「人参の皮は栄養豊富」は本当か?
人参は実より皮に栄養があると言われることがあります。なぜなら皮と実の間に栄養が多いからだと……。本当でしょうか?
『日本食品標準成分表 2015年版(七訂)』で調べてみました
『日本食品標準成分表』が2015年12月に改定されました。改定後は『日本食品標準成分表 2015年版(七訂)』その前のものは『日本食品標準成分表(2010年版)』でした。この人参のトリビアが生まれたのは、そのさらに1つ前の『五訂増補日本食品標準成分表』が出された際、皮付きの人参と皮なしの人参のカロテン(ビタミンA)の量を比べると皮付きの人参のほうが多かったことから、「実は同じなのだから皮の部分にカロテンが多いのだろう」という理論で広まった話でした。そこで、今回の改訂では「人参の皮」だけを使って検討した結果が掲載されました。
その結果は表の通り。 このように、前回までは皮むきの人参と皮つきの人参のカロテン(ビタミンA)の数値に若干の差があったので、「皮に栄養がある」とされていたのです。
しかし、今回の改訂で皮のみで検討した結果、皮も実も大差ありません。さらに本書には「試料による差が大きく、部位による違いは明確ではなかった」と記載されています。
前回は「差がある」とされていたのに、今回の改訂で「差がない」とされてしまったのはなぜでしょうか。明確に記されているわけではありませんが、α-カロテン、β-カロテンの実験につかう溶媒が変更になったため、今までの溶媒では溶けなかったカロテン類の残りが溶け出すようになったのではないかと思います。
このように、実験結果は人為的な問題以上に、個体差であったり、実験システムなどによって大きく結果が異なってしまうのです。そのため、いくつかの個体で実験をした平均値を掲載しています。
実を言うと、前回の『日本食品標準成分表』で皮と実のカロテン含量に差があるとの結果が出た際、「そこまで大々的に報道するほどのことかな? 」と思っていました。というのは、カロテンは赤い色素成分の名称です。スーパーで並んでいる人参の色の濃さはほぼ一緒に見えますが、2軒のスーパーで購入したものを並べてみると明らかに色の濃さが違って見えることもあります。人の目で見て分かるくらいなので、実験できちんと調べれば個体差は明白に数字に表れるはずです。また、本書の中に「どの栄養素も個体差があるので個体差を考慮して数字を利用すること」と書かれています。β-カロテンに限らず、いずれの栄養素においても、食品成分表を利用する場合には、食品ごとの個体差を考慮すべきなのです。
スーパーやコンビニエンスストア、レストラン等のカロリー表示等は「日本食品標準成分表」を元に計算したり、その商品で実験したりして求めています。このように個体差による差があることを頭の片隅に置いてあくまで「平均的な数字・目安」として上手に利用したいものです。
人参の皮はむいてもむかなくても栄養に大差なし、農薬の心配は?
「皮に栄養があるって聞いたから、あえて食べていたのに……」と残念に思う人もいるでしょう。人参に限って言えば皮をむいてもむかなくても料理によっては食感に大きな違いがないこともあります。皮をむいたほうが食感がいいとか、色が良くなるという料理に関しては皮をむいたほうがいいと思いますが、皮をむくと生ゴミが増えてしまうので、皮があっても料理の出来に影響を与えない場合は、皮つきのまま料理するのもよいかもしれません。最終的に皮をむく・むかないよりも「おいしく食べればいいじゃない? 」というところが重要だと感じます。
また、皮をむいた方がいい理由として、農薬が気になるからという人もいるかもしれません。人参に限った話をすれば、土の中で大きくなる野菜ですので、噴霧するタイプの農薬がかかる心配はありません。また、土に撒くタイプの農薬の場合は実の部分が吸い込んでいる可能性がありますが、吸い込んでいるとすれば皮のみでなく、中まで染みこんでいるはずです。しかし仮に染みこんでいたとしても人体には影響のないレベルです。安心して食べていただいて問題ありません。
おいしい人参・新鮮な人参の選び方
余談になりますが、おいしい人参の見分け方を記しておきます。- 茎の切り口が黒ずんでいないこと
- ヒゲが生えていないこと
- 細根(人参の横筋)が縦にまっすぐついている
【関連記事】
- 残留農薬の影響は?野菜や果物は洗剤で洗うべきか
- 「牛乳は身体に悪い」は本当?牛乳有害説の嘘と誤解
- イーストフード・乳化剤は何が悪い?不使用の菓子パンなら安心か
- コーヒーの健康効果・病気予防効果は本当か