子犬子猫の生後8週(56日)齢をめぐる法の現状
札幌市動物愛護条例の「幼い犬猫守る条項」を応援する緊急院内集会(C)PLY
とあるのです。これがなぜ注目に値するのか? それは、現状の「動物の愛護及び管理に関する法律」では、2012年の改正時に繁殖を営む人たちに対して生後56日未満の子犬猫の販売や展示を禁止するという文言が盛り込まれたものの、施行後3年間は45日(今年9月まで)、その後別に法律で定める日(実際はいつかはわからない)までの間は49日とするという緩和措置としての附則が設けられたために、折角法律本文に「56日」という数字が入っていながら、その効力を果たしていないというちぐはぐなことになっているわけです。札幌市の条例(案)は、それを積極的にとらえたものと言えます。動物を譲渡する場合は、原則として、離乳を終え、成体が食べる餌と同様の餌を自力で食べることができるようになってからこれを行うこと。ただし、犬及び猫にあっては、生後8週間は親子を共に飼養してから譲渡するよう努めること。
なぜ生後8週(56日)齢がそれほど大事なのか?
「たとえ捨て猫であっても生後2~3ヶ月で兄弟であると社会性がそろっており、里親もすぐ見つかります」山根義久氏/動物臨床医学研究所理事長 前日本獣医師会会長(C)PLY
西山ゆう子氏(日本および米国獣医師)
アメリカで24年間、日本では6年ほど臨床現場で診察をしてきた経験から言いますと、生後8週齢以前に母犬から離れた子犬は弱いです。早く離すほどワクチンを早く打たなければならず、しかし免疫はうまく反応しない。副作用が出たり、死亡したりすることもあります。また、伝染性疾患にも罹りやすく、下痢もしやすいです。この下痢は治すのがなかなかたいへんで、治らないこともあります。
入交眞巳氏(日本獣医生命科学大学獣医学部講師 獣医学博士)
犬の離乳期は7~10週齢くらいになりますが、その離乳期を通して子犬は母犬から多くのことを教わっています。たとえば、歯が生え始めた子犬が母犬のお乳にしゃぶりつくと痛いので、母犬は「やめなさい!」と多少きつく子犬にあたります。これによって子犬は大きな犬が強い態度で接してきた場合、ここでやめなければいけない、こうしなければいけないという対処法をすでに学ぶわけです。このことが他の犬とのコミュニケーションにも役立つのです。
「獣医師向けの雑誌で子犬猫を親から離す時期についてアンケート調査をしたところ、多くが生後60日が望ましいと答えています」青木貢一氏/獣医師 動物との共生を考える連絡会代表(C)PLY
太田光明氏(東京農業大学農学部教授 獣医師 農学博士/幸せホルモンオキシトシンが人と犬にいい影響を与える研究で知られる)
私たちが2007年に行った調査研究では、犬と暮らす一般の飼い主さんのうち79%が犬の問題行動を訴えているという結果が出ました。それだけの人が、ある意味、無理して犬と暮らしているということです。それを受けて、55組の犬と飼い主さんを対象に、30分間触れ合ってもらった後にオキシトシンを測定してみたのですが、23.6%にあたる13組しかオキシトシンが上がってきませんでした。残りの人たちにとっては、そこに犬はいるけれど、あまり大きなメリットはないと言ってもいいかもしれません。また、脳の中にはノルアドレナリンとセロトニン、そしてドーパミン(やる気を出す、点火の役目をもつ)という3つの大事な神経伝達物質がありますが、ドーパミン神経の発達にもっとも重要なのは社会化期にあたり、中でも生後8週齢は大事で、これを外してしまうとドーパミンがうまく出てきません。それによって犬らしい行動ができない、いくらコマンドを出してもなかなか反応しないというようなことがあります。
いかがでしょう。これだけ私たちには身近な問題であるのだということがおわかり頂けたことと思います。なにも絶対生後8週齢ということではなく、母犬から引き離すのは生後9週や10週ともっと遅くてもいいのかもしれませんが、少なくとも生後8週齢までは母犬と一緒にいさせるべきだろうという意味で、この日齢がキーポイントとなっているわけです。
札幌市の動物愛護管理条約(案)は全国の先導役となるか
「立法があってもやはりマンパワーがないとだめです。我々にも手の及ばないこともあるので、皆さんの活動を心から祈念します」松野頼久衆議院議員(C)PLY
福島みずほ氏(参議院議員 犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟事務局長 弁護士)は、「秋田県や埼玉県、神奈川県、いろいろな自治体がほんとうに変わってきています。国会でこそやれることをやり、国会の中でも8週齢が実現するように頑張っていきます」と言いますし、「法改正は5年に1度あり、再来年また改正作業に入るということで、今年1年が環境省のその準備をする期間にあたり、検討会なども立ち上げます。つまり、この1年が勝負だということです。その間にしっかりと環境省にも申し入れ、そしてまた国会議員の賛同者を広げるということが大事だと思っています」と高井たかし氏(衆議院委員 犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟)も言います。
こうした動物に理解を示す議員を中心に、国会議員を対象とした動物愛護の勉強会も開かれたりしています。賛同者の想いは1つ、「これを全国に広げたい」。
法律と条令との関係
ただし、法律面から言うと1つの壁が存在します。条例は法律の範囲内で作ることとされているため、ややもすると法律を超えた条例と受け取られてしまうのではないかという懸念があることです(専門的にはこのようなものを上乗せ規制という)。大屋雄裕氏(慶應義塾大学法学部教授)
1つには、札幌市の条例(案)の場合、「生後8週」というのは努力義務になっていて、義務となる法律とは真っ向から対立してはいないという点。もう1つは、市民や販売業者に対する周知の状況が優れており、調査研究というようなものも進行中である、または成果が出ているというような特有な状況があれば主張しやすくなると思います。最終的には法律の附則がアクティブになって、全国均一的に法律で生後8週(56日)齢の義務があるとなるのが望ましいと思いますが、そこにもっていくための手段としては、状況の進行、懸念の解消というものを証明していくことが求められるでしょう。
犬猫たちの命と健康を守り、共存するために私たちができること
「8週齢というのはほんとうに大事。他の地方でもどんどんやって頂きたいと思います。皆さん、是非応援してください」浅田美代子氏/女優(C)PLY
年々減少はしているものの、以前として10万1,338頭(平成26年度/環境省発表)という犬猫が殺処分されています。そんな中、秋田県では殺処分ゼロを目指した新たな動物愛護センターの建設が発表され、千葉県ではYouTubeの公式チャンネルで譲渡犬の動画を配信するなど自治体の取り組みにも変化が見られるようになってきており、ボランティアも活発に活動を行っています。しかし、保護された犬を飼ってくれる人がいなければ、ボランティアはパンクしてしまうことでしょう。より幼齢のほうが可愛いからと安易に子犬を買う人たち、そのほうが売れるからとリスクも気にせず売る人たちが後を絶たなければ事の改善も望めません。要は、私たち1人1人の意識が問題だということです。
犬は大きくなってからでも充分飼えます。ガイドの愛犬もそうでした。また、多くの人がより健康で、性格も安定し、しつけもしやすい犬と暮らしたいと思っているのではないでしょうか。だとすれば、目の前にある現状を一度考えてみてください。
最後に一言。やがて法がいろいろな面において望ましい内容にさらに改正されるとするなら、犬猫たちの命を守ることはもちろんですが、もう一方の側面として、結果的に犬の値段が高騰することに繋がらないよう、真摯な考えをもつブリーダーさんにまで影響しないよう慎重に考えて行動するべきだろうとガイドは考えています。
そしてもう1つ。生体を扱うペットショップはよろしくない=すべてのペットショップがよろしくないといったような風潮もままありますが、中にはブリーダーさん自身が経営する直販のお店もありますし、望ましくないペットショップであっても末端で働く人たちはそうでないという場合が多くあります。生体を扱うペットショップはほんとうによくないのか? 見聞きするだけではわかりませんから、ガイドは実際に働いてみました。
その実体験から得た感想です。若い人は動物が好きで夢や憧れをもって入ってきます。中には高齢の店員さんもいます。確かによろしくないという部分も目にしました。しかし、ペットショップはいろいろな面で結構きつい仕事の1つと言われることもある中で、特に高齢の方はなかなか辞めていきません。なぜなら、他に雇ってくれそうなところがないからです。彼らは生きるために、生活するために、働かねばなりません。時には動物愛護家のような人がやって来てはバッシングをして去って行くようなこともあり、末端で働く人は間に挟まれて苦しい思いをすることになります。視点を合わせ、改革すべきは人の意思や流通の仕組みであって、ペットショップで働く人ではありません。その点は、どうかご配慮頂きたいとガイドは思っています。
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