子供のいない男性へのデリカシーのない言葉
職場や親戚から責められれば、男だってつらい。
40代半ばになった会社員のケンジさんはこう言う。
「仕事関係で知り合う人にも、学生時代の先輩にも、『その歳で、子どもがいないなんて、男としてはダメだ』『男として、社会人として一人前じゃない』と言われるようになって……。別に子どもはいらないと思って過ごしてきたわけじゃない。結婚して15年たつけど、できなかっただけなんです。争うのがイヤだから、へらへらと聞き流していますが、実ははらわたが煮えくりかえるような思いをすることが多々あります」(ケンジさん)
男だってつらいんだ、とケンジさんは憤る。
みんながみんな、そうだとは限らないだろうと、子どもがいない夫婦に尋ねてみると、これがけっこうイヤな思いをしているとわかったのだ。
男に問題があると思われることもある
夫婦のコンセンサスがとれていれば、他人にとやかく言われる筋合いはない。
「結婚して10年、子どもはいません。3年ほど前に夫婦で病院に行ってみたけど、原因不明でした。不妊治療をしようかどうしようか話し合って、結局、やめました。自然にまかせようと。ふたりとも働いているし、ふたりだけの生活を楽しんでいく選択肢もあるよね、と」(ヒロトさん)
ヒロトさん(39歳)は、夫婦の間ではコンセンサスがとれていると話してくれた。だが、周りはやはり、かまびすしいらしい。
「お互いの両親はわかってくれているからいいんだけど、親戚はうるさい。『お前に問題があるんじゃないか』『男たるもの、子どものひとりも作れないでどうする』って……放っておいてほしいですよ」(ヒロトさん)
「家庭を犠牲にした出世だ!」と、先輩に妬まれて
親戚だけではない。やはり仕事関係でつらい思いをすることもある。「こういう言い方をするといやらしいですが、正直、子どもがいないせいもあって仕事に没頭できるんです。そのため、同期の中では早めに昇進してる。でもそれを快く思わない人もいるみたいで、『あいつは出世はしているけど、家庭を犠牲にしての出世だから、人間として信用できない』なんて言っている。陰口叩かれてるぞと同期に言われたんですが、僕としてはどうしようもない。派閥争いに利用されている気はしています」(ヒロトさん)
彼は言葉を濁したが、つまりは、会社の中心にある派閥に、彼も所属していることになっており、もう一方の派閥にいる先輩社員がそうやって陰口を叩いている、ということらしい。
派閥になど入る気はなくても、上司によっていつの間にか「あっちの派閥の人間」と見られることはよくある。典型的な男社会のありようだが、それはそれなりに闘っていくしかない。
「仕事だけで判断されるならいいけど、子どものあるなしで人間性まで決めつけられるのは、非常に不愉快です。僕としては、じゃあ、仕事で成果を出してみろよと言いたいけど、それもいやらしい話ですしね……」(ヒロトさん)
独身のほうが気が楽だ、と思うほど、男たちは静かに追い詰められている?
「いっそ独身のほうが気楽かもしれません。結婚しているのに子どもがいない、というのは中途半端だと思われがちなんです。実際には、人にはそれぞれ事情がある。ほしいけどできない夫婦もいれば、子どもはいらないと判断する夫婦もいる。それはそれでいいんじゃないかと思うけど、世間はそれを許さない」(ヒロトさん)
ヒロトさんは、そう言ってため息をついた。
女も男も、それぞれ生きづらい世の中である。言いたいヤツには言わせておけと思えればそれでいいが、やはり他人の一言が胸に棘のように刺さることもある。それにしても、子どもの有無で人間性を判断されてはたまらない。
正直、男たちの社会でも、そうした誹謗中傷に近い現実があるとは、少し意外だった。それによって、あまり口には出さないが、彼らが深く傷ついていることも……。
自分の人生を尊重するように、他人の生き方も尊重する。そんな鷹揚さは今の世の中にはなくなっているのだろうか。
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