若者

なぜ若者は無鉄砲?

「無鉄砲」と言えば、夏目漱石の『坊ちゃん』が思い浮かびます。周りからはやし立てられると、二階から飛び降りたり、自分の持つナイフで自分の指を切ったりと、かなりの無鉄砲ぶりでした。

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

出典:『坊っちゃん』 夏目漱石

坊ちゃんと比べるのはどうかとは思うのですが、SNSなどに不適切な画像を投稿するなど、無鉄砲な行動をする若者が後を絶ちません。このような行動は、自らの行為を世間がどう捉えるかを想像ができないための「想像力の欠如」という考えもありますが、近年の研究では、若者独特の「脳の構造」と「生活環境」が関係していることが明らかになってきました。

脳が急速に発達する時期は「0歳から3歳」以外にも存在した!?

脳が急速に発達する時期は「0歳から3歳」までと言われ、これまでも3歳児までの教育が重要視されてきました。しかし、実は脳が急速に発達する時期は、他にも存在することが明らかになっています。

脳は経験によって書き換えることが可能です。これを「脳の可塑性」と言います。近年の研究により、「脳の可塑性」は青少年期にとてつもなく高くなる、ということが明らかになったのです。この時期の脳は柔軟であり、良い経験をさせてあげることで脳が大きく成長する可能性があります。

青少年期の脳の成長は「諸刃の剣」

若者

思春期はいろいろ経験できる時期

脳が大きく成長する時期が青少年期にもあるというのは、チャンスが増えて良いと思われるかもしれません。しかし、単純にそうとも言い切れないのです。神経学者の中でも、青少年期の脳の柔軟性・脳の可塑性は「諸刃の剣」と呼ばれています

脳の可塑性が高いおかげで、青少年期は果てしない可能性が満ちた時期にも、危険が一杯の時期にもなり得ます。好ましい環境に置いてあげれば素晴らしい成長を成し遂げることができるのですが、有害な環境に置かれると深刻なダメージを受けて、それが生涯続いていく可能性もあるのです。

近年起こっている「性の早熟化」と「結婚の晩婚化」

「青少年期というと何歳から何歳まで?」という疑問が生じるかもしれません。以前は青少年期はおおよそ13歳から22歳ぐらいと言われてきました。しかし、近年は性の早熟化と結婚の晩婚化により、青少年期が長くなってきています。

要因はいろいろあるのですが、大きな影響を与えていると考えられるのが「食事」や「光」といった生活環境の変化です。

思春期は脳内のキスぺプチンという化学物質によって引き起こされます。キスぺプチンに影響を及ぼしているのはレプチンやメラトニンといったホルモンです。
キスぺプチンはレプチンによって刺激され、メラトニンによって抑制されるという特徴があります。レプチンは脂肪細胞の増加によって増加し、メラトニンは光を受けることで低下します。

現代の若者は栄養状態が良いのでレプチンが増加し、パソコンやテレビの光を多く受けることでメラトニンが低下しています。つまり、近年の子どもは栄養状態が良いことと光を受けることが多いことで、思春期が早くなってきているのです

それに伴い、外的な性的成熟も低年齢化しています。精神年齢は幼いのに身体は成熟しているという、心と体のアンバランスが生じているのです。逆に、結婚する時期は晩婚化しており、青少年期は今では10歳から25歳と長くなってきています

子どもの脳はエンジンができた後にブレーキができる

若者の運転

若い時期は暴走に注意!

思春期になると、ホルモンの変化で大脳辺縁系が興奮しだします。ここは脳の中で情動をつかさどっている部分です。ここが刺激されると、うれしいときはより感情的に、落ち込むときはトコトン落ち込むようになります。仲間の意見や評価に敏感になり、刺激的で強烈な経験をしたいと強く思うようになるのです。これは心理学的に「刺激欲求」と呼ばれます。

自動車のエンジンにあたる大脳辺縁系はすぐに始動するのに対して、ブレーキにあたる前頭前皮質の自己制御領域はゆっくりと改良されていきます。青少年期の中ごろ、14歳から17歳になってくると、思考が大人らしく変わり始めるのはこのためです。

大人になると「自己制御力」を育成するのは難しい

思春期はブレーキよりエンジンが活発に働いているため、脳が暴走しやすい時期と言えます。子どもたちだけで群れると、さらに暴走しやすいこともわかっています。坊ちゃんが無鉄砲ぶりを発揮したのも、周囲に囃し立てられた影響も大きいでしょう。

このような脳の暴走を抑えるには、「自己制御力」を育成させることが大切です。自己制御力の育成は適切な時期に行わねばなりません。青少年期を過ぎてしまうと脳の可塑性が失われるため、育成することが難しくなるのです。

“鉄は熱いうちに打て”、青少年期に自己制御力を!

自己制御をつかさどる脳領域の発達パターンは、他の脳領域に比べ遺伝的な影響が少ないので、育成することが可能です。

青少年期は、まさに“鉄は熱いうちに打て”の時期。青少年期の自己制御力の育成が、子どもの将来の人格を決めると言っても過言ではありません。大人になっても自己制御力が育成されていない場合、ささいな誘惑に負けて、最悪人生を棒に振ることもあり得ます。

自己制御力を育成する「威厳ある子育て」

家庭

「威厳ある子育て」が理想です

自己制御は環境に影響を受けます。その中でも、自己制御を育てる最も大切な環境要因は、家庭とされています。子育てのやり方で、自己制御力の育成され方が異なるとされているのです。

ベストセラーになった『タイガーマザー』は独裁的な子育てです。独裁的な子育てでは、子どもは健康な発育を遂げないことが明らかになっており、多くの心理学者はトラの子育てに強く反対しています。逆に甘やかせすぎるのも良くありません。自由放任で子どもを喜ばせるだけではダメなのです。

良い子育ては、非常に温かく、厳しく、子どもをしっかりと支える。甘い親とは違い、子どもの行動に制限や基準を設け、独裁的な親とは違い、力ずくではなく温かく。子どもを見守り、足場を掛けてあげながら自立をサポートしていく……「威厳ある子育て」が理想と言えます。


■参考文献
15歳はなぜ言うことを聞かないのか? 最新脳科学でわかった第2の成長期(ローレンス・スタインバーグ著 阿部寿美代訳)

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