自分ではなく作品を見せる二宮和也
これぞ二宮和也という特異性の強い演技ではなく、作品そのものがじんわり胸に残る演技を見せてくれる彼。貴重な俳優はなぜ、それができるのでしょう。■俳優たちの個性を生かす
二宮和也の演技は前に出るものではありません。記憶に新しい『赤めだか』では、立川談志を演じるビートたけし、立川志らくの濱田岳、志の輔の香川照之など、個性豊かな登場人物たちが実に伸び伸びと自由に生きています。彼らとの対比で自分を印象付けるのではなく、溶け込むことで、視聴者に作品を届ける。俳優たちの個性を生かす彼の力に驚きます。
■どんなシーンにも溶け込んでしまう
どんな時代にも溶け込む不思議な魅力があります。『坊っちゃん』の明治、『オリエント急行殺人事件』『赤めだか』の昭和、変動する日本のどの時代も、力まず無理なく演じてしまいます。
また、誰が相手でも、自然な会話を見せてくれます。『坊っちゃん』では宮本信子演じる下女の清と、『フリーター、家を買う。』では、竹中直人演じる父親と浅野温子演じる母親と、『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』では笹野高史演じる校長と心を通わせます。ふと笑みがこぼれる日常を日常のまま映し出すことができる数少ない俳優なのです。
目立つ文学作品
作家の魂が感じられる文学作品を演じることが多い二宮和也。どんな作品を演じてきたのでしょう。『流星の絆』
東野圭吾原作、宮藤官九郎脚本のドラマ。両親を殺した犯人を追う三兄弟の切ない話ですが、彼らを囲むユーモアあふれる個性的な人物たちが生みだす独特の空気が、不思議と心地よい作品。その要が二宮和也の力みなく演じた有明功一です。憎しみも決意もユーモアも、極端に演じ分けない彼のセンスは絶妙でした。
『フリーター、家を買う。』
息子を演じさせたら、最高にうまい役者だと思います。「かあさん」「おふくろ」そう呼ぶ声は、どこかで聞いた声だと感じます。家族のことを思っているのに、どこか甘さがあって……、不器用で未熟な自分を一番わかっている主人公の誠治。彼の苛立ちを見ながら「まるで我が息子のよう」と感じた方は多いと思います。
『赤めだか』
演じた年齢は幅広く、落語家を志す少年の憧れや痛さをみごとに演じ、作品に奥ゆきをもたせました。物語のスピード、リズム、個性的な俳優陣にのまれることなく、立川談春を演じ、容易くない競演をサラッと見せました。
青春の清々しさが昭和という時代と重なった活気ある作品は、ナレーションにも好感が持て、何度も観たくなります。
『坊っちゃん』
理不尽で腑に落ちない、成り行きに合点がいかない、今も昔も変わらない青春時代の もどかしさに共感できます。歯を食いしばりながら腹を立てたり、奮起したりする痛快な風景をいい塩梅で感じられたのは二宮和也だからこそ。気持ちのいい一作でした。
ドラマを観たあと「いい作品だった」と登場人物の心情などを思い返すことが多い二宮作品。彼が、作品の持つ本質やパワーをきちんと受け止めることができているからだと思います。主役であっても脇役であっても、作品の味をしっかり伝えるさじ加減を知っている俳優は2016年、何を見せてくれるのか楽しみです。