2016年は「地方の魅力と新コンセプト」創造元年に
2015年は、2012年から続く訪日外国人の伸びが爆発的に伸びた一年だった。そしてついに日本発の海外旅行者数を上回った。「爆買い」という流行語まで生んだ中国人の倍増は想像以上だった。円安と数次ビザ解禁の効果だろう。円安はまだ続きそうな気配だが、2016年は少し踊り場を迎える気がする。その理由のひとつは、東京・京都・大阪等「ゴールデンルート」の飽和だ。政府や自治体は他の地方の魅力を訴え、より広域で訪日旅行者を増やそうと試みているが、旅行者のSNSで拡散されるゴールデンルートの魅力は、さらにまたそこへと流入を促している。そのため、ゴールデンルートを超える地方の魅力の創造とソーシャルメディアでの発信なしには、旅行者数は頭打ちになる。
旅の魅力が変わりつつある(写真は、西浅草のカオサンワールド)
そこで最近誕生してきているのが、地方の新コンセプトの日本の宿。今年、少しずつ注目を浴びるようになってくるだろう。その背景には、訪日外国人から見た魅力もあるが、それ以上に日本人の消費性向が変わりつつあるためだ。
これまで日本では、長年「誰もにへりくだってサービスする」ことが「おもてなし」だと解釈、表現されてきた。しかし、真の「もてなし」とは、「わかる人にわかる」ことが大切であり、わかる人が心地よい空間と時間であることが重要だ。むしろ「誰もに」であってはいけない。誰もにするのは「おもいやり」だ。
真の旅の愉しみとは、「宿が自分に合わせる」のではなく、「自分が宿に合わせる」ことで生まれ、様々な宿で出会う偶然や驚きこそが旅の醍醐味となる。そのことをわかるクリエイティブな世代や宿が増えてきている。
2016年、「わかる人にはわかる」テーマがソーシャルメディアで拡散され、ヒットの芽となっていく。そんな一年になるだろう。
そんな2016年、どんな旅館に人気が出てくるのだろうか。それでは、ガイドが勝手に選んだ「2016年ヒット予測ベスト5」をご紹介しよう。
第5位 まちぐるみ旅館
従来型の街の機能を囲い込む旅館に代わり、今後注目されるようになるのが「まちぐるみ旅館」。街全体を旅館に見立て、囲い込むのとは反対に、「旅館の機能を街全体へと展開し、生活と観光との結界をなくしていく」コンセプトだ。
その名が生まれたのは、高松市の「仏生山」商店街。銭湯である仏生山温泉を中心に、宿泊場所となる「縁側の客室」や「温泉裏の客室」をはじめ、飲食店や書店などを含めて街全体を旅館に見立てた。仏生山に生まれ、同地で設計会社を営む岡昇平さんの発想によって生まれた「まちぐるみ旅館」は、収容人数こそ多くないものの存在そのものがメディアとして発信できることから、今後、全国の町に飛び火していきそうだ。
例えば、篠山市(兵庫県)の「篠山城下町ホテルNIPPONIA」。城下町全体がホテルというコンセプトの下、町に残る年代ものの古民家を宿に再生し、“まちぐるみ旅館”を実現した。現在は、篠山の菊の花の名のつく4棟が営業中だが、2020年までに30棟を目指すという。再生の主体となっているのは一般社団法人ノオト。「集落丸山」を手始めに、古民家を含めた集落そのものを再生し「創造農村」をクリエイトする注目のチームだ。
あるいは、東京の谷中に登場した「hanare HAGISO」は、訪日外国人で予約が取れなくなることが間違いない。小さな駄菓子屋やコンテンポラリーなレストランまでが混在する下町に誕生した「まちぐるみ旅館」もメディアに登場する機会が増えそうだ。