佐々木典士さん・土橋正さんおすすめの映画!
2016年4月9日より公開中の映画『孤独のススメ』の初日イベントに、人気ミニマリスト2人によるトークショーが行われました。『ぼくたちに、もうモノは必要ない』の著者で編集者・佐々木典士さんと、仕事場に特化したミニマリスト、『モノが少ないと快適に働ける』の著者でありAll Aboutステーショナリーガイドの土橋正さんです。持たない人々・ミニマリストとは?
初回上映後のトークショーに登場した佐々木さんと土橋さんは、「徹底的に不要なモノをそぎ落とす」生活を実現されたお二人です。いまやすっかり認知度の高くなった「ミニマリズム」は、最小限のモノだけを持ち、自由に生きることを目指すライフスタイル。中には本当にギリギリまでモノを減らす人もいて、若い人を中心に、こうした持たない生活に魅力を感じる人が増えています。映画『孤独のススメ』はこんなお話
『孤独のススメ』は、ロッテルダム国際映画祭、モスクワ国際映画祭など世界各国の映画祭で高く評価されたオランダ映画です。家族を失い、厳格で孤独な生活を送る主人公・フレッドのもとにある日現れた、記憶も名前も持たない謎の男。フレッドと暮らし始めた男は、「持たない」がゆえに、次第にフレッドの暮らしを変え、心のわだかまり、しがらみをほどいてゆく――。原題でもあるマッターホルンの風景と、高らかに歌われる劇中歌「This is my life」に、じんわり胸が温かくなる物語でした!ミニマリズム・トークショーの内容をざっくり
トークショーでのお二人は、映画の感想をまじえつつ、「モノを持たない」ことの魅力を語ってくれました。佐々木さん(以下佐々木)
モノを捨て、ミニマルな暮らしをするようになってから気持ちが軽くなり、以前は苦手だった、人前で話すこともできるようになった。いろいろなことに挑戦する気持ちが湧いてきた。
「捨て方」って、親も学校も教えてくれない。でも、捨てるには「技術」が要る。簡単なところから始めるといい。減らしていって、残ったものが好きなもの、自分のテーマであることがわかる。
土橋さん(以下土橋)
本当にやりたいことをやるには、自分の心の声を聞くしかない。でもその声は、ノイズがあると聞こえなくなってしまう。モノは、何も言わないけれど光線のようなものを発しているように感じる。多くなるとそれがノイズになってしまう。私は仕事(文具コンサルタント)柄、たくさんの文具を持っていて、以前はそれらに囲まれて仕事をしていたが、次第に窮屈さを感じるようになった。ある時レンタルオフィスを利用して、そのモノのない空間の快適さに驚いた。以来モノを減らした仕事場で快適に仕事をしている。
しがらみから離れるために、持たない
お二人のトークは、モノをそぎ落とすことから、人間関係のしがらみから離れることに及びました。佐々木 人間関係もモノと同じ。友達がたくさんいるのはいいことだが、数が増えるほど、一人ひとりに費やせる時間は減ってしまう。僕は今は、人数ではなく多様性、いろいろな友達と付き合うことを心がけている。モノから始まって。人間関係や情報も整理できるようになったと思う。
土橋 僕は基本的に土日は空けておくようにしていて、誘われても、「その日はリラックスしたいので」と断ることがある。正直に言えば、関係がこじれることはない。そうして、休日の一人の時間に20~30分、音楽もテレビも消して空を見る時間を大切にしている。インプットもアウトプットもしない時間を持つことで、コンディションを整える。
特別インタビュー! ミニマリストの子供時代は?
トークショーの後、特別に時間をとっていただき、お二人のお話を伺うことができました!ガイド お二人のお年を伺っていいですか? ミニマリストはどんな子供時代を過ごしてきたのか、興味があります。
佐々木 僕は1979年、香川県生まれです。小学生時代は『少年ジャンプ』全盛期。ゲームに野球に、毎日遊んでばかりの子供でした。当時はバブル期で、ファミコンがスーファミになり、おもちゃでも家電でも新しい機能を持ついいものがどんどん出てくる。子供心にすごいなあと思った。子供の狭い目線から見ると、世界は常に進歩している、そんな印象を持っていました。
土橋 僕は1967年、東京の多摩ニュータウン育ちです。高度経済成長を肌で感じて育った世代ですね。休日には、よく外食したりデパートで買い物もしていました。消費を大いに楽しむ時代でした。一方で、人と違うことをするのが好きな、ちょっと変わった子供でした。クラシックギターを習ったり、自分だけ地元から遠い高校に行ったり。「直観」や「好き」を軸に物事を選んでいました。
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お二人とも、日本に活力があり、豊かさや将来の展望を確信できる子供時代を送られたのですね。でも、モノ=豊かさではないと気づいて、ミニマリストの道を選ばれたことは、お二人の年齢差とは関係なく、興味深いことです。
ミニマリストの恋愛・結婚は?
ガイド モノを持たないお二人の結婚観・家庭観は? たとえば、パートナーやお子さんがモノが捨てられない・お買い物が大好きなタイプだったらどうしますか?佐々木 人は違う時間軸で生きていると思います。僕自身も、5年前なら、ミニマリストなんて即否定していたと思います(笑)。今でもモノは好きですし、相手に自分のやり方を強制することはないと思います。でも、僕は持たないことで得たメリットがたくさんあるから、それを見せていくことで、わかってもらえればいいなと思います。
土橋 事務所ほどではないですが、自宅の私の書斎もモノを少なくしています。でも、私も家族に自分のルールを押し付けることは決してしていません。それぞれの価値観がありますので。ところが最近、下の子が急に部屋の整理をし出して驚いた。意外に親を見ているものなんですね。「こうしなさい」と言っても効果はない。後姿を見せるしかないですね。
文具のプロ・土橋さんの選び抜かれたバッグの中身。ポスタルコの書類ケース、 iPod touch、PHS、ポケットWi-Fi、外付けHD、万年筆ケース、スケジュール帳(高橋書店ラフィーネ、カバーはポスタルコ) 、小銭入れと財布、 赤い表紙はノート代わりに使っている月光荘のスケッチブック
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ミニマリストというと、ストイックで厳しい人たちかと思ってしまいますが、そんなことはありません。お二人とも、他人に対して、モノの多いことを責めたり、持たないことを誇ったりすることはないそうです。でも、その快適さを伝えるために、ブログや執筆、トークショーなどで活躍されています。
静かな時間を大切に
ガイド そんなお二人が大切にしていらっしゃるのは、何もない空間と同時に、「静かな時間」とおっしゃっています。佐々木 最初は、モノを減らしたくらいで自分が変わるとは思っていませんでした。でも、実際は、減らすたびに発見があった。モノのない空間は静か。ぼくの場合は、そういう空間になって初めてゆっくりコーヒーを味わったり、瞑想したりすることができるようになりました。
土橋 私は座禅はやりませんが、土日の「何もしない時間」がそれにとても近い気がしています。大量の文具というモノを扱う私にとって、何もない事務所は、ひとつひとつの文具としっかりと向き合うための大切な空間なんです。
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映画では、「謎の男」が現れたことによって、かたくなだったフレッドの心は徐々にほぐれていくのですが、それは、男が何も持たないがゆえに、フレッドの心を映し出す鏡のような機能を果たしたからではないかと思いました。我々にとっては、モノの少ない静かな空間が「謎の男」となって、自分自身を発見することを助けてくれるのかもしれません。
ガイド自身は、モノの少ない暮らしを心がけていますが、ミニマリストではありません。しかし、
「モノが少ない方が、自分のやりたいことや、考えがはっきりする」
というお二人のお話には、もろ手を挙げて大賛成。ミニマリズムのスピリットが若い人に広がっていくのは、とても素敵なことだと思いました。
佐々木さん、土橋さん、貴重なお話をありがとうございました。
『孤独のススメ』2013年オランダ
監督・脚本 ディーデリク・エビンゲ
東京・新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー