イヌの糖尿病
イヌの糖尿病を人間の糖尿病分類に当てはめてみると、少なくとも50%以上は1型糖尿病(LADAに相当)で、肥満もなく7~8歳以上で発症するのが通常です。更にリンパ球が膵島に侵入する免疫性のインスリン炎もあり、人間の1型糖尿病のマーカーである3つの抗体がイヌにもあります。つまり、膵島細胞(ベータ細胞はその内の1つです)、インスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD、ベータ細胞によって作られるタンパク質)に対する抗体です。LADA(緩徐発症成人自己免疫性糖尿病)は潜在的にこれらの抗体がありながら、中年以降に発症してゆっくりと進行するので2型と診断されやすいのですが、やがてインスリンが不可欠となる1型糖尿病です。イヌの場合は最初からインスリン治療になり、寛解することはありません。
次いで、高脂肪食や肥満による慢性膵炎から糖尿病になるケースが~28%もあると推定されていて、その他、副腎皮質や甲状腺等の内分泌器官障害や他の内臓疾患、グルココルチコイド等の薬物によるもの、更に妊娠糖尿病などがイヌの糖尿病です。いくら太ってもイヌの2型糖尿病は確認されていません。実はイヌだけでなく、モルモットやラット、マウスなども2型糖尿病にならないのです。
その理由は「2型糖尿病の膵ベータ細胞では何が起こっているのか?」で少し解説したアミリン(ベータ細胞がインスリンとともに作っているホルモン)のアミノ酸配列が、これらの動物では不溶性のアミロイドを形成しないものであること、あるいはアミロイドが形成されてもその毒性が弱いことが主な要因と考えられています。人間とネコとサルは仲良く2型糖尿病になりますが、それはまたネコの記事でご紹介しましょう。
糖尿病になりやすいイヌの血統
イヌの糖尿病の成因は上記のように多要素にわたりますが、1型糖尿病の遺伝的要因はリスクの高い犬種では血統的に調べられています。人の1型糖尿病を発症しやすくする特別な遺伝子は「ヒト白血球抗原」すなわちHLA抗原(クラスII抗原)にあります。イヌでも同じようにMHCクラスII抗原遺伝子が同定されています。この糖尿病感受性遺伝子と動物病院で糖尿病と診断されたデータとそのコントロール群から判断した糖尿病になりやすい犬種、なりにくい犬種が発表されています(Cuptill et al. 2003)。この論文のデータはオッズ比で表されていますが、オッズ比は糖尿病の多要因を整理して遺伝性を表すのにはいいのですが、一般人には直感的に意味がつかめない数字なので割愛して引用します。ミックス・ブリード(雑種)を基準として、ミックスから上になる程糖尿病リスクの高い犬種、下へいく程低リスクになります。
■ 糖尿病リスクの高い犬種
オーストラリアン・テリア
スタンダード・シュナウザー
サモエド
ミニチュア・シュナウザー
フォックス・テリア
キースホンド
ビション・フリーズ
フィニッシュ・スピッツ
ケアン・テリア
ミニチュア・プードル
シベリアン・ハスキー
トイ・プードル
ミックス ブリード(基準)
■ 糖尿病リスクが低い犬種
ビーグル
イングリッシュ・セッター
ラブラドール・レトリバー
バセット・ハウンド
ダルメシアン
ドーベルマン・ピンシャー
アイリッシュ・セッター
ボストン・テリア
シー・ズー
ブリタニー
オールド・イングリッシュ・シープドッグ
ノーウェイジアン・エルクハウンド
ゴールデン・レトリーバー
イングリッシュ・ポインター
コッカー・スパニエル
グレート・デン
ブルドッグ
シェットランド・シープドッグ
コリー
ペキニーズ
ジャーマン・シェパード
エアデール・テリア
ジャーマン・ショートヘアード・ポインター
ボクサー
■関連サイト
『犬用』のインスリンです