どんなに太っても、ベータ細胞をたくさん持っている人は2型糖尿病になりにくいようです。写真はイメージです(c)Kawai Katsuyuki

どんなに太っても、ベータ細胞をたくさん持っている人は2型糖尿病になりにくいようです。
写真はイメージです
(c)Kawai Katsuyuki

1992年に発表されたUKPDS(英国前向き糖尿病試験)で明らかになったのは、高血糖症状で2型糖尿病と診断されるときはインスリンを分泌する膵島ベータ細胞の機能が正常に比べて50%も減少していることでした。

不思議なことに、これはベータ細胞の実質の量(mass)が50%に減少していることを意味しません。2型糖尿病ではベータ細胞の実質の量が20~40%減少していると考えられていますが、それでもインスリン分泌が80%以上も減少してしまうのです。

まるでベータ細胞が少しずつ減っていくのが2型糖尿病の直接の原因ではなく、2型糖尿病の正体が別に隠れていて、ベータ細胞がどうしてもそれに負けてしまうようにも見えます。

そもそも、2型糖尿病の発病(ベータ細胞の機能低下のスタート)は診断がくだされる10年前、あるいはそれ以上も前から始まっていると考えられています。UKPDSでは2型糖尿病と診断されるときに既に約20%の患者に糖尿病網膜症が見られ、診断後の5年、10年と経つごとに直線的に右肩上がりに網膜症が増えていき、20年後には約80%の2型糖尿病者に何らかの網膜症の兆候が現れます。

この直線グラフを糖尿病網膜症ゼロの原点に戻してみると網膜症発症は2型糖尿病診断にさかのぼること5~6年前になり、網膜症の始まりは2型糖尿病の高血糖になってから5~6年後ですから、なんと私達は2型糖尿病と言われる10年以上も前から膵島ベータ細胞の機能を失い始めているのです。

医師も誰もその瞬間を見た人はいませんし、その本当の原因も明らかでなく、患者自身の自覚も全くありません。こんなありふれた病気がまだ大きな謎なのです。私はマニアックな2型糖尿病患者ですから、かねてから生活習慣病などという患者だけに責任を押し付けるような世の風潮を苦々しく思っていますので、改めて2型糖尿病の謎をまとめてみましょう。

2型糖尿病は進行する病気です

いつも同じスルホニル尿素(SU)薬を服用して問題なく経過している人を知っていますが、一般論として2型糖尿病は少しずつ進行します。当初は食事療法と運動療法でコントロールできても、やがて経口薬が処方されて、それが増量されても効果がなくなると薬のタイプが変わり、それが複数になり、注射薬療法のGLP-1受容体作動薬やインスリン療法へと移行します。インスリン導入には最後通告のように感じられて心理的に抵抗する人がいますが、必要なだけ補完するだけですから思い詰めたような覚悟は無用です。

基本的に2つの原因が関与しています。まず、肥満や加齢で体がインスリンにだんだんと反応しなくなるようになります。これがインスリン抵抗性と言われるものですが、生活習慣や遺伝が大きな役割を果たします。体がより多くのインスリンを要求するので膵島ベータ細胞はフル稼働して、健常者の2倍も生成してそれに応じるのですが、やがてそのペースに耐えられなくなって体か必要とするインスリンが相対的に不足しはじめて高血糖になり、2型糖尿病と診断されます。

逆の言い方をすれば、2型糖尿病になるにはこのインスリン抵抗性とベータ細胞の機能障害の両方が必要です。片方だけでは2型糖尿病ではありません。簡易にインスリン抵抗性を測るHOMA-R指数やインスリン分泌能を測るHOMA-β指数の検査があるのですが、実際の診断に使われることはありません。

ベータ細胞が機能している限り、インスリン抵抗性は生活習慣改善で好転するのですが、やがて経口薬の服用となって上記のような経緯をたどるのです。心臓病だってあまりにも負荷がかかれば壊れてしまいますし、ベータ細胞のオーバーロードは2型糖尿病患者にとってまるで勝ち目のないレースのように思えてなりません。

しかし、米国人のようなBMI 30以上の超肥満体でもベータ細胞が耐えて2型糖尿病にならない人が大勢いるのに、人口の10%以下の、あるグループの人達のベータ細胞は燃え尽きてしまうのはなぜでしょうか?

その謎は依然として解明されていません。誰でもそれが遺伝の成せるわざと考えますが、既に研究者たちは2型糖尿病に関与する遺伝子を70以上も見つけているのです。しかし、この遺伝変異があると必ず2型糖尿病になるというものはありません。各々が2型糖尿病のリスクを1.5倍にするといった程度です。ましてや、70以上の遺伝子の相互干渉ともなれば解読は不可能とさえ思えます。

2型糖尿病のベータ細胞の特徴

2型糖尿病は膵島ベータ細胞の量と機能の欠損が特徴とされます。健常者のベータ細胞と比べて~65%も減少しているという報告もありました。

その原因のトップはベータ細胞のアポトーシス(プログラム死)の増加です。日本では話題になりませんが、ベータ細胞のインスリン分泌のときにアミリン(amylin)というホルモン様のペプチドが同時に分泌されています。このペプチドは血糖を上昇させるグルカゴン分泌を抑制し、胃腸の動きをゆっくりとさせる、満腹感を高めるということで米国では1型糖尿病用に2005年から使われています。余談になりますが初めてGLP-1受容体作動薬のバイエッタ(一般名エキセナチド)を作ったのはこのアミリン類似体(商標Symlin)の製造会社(会社名もアミリン)です。

このアミリンはインスリン10~50モル(モル濃度)に対し1モルの割合で分泌されています。このアミリンが変性して不溶性のアミロイド(IAPP)になり、ベータ細胞内では毒性の強いオリゴマー(アミリンが9個位集まったもの)として蓄積し、ベータ細胞の細胞膜の外側ではポリマー(大きく固まったもの)になってサイトカインを出して炎症をひき起こしてベータ細胞の新生をミスリードすると考えられています。体内のアミロイドには多種類ありますが、アルツハイマー病の神経毒はアミロイドベータ、2型糖尿病のIAPPは膵島由来のアミロイド・ポリペプチドのことです。最新の研究では2型糖尿病患者は2倍の確率でアルツハイマー病になりやすいことが発表されていますが、体に起こるいろいろなアミロイド症がこの2つがリンクしていることを示しています。

素人考えでもインスリンを健常者の2倍も分泌していればアミリンもそれに比例して増えているのですから、アミロイドの毒でベータ細胞の破壊が進むのもやむを得ないと思います。インスリン抵抗性が強いとアミリン分泌の比率が大きくなるという研究もあります。

2型糖尿病のベータ細胞では高血糖や脂質異常による更なる増悪があります。いわゆる糖毒で、高血糖下で糖化タンパクが形成されて活性酸素を生じ、ベータ細胞に酸化ストレスを与えます。過酸化脂質も同じです。老化現象としてのベータ細胞のミトコンドリア・ネットワークの崩壊も2型の一因になります。

遺伝と環境の面で注目されているのは、胎児や新生児の段階でのベータ細胞の実際の量です。新生児から20歳までの成長期にベータ細胞数の増加がとても個人差が大きいことが報告されています。ある人は20歳でもベータ細胞の数が5億個程度なのに対し、多い人では20億個を超えています。これでは少ない人はわずかな肥満でも2型を発症しますし、多い人はベータ細胞の余力がたっぷりあるのでどんなに太っても2型糖尿病にはなりません。つまり、生れた時から少ない人もあり、成長期に十分に増えない人もあります。

日本人は体質的に2型糖尿病になりやすいと言われているのは、この生来のベータ細胞の数が少ないグループに属していると考えられているからです。新生児のベータ細胞数の個人差は母体の栄養状態の悪さや遺伝要因が影響するのは確かなようです。

また、ベータ細胞はもともとは長生きの細胞なのですが、糖尿病だけでなく高齢化によってやはり減少します。ヒトでは失ったベータ細胞の新生が可能なのですが2型糖尿病の人は内分泌細胞の構造的分化の欠失があってスムーズにいかないという研究もあります。

ベータ細胞への負荷をできるだけ軽くすることが最良のアプローチ

ベータ細胞の負荷を軽くするためにインスリンを2型糖尿病の診断直後、あるいは発病前の耐糖能障害の段階で投与する研究が行われていますがまだ結果はでていません。肥満手術で胃を小さくして小腸とつなげてしまうと2型糖尿病が治った状態になることが実証されていますから、その機序が分かれば手術なしに完治する道が開かれるでしょう。
関連サイト:糖尿病と肥満手術

どうも、2型糖尿病への道はいろいろなルートがあって人それぞれのようなのですが、いざ発病したらベータ細胞を正しい生活習慣を守って可能なかぎり元気に保つことです。ヘルシーな食事と適度な運動、適正体重の維持しかありません。

私は2型糖尿病になったのは自分の責任とは思っていません。しかし、発症してからの年月は自己責任です。医療にも責任は押し付けません。ポイントさえ理解できれば2型糖尿病と一生付き合うのもあまり苦にはならないようです。インスリン治療の2型糖尿病患者ですから血糖管理は難しいのですが、生活習慣と薬でコントロールできる血圧と血中脂質はうまく管理しています。合併症と無縁でいられるのは、これらの血管を守る効果が大きいのではと考えています。


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