2002ターボとE30M3の正統な後継モデルである
最もコンパクトなMモデルとして登場したM2クーペ。ボディサイズは全長4475mm×全幅1855mm×全高1410mm、ホイールベース2695mm。価格は770万円(photos/ BMW Group Japan)
“帰ってきた、ボクらのM”――。新型M2の試乗後、まず頭に思い浮かんだフレーズがそれだった。
どういう意味かというと、ボクら世代の“クルマ運転好き”にとって、BMW Mといえば、90年代に始まるE36時代、そして21世紀になってすぐのE46世代における、自然吸気ストレート6エンジンを積んだ、あくまでもコンパクトで、ストイックなスポーツクーペの“M3”こそ、そのシンボルだった。現代のように、ラグジュアリー志向の進んだ最新のMモデルは、確かにスゴいと思うけれども、ちょっと違うよな、と感じていた。
それが、どうだ。こんどの新型M2はサイズ的にも重量的にも、ほとんどE46M3と同じで、パフォーマンスはわずかに上回る。期待するなという方が、おかしい。
BMWだって、実はM2の発表に際して、同じようなアピールをしていた。今でもM3(そしてクーペはM4)は健在だから、さすがにE36やE46のM3後継とは言えなかったのだろう。もう少し時代を遡って、コンパクトさを強調する意味でも、そのうえターボエンジンであることを正当化する意味においても、新型M2は、2002ターボとE30M3の正統な後継モデルである、とまで言っている。
実際、カリフォルニア州モンタレー市郊外のラグナセカ・レースウェイで開催された国際試乗会の会場には、最新のM2と、先代にあたる1シリーズMクーペ(日本未導入)とともに、02ターボと初代M3が飾られ、これらがレーストラックでバトルする映像も流されていた。
迫力の佇まい。走り優先の装備を惜しみなくつぎ込んだ
エンジンには、BMWラインナップにおける35i用N55ユニット、つまり直噴3L直6シングルターボエンジンをベースに、専用トップリング付きピストンやクランクシャフトメインベアリングといったM4用コンポーネンツを組み込んでおり、さらには、オイルサンプカバーやサクションシステム、DCT用オイルクーラーを追加するなど、サーキットでの限界使用を見越したチューンナップが施されていた。
M4のように専用設計のクローズドデッキブロック(=S55ユニット)こそ使われていないが、専用エグゾーストシステムや、専用セットの7速DCT、M4用アルミニウム製軽量前後アクスル、アクティブMデフ、Mコンパウンド・ブレーキシステムなど、走り優先の装備を惜しみなくつぎ込んでいる。
M4用の前後アクスルをコンパクトな2シリーズクーペに押し込んだため、見た目には、どこか鬼気迫る力が宿っている。これこそ、Mバッジの真骨頂というべきか。3.0CSLを彷彿とさせる顔つきに、より膨らんだ前後のフェンダー、存在感も一際の19インチ鍛造ホイールとデュアルエグゾーストシステム、などなど、なるほど2シリーズでありながらも一目で“違う”と判る迫力の佇まいだ。特に、四肢の逞しさは尋常ではない。
停まって曲がって踏んでがリアルに楽しい
そのイメージはそのまま強烈な走りのインプレッションへと一直線に繋がった。乗り出してまず驚いたのは、乗り心地のよさだ。車体全体が硬く弾性のあるゴムでできているかのように、塊感が豊か。路面からのショックは足元で小気味良く瞬殺され続け、ドライバーにはまったく伝わらない。連続するちょっとした段差や凸凹の超え方が、あまりにもリズミカルで気持ちがいいので、これなら十分に、日常生活はもちろんのこと、長距離グランドツーリングカーとしても使えると思った。
もちろん、M2がその本領を発揮するのは、ワインディングロードやサーキットといった、スポーツカー用の特別な舞台。特に後者、レーストラックのようによりハードな舞台で、M2は抜群に優れた素性をみせつけた。
コークスクリューで有名なラグナセカ。コースへと飛び出してすぐ、ステアリングフィールの良さにぶったまげてしまう。とにかく、前アシの食いつきがすさまじく、しかも、その動きがドライバーの意識にあくまでも忠実で、かつ正確だ。思っただけ、切っただけ、早すぎず遅すぎず、ノーズが向きを変えてくれる。ゆるやかなカーブも、攻め込んだタイトベントも、急な車線変更のときでも、乗り手に伝わるクルマの動きは常にリーズナブルなシャープさを維持している。
だから、過ごした時間のぶん、ドライバーにはクルマを完璧にコントロールできているという自信がどんどん増していく。そして、走りはいっそう、アグレッシブな領域に達する。
かの難コースでも周回を重ねていくうちに、どんどん自信を持って攻め込んでいけた。後アシのスタビリティは柔軟かつ巌のように強く、しかもフロントは自在に動いてくれるから、思い通りにアタックできる。低回転域から溢れ出る豊かなトルクで力強く加速し、電気的な演出のないエグゾーストノートは耳に心地よく、シャープで軽やかなエンジンフィールと相まって、マシンと一体になっているという気分をさらに盛り上げる。
しかもブレーキのタッチも効きも、ハンドリングや加速以上に素晴らしいものだから、ペースは否応無しに上がっていく。停まって曲がって踏んでが、これほどリアルに楽しいクルマは最近、珍しい。初めてM3に乗った時の感動を、思い出させるに十分刺激的な経験であった。
惜しむらくは、日本仕様に3ペダル6MTの設定がないことだ。たしかにサーキットでは7DCTの方が早く走れるし、街中でもスムースな変速と効率でDCTに軍配があがるだろう。けれども、試しに乗ってみた6MTのM2は、3ペダルで操るにふさわしいサイズとパワーで、このうえなく楽しいスポーツクーペに仕上がっていた。M235iとM4にあって、最も楽しい肝心のM2に3ペダル日本仕様の設定がないなんて……。限定販売でもいいから、ぜひとも上陸させて欲しいものである。