2004年5月10日、糖尿病と診断されて入院した犬(スピッツ)が5日後に死亡したことで、東京地裁は獣医師に、飼い主に対して慰謝料など総額約80万円を支払うように命じました。裁判長は「早期にインスリンを投与すれば死亡は避けられた」と獣医師2人の過失を認めました。

ところで、アメリカの食品医薬品局(FDA)が『犬』用のインスリン製剤を初めて認可したニュースが2004年5月4日にあったばかりです。
アメリカでは犬にもヒト・インスリンを獣医師が使っていたのですが、犬にはヒトよりもブタ・インスリンの方が合うのです。イヌもブタも、インスリンのアミノ酸配列が全く同じなのです。
東京地裁の判事が糖尿病についてどの程度の理解があるのかは分かりませんが、わが国の獣医師の『糖尿病』に対する認識はかなり低いようで、『ヒト・インスリン』というと人間用の全てのインスリンと考える人が多いのには少々びっくりさせられました。

ヨーロッパ諸国では少なくとも2種類(レギュラーとレンテ)の獣医師用のインスリンが入手できます。ネコとウシのインスリンはアミノ酸が一か所しか違わないので、ネコにはウシ・インスリンが合います。
わが国ではどんなインスリンを犬に使っているのかを調べたところ、ほとんどがヒト・インスリン(糖尿病患者用)の転用でした。
最近は獣医師用のインスリンの輸入代行業者があるといった程度です。経口血糖降下剤も人間のものを使います。
これらは薬のオフ・ラベルの使い方ですから、行政も薬の卸業者も第三者のような態度をとっていて、全てが獣医師の自己責任とされているようなのは何とも気の毒です。

アメリカのデータでは200頭あたり1頭が糖尿病と見られていますが、イギリス糖尿病者協会によると100頭に1頭となっています。
日本でも肥満犬のスクリーニングをすれば膵炎からの糖尿病が少なからず発見できると思いますが、獣医師での簡易血糖測定器は普及しておらず、ほとんどが他臓器病のチェックのついでに血糖値も調べるようです。
日本の犬猫飼育世帯率は推計32%で、アメリカの60%には及びませんが増加中であることは間違いありません。マンション生活での運動不足と過食は飼い主と同じ課題ですから、犬猫の糖尿病ガイドラインも望まれる時代です。

なお、2016年現在では、ブタ・インスリンを原料にしたインスリン製剤(動物用)を(米)FDAがネコにも使うことを認めています。イヌにはウシ・インスリンを使うと45~65%の高率でそれを異物と認識して抗体が出来てしまいますが、ネコの場合はブタ・インスリンを使ってもその危険はないと判断されています。

■関連サイト
ペットの糖尿病、犬は1型糖尿病がほとんどです

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