性暴力被害にあった子どもの異変に気づこう
すべての子どもは性暴力被害にあう可能性があるという前提で、子どもの様子を観察することが、早期発見につながります
性暴力とは、膣や肛門にペニスや指や異物を挿入されることの他にも、性器や胸などを舐められたり、舐めさせられたり、無理矢理キスされたり、服を脱がされて触られたり、その写真やビデオをとられたり、服の上から触られたり、性器を見せられたりすることを指します。性的な接触や強要は、すべて性暴力です。
性的な被害は、幼いと、自分に起こったことが何なのかわからない上、それを説明する言葉を持ちません。年齢が上がると、被害を受けたことを恥ずかしいと思ったり、自分が汚れてしまったと感じたりします。話すと親がショックを受けると思い、言い出せない子も少なくありません。被害を受けたことを、親に「怒られる」と思っている子もいます。
子どもの性暴力被害者の特徴
性暴力は多くが「顔見知り」からの被害です。それまでの信頼関係を利用して加害に及びます。そのため「好きな人、尊敬している人に、とてもいやなことをされた」ということは、子どもに混乱を引き起こします。「まさかこの人が、こんなことをするなんて」と、ショックのあまり、なかなか現実を受け入れられません。加害者との関係が壊れてしまうことをおそれて「なかったこと」にしようとしたり、自分が誰かに話すことで加害者が周りから責められたり、逆恨みされて更に酷いことが起こるのではないかと心配することもあります。「ふたりだけの秘密だよ」「誰かに言うと、君が恥ずかしい思いをするよ」と脅されたり、口止めされたりもしています。
見知らぬ人が加害者の場合、成人女性には「殺すぞ」などと脅し、恐怖で支配しようとする傾向にあるのに対し、子どもに対しては、まずフレンドリーに声をかけることが多いと言われています。不審な人には注意しましょうと親からも学校からも言われてきたのにと、自分を責める子どもも少なくありません。「あんなところに行かなければ」「ついていかなければ」「相手の言葉を信用しなければ」こんなことにはならなかったのにと、誰にも言い出せなかったりするのです。
子どもが性被害を受けたと知って動揺するのは、親として当然のことです。しかし、とっさに口にした言葉が、傷ついている子どもを更に傷つけてしまう(二次被害を与える)こともあります。
はじめて被害を打ち明けた時の相手の反応が、その後の回復を左右します。「悪気はなかった」では済まされない、今後の子どもとの関係を破壊してしまう「痛恨のミス」を犯さないために、基本的なことは頭に入れておきましょう。性被害を受けた子どもへの「不適切な対応・してはいけないこと」「適切な対応・親がすべきことと」をそれぞれ解説します。
【不適切な対応・してはいけないこと】
×「嘘でしょう!」「なんで、どうして」「子どもの落ち度を問う」
性暴力被害を知られまいとして、何ごともなかったかのように日常を過ごす子どももいますが、傷ついていないわけではありません
また、子どもは、自分を守れなかったことを悔いているので、「非難された」「怒られた」と感じてしまいがちです。「どうして私の子どもが、こんな目にあってしまったの」と怒りや悔しさや悲しみがないまぜになった親の混乱した様子が、子どもをさらに追い詰めることになります。
「あなたに隙があったのでは」「どうしてついていったの」などの、被害を受けた子どもの落ち度を非難する発言は最悪です。性暴力は「暴力」です。被害者の落ち度を問うことは、加害者を擁護し、加害者と同じスタンスに立つことになります。
裸
×「シャワーを浴びさせる・着替えさせる」「なかったことにする」
接触のある性被害直後の場合は、お風呂やシャワーは厳禁です。被害にあうと「自分は汚れてしまった」と感じるため、きれいにしたくなるものですが、そのままの状態で警察に行き、体液や加害者の服の繊維などの証拠を採取してもらいましょう。産婦人科にも警察からつないでくれます。72時間以内であれば、妊娠を防ぐための「緊急避妊薬」が使えます。その際の受診料は多くの場合、無料です。今、性犯罪の被害者が効率的にケアを受けられるワンストップセンターが各都道府県に設置されています。ワンストップセンターの多くは年中無休で24時間、訓練を受けたケアワーカーが対応し、警察や弁護士、産婦人科医や精神科医、臨床心理士などの専門家が連携して、被害者が何度も被害について語らなくて済む状況が整備されています。ですから、地域にあれば、利用するとよいでしょう。近くになければ、警察に行きましょう。
性犯罪・性暴力被害者のための ワンストップ支援センター一覧 (内閣府)
「犬に噛まれたと思って忘れなさい」などと、被害をたいしたことではないとか、なかったことにしたほうがいいとか言う人がいますが、性的な被害は、簡単に忘れられるようなものではありません。
忘れたつもりになっていても、心や体に不調が表れるものです。子どもの頃の性被害に、何十年も苦しみ続ける人は少なくありません。
【適切な対応・親がすべきこととは】
○「話してくれて、ありがとう」、「あなたは悪くない」と伝える
男子も性被害にあいますが、対処の仕方は同じです
性暴力は、加害者の問題です。加害者がいるから起こるのです。「あなたは悪くない」とキッパリ、はっきりと伝えましょう。とても大事なところです。
被害者がパニックを起こしたり、爆発的な怒りが出てきたり、気分が落ち込んでしまうのは「異常な状況での、正常な反応」だということを子どもにわかることばで伝えてあげましょう。強い感情がわき上がると、私たちは、自分で自分がコントロール不能になるのではないかという「恐怖」を感じます。でも、様々な感情を「しっかり感じる」ことが回復を早めますので「そうだよね、そう感じて当然だよ」と、共感して支えましょう。
○「聞きすぎない」
子どもの混乱が激しいのは、被害による傷が大きいということです。「誰に」「何をされたか」だけを簡潔に聞きましょう。詳しく裏を取ろうとする親も多いのですが、専門家ではない人が聞き出そうとすると、子どもの傷口を広げてしまうことが少なくありません。「いつ」「どこで」「どのように」は、なるべく聞かないようにしましょう。何度も聞かれていると子どもの記憶が混乱して、事件化したいと思った時に証言としての有効性が損なわれてしまいます。
「子どもの言うことを信じる」「加害者に対しての怒りを表明し、専門家につなぐ」
親は、それができれば十分です。
○「子どもが話したことをメモに残す」
子どもが語る「最初の話」が一番真実に近いと言われています。子どもが話したことは、必ずメモに残すようにしましょう。メモを取ると子どもが構えてしまう場合は、聞いた話の記憶が薄れないうちに、なるべく早く書き残し、聞いた日時もメモしておきましょう。ベストは、録音・録画しながら聞くことです。スマホのアプリを使うと簡単です。警察に届ける時に、それらを持っていきましょう。○「泣き寝入りしない」
性犯罪の暗数はとても多いと言われています。顔見知りからの被害の場合、事件を公にすることにためらう人は多いですが、被害者が泣き寝入りして得をするのは「加害者」です。訴えられなかったことに味をしめて、同じような事件を繰り返す加害者も少なくありません。「悪いことをした人が訴えられ、罰せられる社会」というのは健全です。被害にあった際の正当な手続きによって、「自分は悪くなかったのだ」と、子どもの自己評価が下がることも最小限に抑えられるでしょう。
大きな災害が起こると、被災地では性暴力が増えます。薄暗いところが多くなったりして死角が増えること、被災による被害が優先され、性暴力にあっても、被害者が言い出しにくい環境ができたりするからです。
子どもの様子に気を配り、大人たちが「性暴力は許さない」という確固たる姿勢を見せることが最も大切です。被害にあった子どもをそれ以上傷つけずに、回復を助けるために親がすべきことと、してはいけないこと。是非知っていてください。
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