重症ではない弁膜症でも、時間とともに病気が進むことはよくあります。そこで症状があるときはもちろん、症状のない場合でも毎年1度は定期健診を受け、心エコーなどで確認をしてもらうことが安全上、勧められます。毎日体重を測り急に増加するようでしたら要注意です。とくに息切れや胸痛、失神発作などがでれば早目に医師に相談して下さい。

弁膜症の外科治療

内科的治療法で治しきれない心臓弁膜症に対して、外科的治療つまり手術を行います。

一般には息切れや胸痛あるいは失神発作、足のむくみなどの症状が出てくれば弁膜症は手術の適応となることが多いのですが、弁膜症の中には症状が出て来た時点でかなり心筋が傷つき、弁の手術をしても心臓のパワーが十分には戻らないこともあるため、日米の循環器学会等で治療のガイドラインが造られています。

■高度の僧帽弁閉鎖不全症の場合
MVP

僧帽弁形成術の仕上がり例です。きちんと治せば長期成績は優秀です。

症状があれば手術の適応(手術を行うことが正しいという意味です)となりますが、症状がなくても左室がある程度以上大きくなったり動きが低下していれば手術が必要となります。その場合、僧帽弁の形成術ができる病院なら手術適応となりますが、できない病院では適応とならず、まだ薬などで治療することが最近のガイドラインでは謳われています。

心房細動等の不整脈が頻発するようになれば手術がより勧められます。弁形成術は経験や技術に支えられる名人芸的な要素のある手術ですので、熟練した心臓外科医に手術してもらうことが安全です。

■僧帽弁狭窄症
ひどくならないうちに弁切開を行うことが、薬よりも予後が改善されるので、近年は積極的にカテーテル手術や外科手術を勧められます。人工弁の置換手術は、弁膜症の程度が軽いうちは行わず、ある程度症状が進んで、その後の治療がお薬では難しいと判断された時期に行います。

■高度な大動脈弁狭窄症
胸痛や失神発作、心不全などの症状があれば速や
AS

重症の大動脈弁狭窄症では突然死の注意が必要です

かに手術(人工弁による弁置換術)することが勧められます。でないと突然死などの重大な合併症が起こるからです。大動脈弁閉鎖不全症では左室がかなり大きく弱くなっても症状が出ないこともあり要注意です。聴診で心雑音は聞こえるため、雑音があれば心エコーで精密に検査して戴き、その結果逆流が多く、左室がある程度以上弱っていれば安全のために手術が勧められます。これらは日米のガイドラインに沿ったものです。

■三尖弁閉鎖不全症
単独で手術することは比較的少なく、どちらかと言えば僧帽弁膜症や大動脈弁膜症に合併した三尖弁閉鎖不全症を同時に治すという印象です。ほとんどの場合は弁形成術とくに弁輪形成術で治ります。なお体調が悪いときには早めに医師にご相談を。うっ血のため肝臓などがやられている場合もありますから。

弁膜症の予後

弁膜症の予後(つまりどれくらい長生きできるか)については、軽症の弁膜症で心臓への負担が少ないときや、心不全・不整脈などの二次的問題が発生していな場合は予後は悪くありません。心臓の代償機構にまだ余裕がある場合の予後はさほどわるくありません。

ただし、うっ血性心不全、心房細動、血栓や塞栓たとえば脳梗塞などを合併した場合は、予後は悪化します。

心機能

心臓の筋肉があまり壊れるまでに手術することが安全のために勧められます

もちろん弁膜症が心臓にはっきりと負担になり、手術が行われた場合、予後つまり長期生存率は改善します。心臓のパワーが保たれているうちに手術を受ければ予後は良好です。ただし心臓の筋肉がやられ、パワーがあまり出なくなってから手術を受けた場合は、その分、予後は悪化することがあり、慎重な定期健診や外来治療などが大切です。一般に弁形成手術のあとの予後は弁置換術の予後よりも良く、またワーファリンなどの手間もかかりにくいため、手術の場合はなるべく弁形成が望ましいです。

利尿剤や心臓を守る薬などを長く使用しつつ、食塩制限、かぜなどの上気道感
染を予防し、発熱などに注意して感染性心内膜炎の予防が大切です。

長期予後を良くするために、手術を受けない場合はもちろんのこと、手術のあとでも定期健診を受けることが勧められます。弁形成術や生体弁(ブタやウシの材料でできた人工弁)の術後はときどきの健診で大丈夫なことが多いのですが、機械弁(金属製の人工弁)の手術のあとや、心房細動がある患者さんでは術後にワーファリンのお薬を使うため、多くは毎月血液検査を受けて薬の微調整を行うことが安全のために大切です。主治医とよく御相談の上、その方に一番適した方針を立てることが勧められます。

弁膜症の手術後の注意点

手術によって弁膜症患者さんの予後は改善しますが、以下を注意することで安全性はさらに高まります

1.血栓や出血
QOL

いくつかの注意を怠らなければ手術後は長く活発に生きやすくなります

特に、機械弁でワーファリンを使っている場合。脳梗塞や脳出血がまれに起こり得ます。ろれつが回らない、手足が動きにくいなどのとき直ちに病院へ。

2. 感染性心内膜炎
発熱が続くときなど。心不全症状が伴うことも。抜歯や傷口に土や砂が付く状況(たとえばガーデニングなど)はとくに要注意。

3. 心不全
息切れや体のむくみなどがあるとき。体重が急に増えることからもわかります。

4. 人工弁機能不全
生体弁が長年経って壊れるときや機械弁に自己組織が増殖し動きを妨げるとき、心不全症状(息切れ、呼吸困難、むくみなど)が出ます。

健診

定期健診は大切で、結局は安全確保と時間節約につながります

こうした時には速やかに医師の診察を受けて下さい。それが安全安心につながります。また定期健診を受けることでこれらもより起こりにくくなります。弁膜症は簡単な病気とは言えませんが、治せる病気あるいは友達づきあいできる病気なのです。信頼できる医師・医療者とのチームワークがそのカギとなります。

補足1: 人工弁について

人工弁には金属でできた機械弁と動物組織でできた生体弁があります。それぞれ長所短所があり、その患者さんのライフスタイルやニーズに合わせて、十分な相談のうえ、最適のものを選ぶことが肝要です。最終的に決定するのは患者さんです。

■機械弁は耐久性に優れます
弁そのものは100年持ちますが、組織が弁に張りだ
SJM

機械弁の一例です。長持ちし高性能ですが、ワーファリンというお薬を一生飲む必要があります

す(パンヌス)としかしダメになることがありますので10~30年で入れ替えが必要なこともあります。

そのままでは血栓を造りやすく、脳梗塞や弁の故障の原因となるため、ワーファリンというお薬で抗凝固療法を一生行う必要があります。

病院によっても異なりますが、60~65歳以下の患者さんで使われることが多いです。

■生体弁は耐久性でやや劣ります
CEP

生体弁の一例です。ワーファリンは不要なことが多いですが、長持ち度は機械弁より劣ります


高齢者では15~20年持ちますが、若い患者さんでは10~15年程度。10代では10年かそれ以下というデータもあります。しかし血栓を造りにくいため、ワーファリンの薬は不要なことが多いです。

60~65歳以上の患者さんや、若い女性で将来妊娠・出産希望の方、あるいは激しいスポーツや労働を行う方などに用いられます。

補足2:今後の人工弁について

人工弁は機械弁、生体弁とも年々進化を遂げ、機械弁ではより高性能で血栓ができにくくなり、生体弁でもより高性能で長持ちするようになりつつあります。
それらに加えて、折りたたんだ生体弁をカテーテルや左胸の小さい皮膚切開で心臓のしかるべき部位に入れるカテーテル弁(略称TAVI(タビ))が実用化しつつあります。

現在のところ、大動脈弁狭窄症で高齢などのため心臓手術ができない方やリスクが高すぎる場合にTAVIが適応となります。今後は生体弁が長年たって壊れたときに、その中にTAVIを入れることで再手術を回避する、バルブ・イン・バルブという方法も使えるようになるでしょう。従来型手術と組み合わせたり最適のものを選択することでより安全できめ細かい弁膜症治療ができるようになるでしょう。


参考サイト: 心臓外科手術情報WEBの心臓弁膜症のページ

参考サイト: 心臓外科患者さんのためのワーファリン情報サイト ワーファリンについてのさまざまな情報が得られます

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項